激動する日本の会計基準[Analysis]

» 2008年10月14日 00時00分 公開
[大津心,@IT]

 いま日本の会計基準が激動している。従来より、日本や米国は独自の会計基準を用いてきたが、欧州を中心に世界113カ国で採用されている「国際会計基準(IFRS)」が国際標準となりつつあり、今年8月には遂に米国が「2011年までにIFRSを強制適用するか検討する」と発表した。そして、現在日本はIFRSそのものを採用する「アダプション」を先進国で正式表明していない唯一の国になっている。

 そもそも会計基準とは、投資家などが企業の業績を判断する際に、その企業の経営成績や財務状態を図るためのものさし。このものさしが異なれば、企業の業績の見え方も変わる可能性がある。例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループが先日発表した2008年3月期連結決算は、米国基準では5424億円の最終赤字だったが、日本基準の財務諸表では6366億円の黒字で両者の数値は大きく異なっている。グローバル社会となり、世界中の投資家が世界のあらゆる国や企業に投資している現状では、このものさしを世界的に統一することが望まれており、IFRSがその世界基準となりつつあるのが現状だ。

 前述の通り、日本と米国は従来よりIFRSと異なる独自の会計基準を採用していたが、昨今の状況を踏まえて、ここ数年IFRSへの歩み寄りを発表している。日本も2007年8月に「2011年6月までにIFRSとの主要な差異を解消する」とした東京合意を発表した。このように、「独自の会計基準を、時間をかけて少しずつ国際基準へ近づけていく手法」がコンバージェンスと呼ばれるものだ。一方、「自国の会計基準を一気に国際基準そのものに変更してしまう手法」はアダプションと呼ばれている。米国はアダプションに向けて動き出しており、まだアダプションを表明していない日本は世界に置いていかれている状況だ。

 このようにコンバージェンスを採用している日本だが、コンバージェンスを採用するメリットもある。まず、一気に会計基準が変わるわけではないので、混乱が少なくて済むという点だ。世界中で営業しているメーカーや商社であれば、すでにIFRSに準拠した会計システムを持っているだろうが、国内でしか上場していない企業などはアダプションをした場合には、かなりの負荷が予想される。日本版SOX法が適用されたばかりの日本では、この負荷に耐え切れないのではないかという声もある。東京合意で発表された2011年6月までにはまだ3年弱あるので、それまでに少しずつ変更していけば負荷が分散される。また、日本の場合、いまのところ2011年以降も数年間はIFRSと日本基準の両方の方式を認める方向であるため、さらに余裕があるようだ。

 他方、早急にアダプションを実施しないデメリットは、世界経済における日本の孤立、影響力の低下だ。先述したように、日本は先進国で唯一アダプションを表明していない国であることから、現状では海外の企業と財務状態を比べるためのものさしが違う。これでは、海外の投資家が日本市場を敬遠する要因となり得る。また、IFRSは世界各国の代表13名(現在日本人1名)で構成される国際会計基準審議会(IASB)で作成されている。しかし、このままでは日本人構成員がいなくなる可能性もある。アダプション採用を表明すれば、日本のIASBへの発言力も増すだろう。

 いずれにせよ、2011年まで日本では会計基準の変更が続くことは間違いない。その一環として、2008年4月からは日本版SOX法の適用が始まり、 2009年4月にはSIerなどの受注ソフトウェア開発業者に工事進行基準が適用される予定だ。このような状況に対してベリングポイントエグゼクティブアドバイザー川野克典氏は、「いま日本企業の経理部門は大変なことになっている。内部統制対応や相次ぐコンバージェンス対応、決算早期化の三重苦だ。この問題はもはや経理部門の自助努力だけでは吸収し切れない。経営問題として、経営陣が本気で取り組むべきだ」と強調した。

 一方で川野氏は、経営陣の理解があるという前提で「ただし、必要以上に恐れる必要もない。日本はコンバージェンスを採用しているので、まだ時間がある。逆にいえば、コンバージェンスに合わせることができれば、3年後にはIFRS準拠になり得るのだ。今後数年間は会計ソフトのバージョンアップや慣れない仕事が増えるかもしれないが、アダプションと比較したらまだ対応可能な範囲だ。ITやコンサルタントなどを活用して乗り切ってほしい」ともコメントしている。また、会計士がコンバージェンスのための勉強会を開くなど、リードしていく動きもあるようだ。

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