[Analysis]

「LUNARR」が失敗しないための3つの助言

2007/11/19

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 サイボウズ元社長の高須賀宣氏にお会いし、同氏が起業したLUNARRの説明を受けた。高須賀氏は、サイボウズの創業者であり、日本国内での成功に飽きたらず最先端のサービスが生まれ、新規技術の採用にも柔軟な米国市場での飛躍を念頭に、米国でLUNARRを立ち上げたようだ(LUNARR参考記事)。

 アプリケーション「LUNARR」は文書共有にまつわる問題点を的確に理解している素晴らしい着想である。実のところ、私自身、文書共有とコラボレーションと呼ばれるソフトウェアとの付き合いはかれこれ15年以上になる。もともとコラボレーションソフトの開発を行っていた立場からみると、日常的に使うメール機能に必要機能をうまくマッピングしている点がLUNARRの素晴らしさだ。

要素技術が出尽くしているコラボツール

 コラボレーション機能でこれまでに議論されてきたのは、共有文書/コンテンツに対するアノテーション(注記)、部分編集の委託、回覧、バージョン管理、世代管理、分岐、競合編集の阻止と統合、セキュリティ管理、権限管理、X.500シリーズなどのディレクトリ統合、サーバセントリックな共有、メールベースの共有、疎結合な共有などだ。

 私自身は表計算、ワードプロセッサー、ソースコード、CADなどさまざまなアプリケーションの特性も考慮した上で、クライアントサイド、サーバサイドなど、ありとあらゆる仕様の実装を検討してきた。

 しかしそうした機能は、一部のプロユーザーを除いて一般ユーザーに使われることはなかった。現在でも、例えばマイクロソフトの「2007 Microsoft Office system」の目玉機能の1つとして、コラボレーション支援機能のメニュー整理/強化がなされている。しかし、オフィス系ソフトにそうした機能が存在することを認知しているユーザーの方がまれであろう。理由は単純である。たまに使うには機能が複雑すぎるのだ。

 つまり、相手も使えなければ意味がないコラボレーション機能では、共同利用者にも使いこなせることが必須なのである。

そのためには

  • 職場でみんなが使っているなど、機能の高い利便性と不可欠性
  • 興味を引くコンテンツなどアクセスする動機があり、結果として習熟度が高まる仕掛け
  • 機能の単純明快性

が不可欠なのである。たとえばグループウェアの基本機能としてカレンダーとスケジュールが提供されるのも、それが、仕事の割り振りに不可欠であり、毎日参照され、そして、ホワイトボード、掲示板など日常のメタファーとして明快であり、習熟のためのアプリケーションとして最適なためである。

勝負はやはりノンコア

 さて、多人数が使うことを前提としたWeb時代のアプリケーションは、多かれ少なかれコラボレーションソフトウェアとしての側面を持つ。しかし、エンジニアと話しているといまだに高度な機能や多機能性を語り出す人が多い。しかし、考えて欲しい。その機能は想定ユーザーがすぐに使える機能なのだろうか? 使いたいと思う動機は明らかで、あるいは、エサは用意されているのだろうか? 習熟を促す利用頻度は維持できるのか? コラボレーションにおいては、コアとなる基本機能以外の仕組み/環境作りこそ重要なのである。

 いま一度冒頭のLUNARRに立ち戻れば、一見貧弱な機能に見えるのだが、その実、直感的なユーザーインターフェイスの中にドキュメント共有者のアクセス権管理、グループの形成、ドキュメントに関するコメントが、メールという使い慣れたメタファーで統一されている点が優れている。

 一方、メタファーは明確だが、アルファ版に関する限り少なくとも私の利用頻度は低調だ。あえて友人を招待し、慣れてもらいながらファイル共有するよりは、手っ取り早くメールにファイルを添付してしまった方が気が楽だ。つまり、必須性、コンテンツの誘因性がLUNARRは弱い。おそらく、特定コミュニティへの特化や、利用頻度の高い機能、他サイトとのマッシュアップ機能が必要になってくるだろう。

 年末にはマイクロソフトのOffice Live WorkSpaceもリリースされると聞いている。ゲームを除いて日本初のソフトウェアはなかなか成功していない。LUNARRそして高須賀氏にはその壁を打ち破ってユニークな切り口を持つサービスとして是非大成してほしい。

(イグナイトジャパン ジェネラルパートナー 酒井裕司)

[著者略歴]

学生時代からプロエンジニアとしてCG/CADのソフトウェア制作に関わり、その後ロータスデベロップメントにて、1-2-3/Windows、1 -2-3/Mac、Approach、Improveの日本語版開発マネージメント、後に本社にてロータスノーツの国際化開発マネージメントを担当後、畑違いのベンチャーキャピタル業界に転職した異色のベンチャーキャピタリスト。2005、2006年度 IPA 未踏ソフトウェア創造事業のプロジェクトマネージャ



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