工事進行基準(こうじしんこうきじゅん)情報システム用語事典

POC / PCM / percent of completion method

» 2008年01月15日 00時00分 公開

 長期請負工事契約に関する会計上の収益認識基準の1つ。工事期間中、目的物が完成に近づくにつれて徐々に収益が発生するものと考え、工事の完成度合いに応じて工事に関する収益と原価を計上し、各会計期間に分配する方法である。“発生主義”に基づく収益認識法とされる。

 ここでいう工事とは、仕事の完成に対して対価が支払われる請負契約のうち、完成品の基本的な仕様や仕事内容が顧客(施工主)の指図に基づいて行われるもので、主として土木・建築、プラント建設、造船、一部機械装置の製造・設置などのことだが、2007年12月に定められた会計基準では受注制作のソフトウェアについても対象として明記とされた。

 一般に収益の認識(財務諸表への記載)は、商品の販売やサービスの給付を実現した時点をもって行われる。しかし、長期の大規模工事で仕事の完成・引き渡しをもって収益の認識とすると、長期間にわたって原価(費用)ばかりが認識され、収益は認識されないために適正な期間損益が得られず、企業の実態を正しく表すことができない可能性がある。その不合理を是正するため、工事の進行程度を見積もって収益に換算し、これを財務諸表に反映させる方法が工事進行基準である。

 従来、日本の会計基準では工事進行基準と工事完成基準の選択適用が認められており、どちらを採用するかは任意に決めることができた。ただし“実現主義”を原則とする日本基準においては工事完成基準が標準的で、工事進行基準は例外的な方法と考えられており、会計処理の実務においても工事完成基準の方が簡便であるため、日本国内の多くの企業は工事完成基準を採用していた。

 しかしながら異なる会計基準を採用する企業が混在すると、財務諸表間の比較に支障を来たす可能性があること、そして国際会計基準とのコンバージェンス(収斂=会計基準の統一)の一環として、選択適用を廃止して、原則として工事進行基準に一本化する「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号)が2007年12月7日に公表となった。同会計基準は2009年4月1日以降に開始となる会計年度から強制適用となる(早期適用も認められている)。

 新基準では明確な要件を定め、これを満たす場合は工事進行基準を適用し、満たさない場合は工事完成基準を適用するとしている。工事進行基準を基本とするという点ではコンバージェンスに配慮しているといえるが、国際会計基準(IAS11)では見積もりが不十分な場合でも工事完成基準を認めておらず、その点ではむしろ米国基準に近いともいわれる。

 工事進行基準適用の要件とは「工事収益総額」「工事原価総額」「決算日における進捗度」の3つが信頼性をもって見積もれることである。進捗度を表す方法として、「工事契約に関する会計基準」では原価比例法(工事原価の見積もり総額に占める実際原価の割合から進捗度を導く方法)を例示しているが、ソフトウェア開発においては受注(契約)の時点で要求や仕様が未確定の場合が多く、開発に掛かる工数や難易度が不確定で正確な見積もりが困難である。また止むを得ない手戻りや追加作業(原価)が発生することも珍しくない。このため、同基準の第51項でも「原価の発生やその見積もりに対するより高度な管理が必要と考えられる」と指摘している(ただし、具体的な対策については特に触れていない)。

 なお、平成20年度から税制も会計基準の変更に合わせて改正され、税制上工事進行基準を適用する長期大規模工事の範囲の見直し、長期工事でなくても損失が見込まれる工事にも工事進行基準の適用を可能とする、税制上の適応対象にソフトウェアの受注制作を追加などの点が改められている。

参考文献

▼『ソフトウェア業における工事進行基準の実務』 岩谷誠治=著/中央経済社/2008年6月

▼『システム開発「見積り」のすべて――「工事進行基準」に完全対応』 野村総合研究所SE応援ネットワーク=著/日本実業出版社/2009年6月


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