オタク文化の「反復」、ITの「反復」Analysis

» 2008年05月07日 00時00分 公開
[垣内郁栄,@IT]

 社会学者の大澤真幸氏は近著「不可能性の時代」の中で、東浩紀氏の著書「ゲーム的リアリズムの誕生」を素材としながらオタク文化における「反復」のモチーフを説明している。記者は大澤氏の著作を読みながら「ITにも共通しているなあ」と思っていた。

 大澤氏はゲームやライトノベル、アニメなどのオタク文化の中で、「『反復』という主題がやたらと反復されているのである」と指摘し、「反復する時間の中に閉じ込められ、そこから抜け出すことができない、という主題が、作品横断的に、あまりに頻繁に登場するのだ」と説明している。例えばゲームであれば、反復する時間の中に閉じ込められたプレーヤーが何とかこの反復から逃れて、真の終わりに至ることがゴールになる。

 さらに大澤氏は「オタクたちを少し突き放した視点から眺めれば」としたうえで、「オタクたちのパフォーマンスそのものが、つまりオタクたちが語ったり書いたりしたことではなく、彼らの行為そのものが、反復という主題を反復していることが分かる」という。この説明からすぐに思い浮かぶのは、ある作品から派生したパロディ作品だ。アニメのあるキャラクターを生かして、別のストーリーの中で活躍させる。このような二次創作作品は数多く生まれていて、さらなる創作に結びつくケースも多い。

 「不可能性の時代」ではこのような反復のモチーフについて「オタクたちは、あるいはより広く(オタクたちを生み出した)現代社会は、終わることの困難に直面し、もがいるのではないか」と推察している。

 しかし、反復しているのはオタク文化だけではないだろう。IT業界で新しいテクロノジの誕生に立ち会うとき、まずは新鮮さを感じるが次には既視感を覚えることが多い。ひとつの典型はVMwareやマイクロソフトのHyper-VXenに代表されるような仮想化テクロノジだ。それぞれに先進の技術が詰め込まれているのは分かるが、仮想化の考え方自体は何十年も前のメインフレームが実現していた内容と大差はない。よって仮想化を展開するベンダによっては、「メインフレームの仮想化技術を活用した」ことを売りにすることもある。だったら、メインフレームを使えばいいのではないか、と思ってしまうのだが、オープン系サーバで仮想化を実現したのが新しいのだという。

 SaaSも反復といえる。メインフレームのダム端末から始まってクライアント・サーバ型、Webアプリケーション型と進化してきたアプリケーションの配信方法の最新型がSaaSだ。SaaSはざっくりといってしまえば、クライアント/サーバ型アプリケーションのリッチなインターフェイスや機能をWebアプリケーションで再現するといえるだろう。セキュリティ対策や集中管理性の向上を目的に導入されることが多いシンクライアント・ソリューションは、新しい時代のダム端末だ。やはり反復なのではないだろうか。

 NTTが意気込んでいるNGN(次世代ネットワーク)も、インターネット以前の通信ビジネスの反復を感じる。かつて電電ファミリーと言われた通信機器ベンダがNTTと一緒になってNGNを売り込んでいるのも既視感が漂う。

 記者はこのような反復に意味がないとは思わない。まったくのゼロから革新的な技術が生まれることはまれで、多くは反復を繰り返しながら、あるべき方向に進んでいくのだろう。ただ、そのあるべき方向(大澤氏の著書でいえば、「第三者の審級」、か)を指し示して、大きなビジョンを適切に発表できる人は多くはないように思う。

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