ブランド(ぶらんど)情報システム用語事典

brand

» 2009年11月26日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 企業や製品などを表す商業的記号のこと。狭義には、特定の企業や製品を同種・類似のそれと識別するための名前・言葉・図像・音声・デザインなどの記号表象であり、広義にはそれら表象と、それによって顧客の心に想起される製品・企業に対する印象や感情、評価の総体をいう。

 ブランドは顧客や利用者が製品やサービスを選択する際に重要な指標となるもので、顧客が当該商品ジャンルの専門知識を欠いている場合や機能性では差がないコモディティ製品を選定する場合には購入品決定の決め手となることも多く、さらにはブランドが消費者の購買意欲を高めることさえある。そこで企業は製品選択で有利となるように製品・サービスそのものの機能や品質に加えて、宣伝広告や広報活動、パッケージデザイン、顧客接点における雰囲気作りなどを通じて、ブランドに“良いイメージ”を植え付ける活動に力を入れている。このようなブランド育成活動を「ブランディング」という。

 ブランディングにおいては競合ブランドとの関係を考慮したブランドポジショニング戦略やマインドシェアの獲得も重要だが、首尾一貫したメッセージの発信とそのメッセージに合致する商品性や使用体験の維持といった“顧客に期待を裏切らない”地道な活動が求められる。顧客の信頼を得て、強いブランドが確立できると、企業はブランドロイヤリティによって売り上げを安定化できたり、競合製品よりも高い価格を設定できる(価格プレミアム)ようになったりと、数々のメリットが享受できる。このような確立された優良ブランドは企業の重要な無形資産と見なされる。このようなブランドの資産性を「ブランドエイクティ」と呼ぶ。

 ブランドには3つの機能があるとされる。第1の機能は「識別」で、自社製品がどのジャンルのどんな製品か、そして他社の同種製品と異なるものであることを認知してもらうための機能である。「ほかでもなく、わが社の製品である」という出所証明といえる。

 第2の機能は「保証」である。提供する製品・サービスの品質や機能がある水準にあることを示す機能で、顧客はブランドを見ただけで「優れた品質の高級品」であるとか、「品質がそこそこの廉価製品」といったことが理解できる。また、粗悪品・不良品などに対する責任の所在を明確にするものでもある。これは買い手に対して「安心」「信頼」を与える機能といえる。

 第3の機能は「意味象徴」で、これはそのブランドが付いた製品を所有・利用する人の社会的地位や価値観を表すものとして作用する。特に当該ブランドが持つブランド連想が好ましい意味合いを持ち、多くの人に共有されている場合に強く発揮される。例えば、社会的に一定の評価を受けている有名ブランド品を贈答用に選べば、送り先にもその意図を理解してもらいやすい。あるいは「持っている」「使っている」というだけで、所有者・利用者が心理的充足を得ることもある。この域に達したブランドは同種の製品よりも高い価格で(あるいは高いからこそ)売れるようになる。

 ブランドという言葉は、古期フリジア語の「brand」、古期高地ドイツ語の「brant」、古期スカンジナビア語の「brandr」などに由来するとされ、もともとは家畜の所有者を示す「焼き印」のことをいった。中世になると欧州では酒や刀剣、陶器などに作り手を表すブランドが付けられるようになったという。

 19世紀後半、欧米ではマニュファクチャリング技術の発展によって大量生産が可能になると、製品と製造者を結び付ける手段としてブランドが広く用いられるようになった。さらに20世紀半ばを過ぎるころから製品の品質や特性、あるいは製品とは直接関係のない物語性を表すもの??消費者とのコミュニケーション手段として、そしてブランドロイヤリティ(カスタマロイヤリティ)という性質を有する無形資産としてのブランドが意識されるようになり始めた。

 今日的な意味でブランドとは、顧客(潜在的顧客を含む)が企業と商品に対して感じる“認知や記憶の総体”である。近代言語学/記号学が言語や記号を「意味するもの」(signifiant)と「意味されるもの」(signifie)の両面からなるものと説明するように、ブランドも商品名やロゴ、製品そのものといった“具体的実体”と、認知や評価、解釈などの“心的状態”が不可分に結び付いたものといえよう。この心的状態の内容は、ブランドが持つある種のスタイル、存在感、価値観、企業理念、コンセプト、雰囲気といった簡単には説明できないものの複合体であることが多く、ブランドのとらえ難さの要因となっている。

 ブランドは心的存在としての側面を持つため、人々の間に伝播する。1つのブランドに対して多くの人が共通した心的状態を持つようになると、そのブランドは社会的な存在となる。これが現代においてブランドが重視される大きな要因の1つである。

 ブランドを示す記号表象??すなわち、社名・商品名、シンボルマーク、ロゴタイプ、キャラクター、色彩(イメージカラー)、キャッチコピー、ジングル(サウンドロゴ)、パッケージデザインなどは「ブランド要素」と呼ばれる。これは一般に商標法、意匠法、商法、不正競争防止法などによって法的保護の対象となる。

 ブランド要素は企業側が直接操作できるものであり、ブランディングを行う際には重要な対象だが、ブランド認知の面からいえば頻繁に変更することは好ましいとはいえない。ただし、社名やロゴの変更のタイミングで大規模なキャンペーンをすることで認知を高めるという方法もある。また、ブランド要素は社名と製品名、ロゴとイメージカラーというようにそれぞれの組み合わせが一体のものとして認知されていることがあるので、ブランドの統一感を失わないように調整していく必要がある。

 多数の商品を有する企業のブランドはしばしば、階層的に体系化される。例えば、個別の製品を示す「製品ブランド」、製品群をまとめた「ファミリーブランド」、社名がブランド化した「コーポレートブランド」などである。こうしたブランドの階層構造を「ブランドアンブレラ」と呼ぶ。

 こうしたブランド区分とは別の分類として、大手メーカーが製造して広域(全国)に流通させる「ナショナルブランド」、スーパーマーケットなどの小売事業者が独自に製造した(あるいはOEM提供を受けた)製品に独自のブランド名を付ける「プライベートブランド」がある。このほか、地域の特産品に地名などを付けた「地域ブランド」がある。また、「機能ブランド」と「官能ブランド」という類別も登場している。

参考文献

▼『図解 ブランドマネジメント』 榛沢明浩=著/東洋経済新報社/2001年9月

▼『ブランドは広告でつくれない??広告vs PR』 アル・ライズ、ローラ・ライズ=著/共同PR=訳・監修/翔泳社/2003年2月(『The Fall of Advertising and the Rise of PR』の邦訳)

▼『ブランドギャップ』 マーティ・ニューマイヤー=著/アラヤ=訳/宇佐美清=監訳/トランスワールドジャパン/2006年12月(『The Brand Gap: How to Bridge the Distance Between Business Strategy and Design』の邦訳)

▼『かくれた説得者』 V・パッカード=著/林周二=訳/ダイヤモンド社/1958年6月(『The Hidden Persuaders』の邦訳)


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