第39回 AMD Opteronのダイを眺めてみれば頭脳放談

AMDのサーバ向け64bitプロセッサ「AMD Opteron」の出荷が開始されて4カ月。そのダイ写真を見ると、廉価版やマルチチップ版と想像が膨らむ。

» 2003年08月21日 05時00分 公開
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 2年ほど前に「第17回 AMDのHammerは64bitの夢を見るか」でAMDの64bitアーキテクチャについてコメントした記憶がある。それが4カ月前の4月23日になって、「AMD Opteron(オプテオン)」という名でようやく世に出た。「第17回 AMDのHammerは64bitの夢を見るか」では、64bitアーキテクチャがサーバだけでなく、クライアントPC(当面ワークステーションあるいはデスクトップPCということになるだろうが)まで行き渡る必要性あり、とコメントした。AMD Opteronは、サーバ向けのマルチプロセッサ構成指向のチップなので、同じ64bitアーキテクチャでもシングルプロセッサ指向のAMD Athlon 64が出荷されて、ようやく前回期待したものが出揃うことになる。そのAMD Athlon 64は、少々遅れたがようやく9月23日(米国時間)に出荷開始となるという話だ。製造プロセスのこともあるので、妥当な価格で適当な数量が出荷できるのを見届けてからとも思うが、あんまり時期を外してもマズイので、今回はAMD Opteronについて再度コメントしておきたい。

まずまずの性能を実現したAMD Opteron

 出荷開始となったAMD Opteronのベンチマーク・テストの結果を見ると立派な数字である(日本AMDの「AMD Opteronのベンチマーク・テストの結果」)。それも細かく見ると、依然として32bitのコンパイラやOSで出している結果が多いようだ。最適化や64bit化によって、まだまだ性能は伸びそうである。Intelも、AMD Opteronに対抗して、安価なItanium 2のデュアルプロセッサ版を対抗機種として投入するようだが、ベンチマーク・テストの結果を見る限り、「まずは、やれる」という感じであろう。当然、「やれる」という感触がなければAMDもマルチプロセッサ対応の製品を投入することはないだろうが。

 ベンチマーク・テストの結果がそんな状況なので、肝心の64bit化の効用については、まだまだこれからというところなのだろう。以前同様、あるいは以前にも増して64bitアーキテクチャの必要性は増しているはずなのだが、動きはそれほど急速ではないようだ。しかしOSやソフトウェアが全体的に更新されるのには意外と時間がかかるものだ。過去にもプロセッサが進歩しても、OSなどは次のプロセッサ世代にならないと本格的に普及しない、ということがあった。例えば、本格的な32bitプロセッサであるIntel 386がリリースされても、その機能を利用したOS(Windows 95)がリリースされたのは2世代後のPentiumが出荷された後であった。

 ただ、どうも昨今の業界の焦点は「セキュリティ」の方に移ってしまった感がある。緊急度を考えれば致し方ないのだが、大変残念な「進歩」の仕方ではある。「そういったソフトウェア改変の機会に、ついでといってはなんだが64bit化するというのはできないものだろうか」と思ってしまうのだが、ちょっと期待が大きすぎるようだ。エンジニアリング的には、あれこれ一度に変更を行うとリスクが大きくなるから、取りあえず32bitのまま、という感じの開発の方が妥当な線だ。多分、自分がプロジェクトのマネージャだったらそうするだろうから、無理をいってもいけない。

「ツラがきれい」なAMD Opteron

 しかし、もっとAMDに期待しなければならないのはシングル・チップもしくはシングル・パッケージにマルチプロセッサを封止した形のプロセッサを早く出すことだろう。すでにマルチスレッドあるいはマルチプロセッサ構成を生かせる環境は熟しているし、AMD自身、AMD Opteronにはマルチプロセッサ構成をサポートするロジックを集積しているのはご存じのとおりである。それにAMD Opteronのチップ写真を眺めていると、とっても簡単にマルチチップ化できそうなのだ。

AMD Opteronのプロセッサ・ダイ AMD Opteronのプロセッサ・ダイ
きれいな対称形となっており、マルチチップ化が容易に実現できそうなデザインとなっている。

