[Analysis]

帯域の戦いはまだまだ続く

2007/06/11

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 「キャリアは従来のネットワーク帯域を拡大して確保する方向から、帯域を管理して必要量を確保しなければならない時期に来ている。需要の拡大に合わせていてはもう投資対効果を確保できない」と強調するのは、米ジュニパーネットワークス 戦略・企画担当副社長 ジュディ・ベニンソン(Judy Beningson)氏だ。同氏は、YouTubeの台頭など動画コンテンツが普及するのに合わせて、キャリアは従来のネットワーク帯域の運用方法を見直すべきだと主張する。

 ベニンソン氏によると、Web 2.0時代の到来により、ここ2年くらいでキャリアのネットワーク帯域に関する環境は劇的に変化しているという。まず、5〜6年前くらいから一般家庭へのブロードバンドの普及でWebサービスの利用量が増加し、それに合わせてキャリアはバックボーン回線の増強に励んだ。また、3〜4年前からはPtoPアプリケーションの利用量が急激に増加し、キャリアのネットワーク帯域を圧迫し始めたという。

 例えば、総務省の資料によると、DSLやFTTHなどの国内ブロードバンド契約者のトラフィックの総量は、2004年11月の323.6Gbpsから、2005年11月には1.5倍近くの468.0Gbpsに急増した。米国の2006年におけるトラフィックの内訳は、PtoPが54%で1位、2位はWebブラウジングで32%、3位はニュースグループで5%で、現在流行しているYouTubeなどの動画系アプリケーションは数%に止まっている(カナダのSandvine社調べ)。ベニンソン氏によると「2006年時点では、まだPtoPアプリケーションが1位だったが、2007年は間違いなくYouTubeが1位になるだろう。日本のキャリア数社にも聞いたが、同じくYouTubeが1位になりそうだといっていた」と指摘。「2006年には54%も占めていたPtoPがわずか1年でYouTubeに負けるのは驚異的な変化だ。インターネットではまだまだこのようなことが起こり得る」と警告する。

 このように急激に増加する動画コンテンツのトラフィックに対し、同氏は「管理」と「最適化」が必要だと主張する。動画コンテンツは1つ1つのコンテンツがテキストなどよりもデータ量が多いためネットワーク帯域を占有しやすいが、いまのところ、数分程度のコンテンツが主流のため、長時間占有し続けることは少ない。つまり、コンテンツが流れているときと流れていないときの“差が大きい”ので、トラフィックのピークに合わせてネットワーク帯域を拡大するのではなく、ピークと底の中間程度のインフラを用意し、トラフィックが許容範囲を超えそうなときにはコントロールするという発想だ。

 最適化の観点では、ネットワークを動画向けにチューニングするのはもちろんのこと、動画コンテンツではキャッシュが有効なため、キャッシュサーバを活用するのも必要だという。さらに、可能な限りエンドユーザー側にキャッシュサーバを用意することで、バックボーンにまでトラフィックが来ることなく、メトロネットワーク内などでトラフィックを完結させることもトラフィック分散には有効だとした。

 こういった取り組みを行うことで、バックボーン回線の増強への投資を抑えつつ、顧客満足度を下げないことも可能だ。動画コンテンツの利用量の拡大に合わせて、ネットワーク帯域を拡大していくだけでは、投資コストが右肩上がりで上昇していくのは容易に想像できる。

 しかし、ベニンソン氏はキャリアがいま一番考えなければならないのは、ビジネスモデルの改革だと指摘する。いわゆる、日本でもNTTやIIJなどのキャリアやプロバイダが懸念している「インフラのただ乗り論」の問題だ。こういった現在のインターネットビジネスにおけるビジネスモデルの問題点を真剣に議論し、キャリアの新しいビジネスモデルや収入源の確保を考えなければならないと警告している。

(@IT 大津心)

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