マーケティングミックス(まーけてぃんぐみっくす)情報マネジメント用語辞典

marketing mix

» 2011年07月27日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 マーケティングの中心的活動の1つで、利用可能なマーケティング手段の中から目標達成に有効なものを選び出し、有機的に組み合わせること。あるいは、その結果として作られたマーケティング要素の結合体をいう。

 マーケティング活動を行う際、検討対象として製品・販売方法・価格・販売促進策などに分類される各種の手段や要素があり、それぞれに多様な可能性と選択肢、あるいは制約がある。これらのマーケティング要素は相互に影響を与え合うものであり、整合的な計画の下で実施されなければ十分な効果は得られない。例えば、高額商品を求める人があまりいないディスカウントストアに高級品を置いても、売れ行きは期待できない。広告では高級品と宣伝しているのに、商品パッケージが安っぽいというのも不整合である。マーケティングミックスは、マーケティング諸要素を有機的に結合して相乗効果を求める活動をいう。

 マーケティングミックスが重要なのは、顧客にとっての“商品”特性を規定するからである。「高品質の高級品」「どこでも買える普及品」「割安商品」「イメージの良いブランド品」といった特性は、マーケティング要素の選択や配分、投入量によって決まるものであり、顧客価値を決定する。良い“商品”を作るにはマーケティングミックスが総合的にバランスしている必要がある。

 さらにその商品を売れるものとするためには、マーケティングミックスを通じて競合商品との差別化を図り、市場におけるポジショニングを明確にしなければならない。マーケティングミックスは「マーケティングとはマーケティングミックスを策定・実行することである」と定義する論者がいるほど、大切な活動とされる。

 マーケティングミックスという言葉を最初に使用したのは、ハーバード・ビジネススクール教授のニール・H・ボーデン(Neil H. Borden)である。ボーデンの論文「The Concept of the Marketing Mix」(1964年)によると、同僚のジェームズ・カリトン(James Culliton)教授が1948年に行った研究の中で、企業経営者を「素材のミキサー」と表現したことに示唆を受け、経営者が諸要素を組み合わせてデザインしたものを「マーケティングミックス」と呼んだという。

 すなわちマーケティングミックスとは、企業がマーケティング戦略を実行するにはマーケティング要素の統合が必要であること、各要素には相互作用があるために常時バランスに注意すべきことを示すものであった。これはプロダクトやセールス、プロモーションといった個別担当者ではなく、上位の経営管理者の役割であるという主張でもある。

 マーケティング管理論の先駆者、シカゴ大学経営学大学院のジョン・A・ハワード(John A. Howard)は、1957年の著書『Marketing Management: Analysis and Dicision』で、マーケティングを経営管理の一分野と規定。企業が持つ競争の武器として「製品」「販売経路」「価格」「広告」「対人販売」「立地」を挙げ、マーケティング幹部が答えなければならない質問は「これからの競争の武器のどれを使うべきか」だとした。

 経営視点でマーケティングを考えるというアプローチを受け継いで発展させたのが、ハーバード・ビジネススクール教授のE・ジェローム・マッカーシー(Edmund Jerome McCarthy)である。マッカーシーは「ターゲットマーケティング」を提唱し、ターゲット市場の設定とマーケティングプログラムの策定は同時に行われるべきと主張した。このマーケティングプログラムを構成する多様なマーケティング手段を分かりやすく整理する方法として、「製品(product)」「場所(place)」「プロモーション(promotion)」「価格(price)」の4分類――「「4P」を提案した。

 4Pは、マーケティングミックス概念を具体的に理解する手段として、あるいはマーケティングミックスを考える際に抜け・漏れを防止するフレームワークとして、研究・実践の場で広く受け入れられており、マーケティングの教科書や解説本でも多く取り上げられている。

 マーケティング要素の分類については以降もさまざまなモデルが提唱された。マッカーシーの4Pを拡張したフィリップ・コトラー(Philip Kotler)の「7P」や「6P」、4Pを批判する形で登場したロバート・ラウターボーン(Robert F. Lauterborn)の「4C」が比較的有名である。なお、造語者のボーデンもマーケティングミックスの要素として「製品計画」「価格」「ブランド」「流通経路」「対面販売」「広告」「販売促進」「パッケージ」「陳列」「サービス提供」「物流」「調査と分析」の12を挙げている。

