ドメインエンジニアリング(どめいんえんじにありんぐ)情報マネジメント用語辞典

domain engeering / ドメイン工学 / 領域工学

» 2009年10月27日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 共通の特徴(フィーチャ)を持つ同種アプリケーションを効率的に開発することを目的に、ドメイン知識やソフトウェア資産を整理して、これを共通利用・再利用する基盤や仕組みを構築すること。

 ソフトウェア開発の生産効率が向上しない理由の1つに“開発対象の多様さ”が挙げられる。事務処理プログラムと制御系プログラムでは求められる知識やノウハウが大きく異なる。しかし、同じ分野に属する類似のシステムは共通の要求が多いため、ほぼ同じ特徴を共有することになる。実際、同じ分野で開発を複数回経験した開発者・グループは意識するしないにかかわらず、過去の知識を開発業務に応用している。こうした点を踏まえて過度に汎用的なソフトウェア開発知識ではなく、特定領域(ドメイン)に特化して業務知識や記述言語、再利用部品、ツールなどを組織的・体系的に整備することで、アプリケーション開発の効率化を図る活動・諸手法がドメインエンジニアリングである。

 ドメインエンジニアリングはおおむね、ドメインの理解を深める「ドメイン分析」、それを構造化する「ドメインモデリング」、再利用の仕組みを構築する「ドメイン実装」のステップからなるが、論者や方法論によって名称は異なり、再利用機構を整備する工程を“ドメインエンジニアリング”と呼ぶ場合もある。

 ドメインエンジニアリングの発想は、エズガー・W・ダイクストラ(Edsger W. Dijkstra)やデイビッド・L・パルナス(David L. Parnas)の「プログラムファミリ」に原点があるとされる。続いて構造化分析やオブジェクト指向分析でシステム化対象をモデリングして知識を獲得する考え方の普及、日本におけるソフトウェアファクトリの成功報告、及び人工知能の分野からエキスパートシステム開発でドメイン知識を知識ベース化する方法が登場したことなどの影響を受けながら、1980年代の後半には“ドメイン”ごとに開発知識とソフトウェア資産を整備する諸手法が提唱されるようになった。これらはやがて「ソフトウェアプロダクトライン開発」へと発展する。

 初期のドメインエンジニアリング/ドメイン分析では開発対象を「解くべき問題」と「その解き方」に分けて考えることが有効だとされた。前者は「問題空間」「問題ドメイン」、後者は「解空間」「アプリケーションドメイン」などと呼ばれた。ソフトウェアプロダクトライン開発では前者を対象にしたプロセスが「ドメインエンジニアリング」、後者のプロセスを「アプリケーションエンジニアリング」と呼ぶことが多い。

参考文献

▼『ドメイン分析・モデリング――これからのソフトウェア開発・再利用基幹技術』 伊藤潔、杵嶋修三、田村恭久、廣田豊彦、吉田裕之=編著/共立出版/1996年8月

▼『ソフトウェア再利用の神話――ソフトウェア再利用の制度化に向けて』 ウィル・トレイツ=著/畑崎隆雄、林雅弘、鈴木博之=訳/ピアソン・エデュケーション/2001年11月(『Confessions of a Used Program Salesman』の邦訳)

▼『ジェネレーティブ プログラミング』 クシシュトフ・チャルネッキ、ウールリシュ・W・アイセンアッカー=著/津田義史、今関剛、朝比奈勲=訳/翔泳社/2008年4月(『Generative Programming: Methods, Tools, and Applications』の邦訳)

▼『ソフトウェアプロダクトライン――ユビキタスネットワーク時代のソフトウェアビジネス戦略と実践』 ポール・C・クレメンツ、リンダ・M・ノースロップ=著/前田卓雄=訳/日刊工業新聞社/2003年9月(『Software Product Lines: Practice and Patterns』の邦訳)

▼『ソフトウェアプロダクトラインエンジニアリング――ソフトウェア製品系列開発の基礎と概念から技法まで』 クラウス・ポール、ギュンター・ベックレ、フランク・ヴァン・デル・リンデン=著/林好一、吉村健太郎、今関剛=訳/エスアイビー・アクセス/2009年1月(『Software Product Line Engineering: Foundations, Principles, and Techniques』の邦訳)

▼『ソフトウェアエンジニアリング論文集80's――デマルコ・セレクション』 トム・デマルコ、ティモシー・リスター=編著/児玉公信=監訳/日本技術士会プロジェクトチーム「IT 21の会」=訳/翔泳社/2006年9月(『Software State-of-the-Art』の邦訳)


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