読者調査結果

@IT読者調査結果:情報マネージャ/ITアーキテクト編(2)
〜モデリングの現状と課題とは?〜

小柴 豊
アットマーク・アイティ
マーケティングサービス担当
2005/2/26

 アプリケーション開発から業務プロセス改善、企業戦略構築に至るまで、いまや多くの領域で“モデリング”がキーワードとなっている。組織やシステムの構成/フローをモデル化して分析・設計を行うモデリングは、どの程度浸透しているのだろうか? 本稿では、@IT情報マネジメントIT Architectフォーラムが合同で実施した読者調査の結果を紹介しよう。

モデリングの実施状況

 はじめに読者の勤務先におけるモデリングの実施状況を尋ねたところ、「モデリング手法が標準化され、全社的に実施している」のは、回答者全体の1割未満にとどまった(図1)。その一方「組織的な取り組みはないが、個人的に実施している」「一部のプロジェクトで試験的に実施している」との回答は、それぞれ約3割に上っている。“まだ社内でオーソライズされていないものの、有志によるボトムアップやパイロット・プロジェクトを通じて徐々に浸透している”のが、一般的な企業内モデリングの現状といえそうだ。

図1 モデリング実施状況 (N=305)

現在使用しているモデリング手法/表記法の多くはOOとDOA

 続いて業務でモデリングを実施している読者に、現在使用しているモデリングの手法/表記法を尋ねた結果が、図2だ。オブジェクト指向(OO)分析/設計の標準モデリング言語「UML」がトップに挙げられたのに加えて、データ中心アプローチ(DOA)の「DFD/ER図」使用率も、およそ6割に達している。現時点では、モデリングに際してOOとDOAを併用するプロジェクトも多いようだ。

図2 使用しているモデリング手法/表記法 (複数回答 n=244)

UMLの活用範囲はシステム企画段階の手前まで

 ところでUMLは、システム開発のどのような側面で活用されているのだろうか。現在UMLを使用している読者に尋ねたところ、該当者の大多数が「システム分析/設計から実装工程で使用している」または「要求分析段階から使用している」と答えている(図3)。最もユーザーの立場に近い「システム企画段階」の手前までは、UMLの活用範囲が広がっている様子が分かる。

図3 UMLの活用状況 (UML活用者 n=178)

UMLモデルはドキュメントとして採用されにくい

 次にUMLのドキュメントとしての利用状況がどうなっているのか、見てみよう(図4)。利用者の73%が「UMLモデルはドキュメントの一部として使える」と答えているものの、現時点で「全面的にドキュメントとして採用している」のは、12%にとどまった。読者がUMLモデルをドキュメントとして生かし切れない背景には、どのような問題点があるのだろうか?

図4 UMLのドキュメント利用価値 (UML活用者 n=178)

モデリング業務の課題はエンドユーザーとのコミュニケーション

 続いて現在のモデリング業務に関する読者の問題意識を自由回答形式で尋ねたところ、読者からのコメントは大きく次の2種類に分類できた。

  1. プロジェクトチーム内の課題
  2. エンドユーザーとのコミュニケーション課題

 まず「1. チーム内の課題」としては、

  • モデリングスキルのあるメンバーの不足
  • モデリングを行うメンバー間の粒度/視点のバラツキ
  • 安価で使いやすいツールが見つからない

といった内容が挙げられた。これらは確かに重要な問題であるが、トレーニング機会や予算が確保できれば、解決できる可能性は高い。

 一方で「 2. エンドユーザーとのコミュニケーション」には、もっと根の深い問題が潜んでいるようだ。関連するコメントをいくつか引用しよう。

  • エンドユーザー(業務ユーザー)にモデルを読んでもらう/理解してもらうのが難しく、結局モデルのエッセンスを文章化しなければならない
  • 素人顧客にも平易に理解できるものでないと、結局同じ内容のものを手作業で書き直すことになってしまい、コストが増大してしまう
  • ビジネスモデルを検討している人々は、UMLなどの存在をまだ知らない。モデリングは文系の人にもっと使ってもらうべきテクニックではないかと思う
  • 官公庁の担当者にユースケース図を見せても、何の役にも立たない。こんな分かりにくい資料では無意味といわれる
  • 表記法としてエリクソンとペンカーのUML拡張など試してみたが、十分分かりやすいものにはならず、特に企業のモデルを可視化して経営者や管理者に見てもらえるにはまだまだ工夫が必要

 こうした声を聞くと、先述した“UMLモデルがドキュメントとして全面採用されにくい理由”が、実感として理解できる。エンドユーザーの理解度が低い現状で、UMLドキュメントを納品することの困難さは、想像に難くない。

今後のモデリング活用目的は分析用途

 次に読者が今後どのような目的でモデリングを活用したいと思っているのか尋ねたところ、「業務プロセスの分析/リエンジニアリング」および「ユーザーの要求分析/要件定義」という分析用途に、多くの回答が集中した(図5)。

図5 今後のモデリング活用目的 (モデリング実施者 n=244)

 しかし、より上流の工程におけるモデリングの適用は、上述した“エンドユーザーとのコミュニケーション課題”と正面からぶつかるだけに、この課題の解決なくしてモデリングの高度活用はあり得ない。最近ではエンドユーザーの分かりやすさにフォーカスした新たな表記法なども提唱されているが、今後ビジネスマンとエンジニアの認識を統一できるような、モデリング手法の一層の進化が望まれる。

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     最後に、読者のUMLモデリング・ツール利用状況を紹介しておこう。マーチン・ファウラー氏も愛用のスケッチツール「Visio」、無償版も提供されている国産ツール「JUDE」、UML本家筋の「IBM Rational」が、現在の利用率トップ3ツールとなった(図6 緑棒グラフ)。

    図6 UMLモデリング・ツールの利用状況 (UML活用者 n=178)

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    調査概要
    調査方法 @IT情報マネジメント/IT ArchitectからリンクしたWebアンケート
    調査期間 2004年11月17日〜12月15日
    有効回答数 305件


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