コア/コンテキスト分析(こあ/こんてきすとぶんせき)情報システム用語事典

core/context analysis

» 2009年11月30日 00時00分 公開

 企業で絶え間ないイノベーション(注1)が行われるよう、その諸活動(業務・市場・製品など)の競争優位性や差別化能力を分析し、段階に応じた経営資源の再配分に関する指針を示すマネジメント・フレームワークのこと。

 自社が持つ貴重な経営資源(人材や資金)を投下すべき業務領域とアウトソーシング(注2)すべき領域を見分けるもので、米国のマーケティング・コンサルタントであるジェフリー・A・ムーア(Geoffrey A. Moore)によって提案された。IT分野ではシステムをスクラッチ開発で行う領域と、パッケージソフトウェアやSaaS(注3)、パブリッククラウド(注4)などを適用すべき領域を区分するツールとして用いられる。

 コア/コンテキスト分析では、企業内部における業務を競合他社との差別化を生み出すコア業務とそれ以外のコンテキスト業務に分ける。コア業務は時間の経過とともに差別要因としての力を失ってコンテキスト業務となるが、業務内容は変わらず、売り上げや利益をあげるという点では重要な役割を負っていることが多いため、一般に貴重な経営資源が集中投下されたままになっている。これがイノベーションに投資が行われず、競争優位や差別化能力が失われる原因であると考えたムーアは、成熟市場における活動であるコンテキスト業務から経営資源を引きはがして、成長が期待できるコア業務に配分し直すことを推奨した。ここで、企業内の業務(市場・製品など)を資源配分を計画的・戦略的に行うためのツールとして用いられるのがコア/コンテキスト分析フレームワークである。

 コア/コンテキスト分析フレームワークは「コア」「コンテキスト」に加えて、「ミッションクリティカル」「ノンミッションクリティカル」という概念を用いて両軸からなるマトリクスを作り、これに自社の企業活動??市場(地域、顧客セグメント)や製品、販売チャネルをプロットすることで経営資源の調達・投入に関するガイドラインを得る。ミッションクリティカルとはオペレーションに問題があった場合に重大な危機を招く活動をいい、ノンミッションクリティカルはそれ以外の活動のすべてと定義される。

コア/コンテキスト分析フレームワーク コア/コンテキスト分析フレームワーク(『ライフサイクルイノベーション』掲載の図に基づいて作成)

 上図で見たとき、イノベーションは第1象限(ノンミッションクリティカル・コア)で研究開発やテストマーケティングとして始まり、市場性があると見込まれたときに第2象限(ミッションクリティカル・コア)に移行する。ここでイノベーションが顧客に受け入れられれば、市場が立ち上がって事業は成長するが、それは競合他社を招き寄せることになるため、やがてイノベーションはキャッチアップされ陳腐化する。するとビジネス環境は第3象限(ミッションクリティカル・コンテキスト)の段階に移行する。

 第3象限=ミッションクリティカル・コンテキストは、成長が見込めない割にはリスクが大きく、慎重な業務オペレーションが求められる。ムーアは、ここにコアと同等の人材や時間を使い続けるのは経営資源の浪費にほかならないと断じ、ミッションクリティカル・コンテキストではアウトソーシングなどを積極的に進めて貴重な自社資源を解放し、第4象限(ノンミッションクリティカル・コンテキスト)への移行を促すべきだと主張した。

 ムーア理論のポイントは、第1象限から第2象限の移行はビジネスチャンスと認識されたうえで「投資」によって行われるが、第2象限から第3象限への移行は市場競争の結果生じる「現象」であるため気付きにくく、第3象限から第4象限の移行も放置されがちであることを指摘したところにある。コア/コンテキスト分析はイノベーションに取り組むべき領域とコスト削減に励むべき領域を峻別し、“選択と集中”を支援する戦略策定ツールだといえる。

参考文献

▼『ライフサイクルイノベーション??成熟市場+コモディティ化に効く14のイノベーション』 ジェフリー・ムーア=著/栗原潔=訳/翔泳社/2006年5月(『Dealing with Darwin: How Great Companies Innovate at Every Phase of Their Evolution』の邦訳)


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