真実の瞬間(しんじつのしゅんかん)情報システム用語事典

MOT / moment of truth / 決定的瞬間

» 2008年01月22日 00時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]

 主にサービス業で使われる言葉で、接客などの現場で企業(従業員)が利用者(顧客)と接するわずかな時間のこと。顧客にとっては、現場スタッフの接客態度や店舗設備の状態などから、その企業全体に対する印象・評価を決定する瞬間となる。

 例えば、顧客が店舗やサービスカウンターに行ったとき、店員や担当者が無愛想だったり、サービスレベルが低かったり、あるいはひどく待たされたり、面倒・不便・不潔などで不愉快な思いをすれば、その企業に対して良い印象は抱かないだろう。こうした悪印象は広告やPRなどの手段で拭い去ることは難しく、顧客と直接に接触する数秒〜数十秒こそがその顧客をリピーターやファンにできるかどうかを決定する重大な機会なのである。

 企業と顧客の接点は、受付や電話応対からアフターサービスまでビジネスプロセスのあらゆるフェイズに存在し、企業全体でみれば毎日、何百〜何万回以上の接触が行われている。この顧客接点のすべてで顧客に失望を与えないためには、直接の現場担当者が目の前の“真実の瞬間”を大切にすることはもちろん、現場スタッフが臨機応変に顧客本位の意思決定と行動が行えるよう、職場環境や規定、組織、風土を整備することが求められる。

 この考え方はもともと、スウェーデンの経営コンサルタントであるリチャード・ノーマン(Richard Normann)が1978年に唱えたもので、1980年代にスカンジナビア航空(SAS)が同コンセプトを取り入れて経営再建に取り組み、大きな成果を挙げた。その改革物語は、当時SASグループ社長兼CEOだったヤン・カールソン(Jan Carlzon)が自伝的著書「Riv Pyramiderna」に著し、広く世界の知るところとなった。

 カールソンは同書で「当時年間1000万人の旅客が、それぞれほぼ5人のスカンジナビア航空の従業員に接し、その1回の応接時間の平均が15秒であった。従って、1回15秒で1年間に5000万回、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる。その5000万回の“真実の瞬間”が、結局スカンジナビア航空の成功を左右するのである。その瞬間こそ私たちが顧客に、スカンジナビア航空が最良の選択だったと納得させなければならないときなのだ」と述べている。

 この15秒を最大限に生かすため、カールソンは現場スタッフを適正に訓練し、意思決定に必要は情報が得られるような環境を整備したうえで、顧客1人1人のさまざまな要望・問い合わせに対して迅速かつ適切な対策を講じる責任と権限を委譲した。規則や規定に基づいた画一的サービスや上司の判断を仰ぐようでは、せっかくの“真実の瞬間”を無駄にしてしまうと考えたのである。カールソンのやり方はその後の発展・洗練を経て、今日では「サービスマネジメント」と呼ばれている。

 「真実の瞬間」という表現はスペイン語の“La hora de la verdad”に由来するもので、闘牛において闘牛士がウシを仕留める(あるいは逆襲されて闘牛士が命を落とす)一瞬をいう。それを直訳した英語表現“Moment of truth”も本来は「とどめの一撃」「正念場」という意味だが、カールソンの著書の英語版タイトルが「Moment of Truth」だったこともあって、英語圏のビジネスシーンでは顧客接点の重要さを表す言葉としても一般的である。

参考文献

▼『真実の瞬間――SASのサービス戦略はなぜ成功したか』 ヤン・カールソン=著/堤猶二=訳/ダイヤモンド社/1990年3月(『Riv Pyramiderna』の邦訳)


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