コア(こあ)情報システム用語事典

core

» 2009年11月30日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 ジェフリー・A・ムーア(Geoffrey A. Moore)が示した業務分類の1つで、競合他社との差別化要因となる企業活動のこと。自社の新たな競争優位点を作り出すイノベーションを実現するために積極的に経営資源を投入すべき業務領域である。

 米国のマーケティング・コンサルタントであるムーアは著書『Living on the fault line』で、企業が行う業務を「コア」と「コンテキスト」に区分した。株主価値経営をテーマにした同書では、コアは「株価の上昇に結び付く業務」と説明する部分もあるが、より一般的には「企業競争力の源泉となり、競合他社との差別化をもたらす要因」と定義される。コアとコンテキストはどちらも企業にとって必要なものだが、資金・人材・時間・マネジメント労力の投入について異なった扱いをすべき存在であり、それを識別してうまく組み合わせていくことが重要となる。

 コアは競合他社に対する、長期的な(あるいは将来的な)競争優位をもたらす要因となるものである。競争優位性は一般に企業の収益を向上させるが、コアという概念は競合他社との差別化要素になるか否かにポイントがあるのであって、直接に収益性で測られるものでない。

 コアは永続的な存在ではない。競合他社の模倣や追随によってキャッチアップされたり、技術進化などによって品質やスペックが市場の要求水準を超えてしまったり、顧客が飽きを感じたり、トレンドが移り変わったりすることで、イノベーションはいずれ中立化され、コアは差別化する力を失う。するとコアはコンテキストへと移行する。企業内には数多くの(場合によっては業務の大半を占める)コンテキストがあるが、それらのほとんどはかつてのコアである。

 コンテキスト化したばかりの業務は新規のコア業務よりも収益性が高いかもしれないが、コンテキストは次第に利益率が低下していくため、コアへの投資を怠るといずれ企業存続のための収益が生み出せなくなる。したがって、コアはコンテキストよりも戦略的に重視すべき存在とされる。

 コアとコンテキストの区分はあらかじめ決まっているものではなく、企業の差別化戦略によって変わってくる。すなわち、どの事業領域・業務活動で他社との違いを出していくかを決める――コアを定義することで、コンテキストの範囲が定まる。

 ムーアのいうコアはしばしば、コアビジネス(中核事業)やコアコンピタンスと混同されるが、それぞれ異なる概念である。コアとコアビジネス、コアコンピタンスは一致することもあるが、一致しないこともある。

 コアビジネスは多角化した企業において技術ないし資金の源泉となっている事業を指す。これは差別化の源泉という視点で定義されるコアとは必ずしも一致しない。コアでなくなる=差別化できなくなった事業がコアビジネスである場合――すなわち、競争力のない技術や製品しか生み出せない事業がコア事業という場合、その企業は深刻な事態に陥ると思われる。

 コアコンピタンスはその企業の得意分野を指すが、これも差別化要因にならない分野に強みを持つと考えた場合、業績や競争力、成長性などで大きな問題を抱えることになる。これはコモディティ化した製品を作る能力に長けている――という状態が典型例で、しばしば実際の企業に見られる。

参考文献

▼『企業価値の断絶』 ジェフリー・ムーア=著/高田有現、齋藤幸一=訳/翔泳社/2001年9月(『Living on the Fault Line : Managing for Shareholder Value in the Age of the Internet』の邦訳)

▼『ライフサイクルイノベーション――成熟市場+コモディティ化に効く14のイノベーション』 ジェフリー・ムーア=著/栗原潔=訳/翔泳社/2006年5月(『Dealing with Darwin: How Great Companies Innovate at Every Phase of Their Evolution』の邦訳)


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