モジュール化(もじゅーるか)情報システム用語事典

modularization / modularisation

» 2009年12月19日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 複雑で巨大なシステムやプロセスを設計・構成・管理するとき、全体を機能的なまとまりのある“モジュール”に要素分割すること。設計・製造時の擦り合わせ作業をできるだけ少なくするために構成要素(部品)の規格化・標準化を進め、その相互依存性を小さくすることをいう。

 一般にシステムは複数の構成要素からなり、それらが機能や役割を分担して相互に協調・連動することで、全体として動作する。システム全体の効率性や性能を高めるためにはその構成要素同士の連携性を密接にする方法が考えられるが、そうすると部分的な不具合や変更が発生したときにその影響が全体へと波及しやすくなる。人工システムの場合、構成要素の数があまりに多くなるとその相互依存関係を管理することが困難になり、ごく一部の変更が全体設計の見直しや要素間の調整作業を発生させることになってしまう。

 こうした事態を回避するには、システムの全体設計(要素分割)を行うに当たって機能ごとにまとまりのある形に整理し、構成要素間の関係性をできる限り少なくする方法が考えられる。これがモジュール化である。モジュールとは何らかの規格や標準に沿って作られた部品やサブシステムであり、組み合わせや交換の自由度が高い。

 部品のモジュール化は、建築・工業製品・ソフトウェアの世界ではよく行われていたが、米国ハーバード・ビジネススクールのキム・B・クラーク(Kim B. Clark)、カーリス・Y・ボールドウィン(Carliss Y. Baldwin)が製品のモジュール化はイノベーションや企業競争力を左右するとともに、企業組織や業務プロセス、さらには産業構造のモジュール化をも誘発すると論じたことから、経済学や経営学、イノベーション理論におけるキーワードとして注目されるようになった。

 クラークとボールドウィンは業界がモジュール化した事例として、最初の汎用コンピュータであるIBMの「System/360」を挙げている。System/360は“アーキテクチャ”の考え方を導入してユニットが標準化されており、ユニットを交換することで機能拡張ができるようになっていた。この標準はIBM社内のためのものだったが解析などによっていつしか業界周知の事実となり、結果として各デバイスごとに互換機メーカーが生まれた。これはユーザーにとってはIBM純正の装置を互換機メーカーの装置に交換できるようになったことを意味するが、装置ユニットの入れ替えはすなわち調達先の入れ替えであり、業界構造と市場の変化を引き起こすことになる。

 この調達先のモジュール化は、純製品メーカーを含めて市場に参加する企業に競争とイノベーションを促進する。製品がモジュール化されていない場合は、製品全体の内部構造を知らなければ部品を作ることができないが、モジュール化されている場合はその部品が関係するインターフェイスさえ分かればモジュールを作れる。これは市場への参入障壁を低くするばかりか、そのモジュールだけで機能や性能を高めることができるために技術的な競争が過熱しやすい。

 モジュール化によって市場の急拡大と激しい競争が起こった例としては、PC市場がある。1982年に登場した米国アップルコンピュータ(現アップル)のMacintoshを始め、初期のパーソナルコンピュータは内部のアーキテクチャを公開していなかった。しかし、1984年に発売されたIBM PCはアーキテクチャが公開されたことから、部品・完成品ともに多数の互換機メーカーが市場に参入し、ほかのアーキテクチャのマシンを凌駕(りょうが)した(ただし、IBMも市場支配力・技術統制力を失い、PC市場は長くOSメーカーのマイクロソフトとCPUメーカーのインテルにコントロールされることになる)。

 この意味でのモジュール化には、モジュール同士が協調・接続するための連携機構(インターフェイス)の規格が公式ないし非公式に公開されているという意味合いが含まれる。このようなアーキテクチャをオープン・モジュラアーキテクチャ、ないしオープンアーキテクチャという。

参考文献

▼『モジュール化――新しい産業アーキテクチャの本質』 青木昌彦、安藤晴彦=著/東洋経済新報社/2002年2月

▼『デザイン・ルール――モジュール化パワー』 キム・B・クラーク、カーリス・Y・ボールドウィン=著/安藤晴彦=訳/東洋経済新報社/2004年3月(『Design Rules, Volume 1: The Power of Modularity』の邦訳)

▼『情報技術と組織のアーキテクチャ』 池田信夫=著/NTT出版/2005年6月

▼『モジュール化の終焉――統合への回帰』 田中辰雄=著/NTT出版/2009年11月


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