バリューネットワーク(ばりゅーねっとわーく)情報システム用語辞典

value network

» 2009年05月12日 00時00分 公開

 ある共通するニーズを持つ顧客層と、それに価値を提供する企業群によって構成される機能的な集合体のこと。企業の投資判断を束縛する収益・コスト構造や価値基準は企業自身の意志や判断ではなく、企業の外部環境によって定まることを説明する概念として、リチャード・S・ローゼンブルーム(Richard S. Rosenbloom)とクレイトン・M・クリステンセン(Clayton M. Christensen)が導入した。

 バリューネットワークとは、既存顧客と自社、サプライヤ、流通事業者などからなるネットワークであり、いわば企業にとっての生存環境、あるいは生態系である。企業は生き残りをかけ、この環境に適合すべく、能力・組織・プロセス・コスト構造・企業文化・価値基準を確立する。同業と見なされている企業でも、高級品と普及品というように異なるバリューネットワークに属する場合、そこで通用している価値基準も違ったものとなる。

 製品やサービスに求められる性能や品質の水準は、各バリューネットワークの価値基準に準じるため、企業が新しい技術※の経済価値をどう認識するか、技術革新にどのような資源配分するかは、その企業がどのバリューネットワークに属しているかによって決まる。新技術がイノベーションとして受け入れられるには、それに見合ったバリューネットワークを見いだすか、新たなバリューネットワークを形成することが必要になる。

※ここでいう「技術」は、労働力・資本・原材料・情報などの経営資源を投入して、より価値の高い製品・サービスを生み出すプロセス全般を意味する


 一般に“優良”とされる企業は、特定のバリューネットワークの枢要な地位を占め、特定の価値基準や収益基準に縛られている。高性能・高機能・高品質な製品を提供するバリューネットワークは、それよりも下位のネットワークよりも多くの収益を見込めるため、成長を目指す企業は多くの場合、上位のバリューネットワークへと移動する。逆に優良企業・高収益企業であればあるほど、下位バリューネットワーク(ローエンド市場)であれば通用する新技術に対して冷淡な反応を示す。しかし、こうした新技術(破壊的技術)がやがて技術革新によって、優良企業の足場であるバリューネットワーク=市場を侵食し、その地位を奪ってしまうことがある。これがイノベーションのジレンマである。

 クリステンセンは、大企業がイノベーションのジレンマを乗り越え、イノベーションを推進するには、既存のバリューネットワークや価値基準を断ち切るために、スピンオフのような組織的工夫が必要だと論じている。

参考文献

▼『イノベーションのジレンマ──技術革新が巨大企業を滅ぼすとき〈増補改訂版〉』 クレイトン・クリステンセン=著/玉田俊平太=監修/伊豆原弓=訳/翔泳社/2001年7月(『The Innovator's Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail』の邦訳)

▼『Explaining the Attacker's Advantage: Technological Paradigms, Organizational Dynamics, and the Value Network』 Clayton M. Christensen、Richard S. Rosenbloom=著/Research Policy 24, no. 2/1995年3月


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