マーケティングミックスの主要フレームワーク
4P
  • 製品(product)
  • 場所(place)
  • プロモーション(promotion)
  • 価格(price)
E・J・マッカーシーがマーケティング管理者の行うべき仕事を整理したもの。マッカーシーの理論はコトラーによって発展的に集大成された
4P(共生マーケティング)
  • 商品(commodity)
  • コスト(cost)
  • 流通経路(channel)
  • コミュニケーション(communication)
城西大学教授の清水公一が大学院生時代に考案した。低成長時代の共生マーケティングのフレームワーク「7Cs COMPASS MODEL」の一部となっている
4C(顧客視点)
  • 顧客価値(customer value)
  • コスト(cost)
  • 利便性(convenience)
  • コミュニケーション(communication)
米国ノースカロライナ大学マスコミ学科教授のロバート・ラウターボーンが提唱。4Pを供給者視点のモデルとして批判し、買い手の視点の4Cの必要性を主張した
7P(サービスマーケティング)
  • 製品(product)
  • 場所(place)
  • プロモーション(promotion)
  • 価格(price)
  • 物的証拠(physical evidence)
  • プロセス(process)
  • 人(people)
プロフェッショナル・サービスのためのフレームワークとしてフィリップ・コトラーが提唱。マッカーシーの4Pに物的証拠、プロセス、人を加えている
6P(メガマーケティング)
  • 製品(product)
  • 場所(place)
  • プロモーション(promotion)
  • 価格(price)
  • 政治力(power)
  • 広報活動(PR)
規制・保護市場に関するフレームワークとしてコトラーが提唱したもの。マッカーシーの4Pに政治力と広報活動の2つを加えている

 マーケティングミックスの概念は、経営レベルのマーケティング管理の必要性を強調するために登場したものだが、実際にはプロダクト担当者やブランドマネージャが担当する製品やブランドを起点として、その価格、販売チャネル、プロモーションを決定するという比較的短期のマーケティング・アクションプランの立案として実行されることが少なくない。

 このレベルでは現実問題として、製品・販売チャネル・価格・プロモーションは必ずしも“自社でコントロール可能なもの”とはいえず、顧客・市場・業界・社内政治・協力会社・競合企業・当局などの“外的制約事項”の影響を強く受けることも多い。そうなるとマーケティングミックスは主体的・合理的・計画的に決定できるものではなく、試行錯誤しているうちに落ち着くところに落ち着くものといった印象が強いかもしれない。

参考文献

▼「マーケティング・ミックスの概念」 ニール・H・ボーデン=著/北原明彦=訳/熊本学園商学論集 14(1)/熊本学園大学商学会/2007年9月(「The Concept of the Marketing Mix」の邦訳)

▼『経営者のためのマーケティング・マネジメント――その分析と決定』 ジョン・A・ハワード=著/田島義博=訳/建帛社/1970年8月(『Marketing Management: Analysis and Dicision』の邦訳)

▼『ベーシック・マーケティング』 E・ジェローム・マッカーシー=著/浦郷義郎、大江宏、二瓶善博、横沢利昌=訳/粟屋義純=監訳/東京教学社/1978年3月(『Basic Marketing: A Managerial Approach』の邦訳)

▼『共生マーケティング戦略論――IMコミュニケーション/消費者行動/ブランド戦略/流通チャンネル』 清水公一=著/創成社/2003年6月

▼『コトラーのプロフェッショナル・サービス・マーケティング』 フィリップ・コトラー、トーマス・ヘイズ、ポール・ブルーム=著/平林祥=訳/白井義男=監修/ピアソン・エデュケーション/2002年12月(『Marketing Professional Services』の邦訳)

▼『市場戦略論』 フィリップ・コトラー=著/Diamondハーバード・ビジネス・レビュー編集部=訳/ダイヤモンド社/2004年112月


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