Analysis

SaaS、クラウド・コンピューティングの将来はバラ色か

2008/05/26

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 このコーナーでは、「SaaS」や「クラウド・コンピューティング」といった言葉で形容される動きを取り上げることが増えている。記者は米シトリックス・システムズが5月20〜23日に米国テキサス州ヒューストンで開催した「Citrix Synergy 2008」を取材したが、このカンファレンスでもSaaSやクラウド・コンピューティングがITの潮流として大きくクローズアップされた。

 『Does IT Matter?』『The Big Switch』の著者であるニコラス・カー(Nicholas Carr)氏は、同カンファレンスの基調講演で、歴史的な観点からITの今後を説明した。カー氏はITがPCの時代になって「コンピューティング・パワーの適用能力が民主化され、分散した。これが非効率につながった。クラウド・コンピューティングは、増加を続けてきたIT投資額を共有モデルによって下げることのできる初めてのチャンスだ」と話した。CPUパワーの上昇とブロードバンド化、そして仮想化技術による柔軟性の実現が、インストール型から集中サービス型へのITの移行を促していると、同氏は指摘した。

 こうした指摘自体はいまやそれほど新しいわけではない。記者には同じカンファレンスでSaaSやクラウド・コンピューティングへの動きを主に供給サイドの観点から紹介した、調査会社IDCの上席副社長兼首席アナリスト フランク・ジェンス(Frank Gens)氏の話のほうが示唆に富んでいるように感じた。

 エンタープライズITで今後大きな伸びが期待されるのは新興諸国を含む中堅・中小企業市場であり、この広大な未開拓地に踏み込みたいという(主に米国の)ITベンダの動機が、SaaSやクラウド・コンピューティングのサービスを後押ししていると、ジェンス氏は説明した。

 「主要ベンダはこぞって、今年中にオンライン・サービスへの本格的な取り組みを開始し、関連売り上げは3年半後に現在の3倍に達する。そのうち3分の2が中堅・中小企業だ」と同氏は話した。さらに米IBMなどのサーバベンダが今年中に、SaaSへのアクセスを前提とした業務処理ソフトウェアをインストール済みのサーバ機を出荷し始めるとし、これによって企業内に置くITコンポーネントでもシンプル化を実現しようとしていると話した。

 こうしたサーバベンダの動きは非常に面白い。「従来型の企業内ITかオンライン(SaaS)か」という二者択一ではなく、ハイブリッド的な形態を望むユーザー企業は多いだろうからだ。電子メールのような単機能的なアプリケーションはともかく、業務システムのオンライン・サービス利用には、システム相互のデータ連携やデータ・セキュリティなどに関する懸念に応える何らかの対策が求められる。

 供給サイドにおけるもう1つの大きなトピックは、アマゾンなど、従来型のITベンダ以外の企業の参入だ。サーバやストレージの運用効率や柔軟性を高める技術が広がったことで、外部からの参入が容易になり、SaaSやクラウド・コンピューティングのサービスのマージンを押し下げていくことが考えられる。

 SaaSやクラウド・コンピューティングの選択肢が増えることは、ユーザー企業にとってもちろん望ましいことだ。しかし、個々のベンダのレベルで見るとどうだろう。サービス自体のマージンの低さ、そして中堅・中小企業を対象とする際に避けられない料金の低廉化、参入ITベンダの増加による競争の激化、さらに外部からの参入によるマージンの低下――。こうした要因により、各ベンダは微妙なかじ取りを強いられるはずだ。最終的にはユーザー企業からの信頼に基づくこのビジネスの将来は、完全にバラ色とは言い切れない。

(@IT 三木泉)

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