 AMD Opteronのダイの写真を見ると、機能ごとにきれいにブロックに分かれており、「ツラがきれい」なプロセッサに仕上がっている。業界的には、この「ツラがきれい」というのがけっこう大事なことなのだ。ぐちゃぐちゃと引き回してチップ・プランがなっていない「ツラがきたない」プロセッサは、一般に性能も悪く、バグも多いのだ。設計者は、こうしたプロセッサを見ると、納期に追われてドタバタでやっつけた仕事、と判断する。それでも、商業的には「ツラがきたない」プロセッサが売れることもままあるので、「ツラがきれい」なら売れるとは限らないのもまた真実である。半導体業界に限らず、納期に間に合わせることが何より重要ということだ。しかし、売れるプロセッサは常に手が入って改版(整形かも?)され続けるので、最後には「きれい」になっていく可能性もある。

 余談はともかく、AMD Opteronのレイアウトは、対称性が高くなっている昨今のプロセッサの中でも、その対称性が高い部類に入る。1Mbytesの2次キャッシュを右に見れば、左側にプロセッサ・コアがくる。2次キャッシュは、上下0.5Mbytesずつの面に分かれ中心をインターコネクションが走っているのだが、それを左に行くと、コア中央のバス・ユニットに至る。コア自体、バス・ユニットを挟んでほぼ対象に上側に1次データ・キャッシュ、下側に1次命令キャッシュという具合で、中心軸に対して対称になっている。ちなみに売り物であるHyper Transportのインターフェイスはコア側、DDRメモリのインターフェイスは2次キャッシュ側で左右にきれいに分かれている。AMD K6のころは、全面にバンプ(プロセッサ・ピンとの接続点)をのせるC4フリップ・チップ実装であったため、とっても「きたない」ツラであったのを思い出す。これは実装方法に原因があったため、いたしかたなかったとは思うが、それに比べるとAMD Opteronの美人さ加減がなおさら際立つかもしれない。

想像が膨らむAMD Opteronのデザイン

 コア部は縦方向に長い長方形だが、浮動小数点演算部とメモリ・コントローラ部を除く主たるブロックはほぼ正方形である。周辺を除けば2次キャッシュの方が、コアの1.2〜3倍の面積を占めているように見える。まず、このレイアウトからして、2次キャッシュのサイズを削って安価なプロセッサを製造するのが非常に容易そうだ。2次キャッシュを約4分の1にすると、コア部と合わせてほぼ正方形(つまりウエハ上で最も面積効率のよい形)になる。その場合は周辺部の長さが短くなるから、インターフェイスのチャネル数を減らす必要があるだろうが、むしろ釣り合ってちょうどいいかもしれない。

AMD Opteronの2次キャッシュを1/4にした想像写真 AMD Opteronの2次キャッシュを1/4にした想像写真
AMD Opteronに内蔵されている1Mbytesの2次シャッシュを1/4の256Kbytesにするとほぼ正方形になり、製造上で最も面積効率のよい形になる。

 逆に追加する方では、2次キャッシュを挟んで対称にもう1個のコアを置くのは面積的にもそれほど大きなインパクトではなさそうである。いまのプロセス世代でも不可能ではなさそうだ。さすがに2次キャッシュを2倍にして、コアを4個載せるとなると、とんでもない大きさになりそうで駄目だ。製造プロセス的には3世代くらい進化が必要な感じがする。そう思って見ていると、コアを2個縦積みにして2次キャッシュも2倍にすると、正方形に近い形になることが分かる。でもこれもそうとう大きいが、製造プロセスが1世代進めば何とか可能なレンジとなりそうだ。

AMD Opteronをマルチチップ化した想像写真 AMD Opteronをマルチチップ化した想像写真
AMD Opteronを縦に2個接続してマルチチップ化すると、やはりほぼ正方形になり、製造上で最も面積効率のよい形になる。

 そう簡単でないのは分かっている。しかし、組み込み向けプロセッサでは急速にマルチプロセッサ化、それもヘテロジニアス(異機種混在環境)で非対称なマルチプロセッサ化の嵐が吹いている。非常に低価格のチップでもマルチプロセッサが普通になりつつあるのだ。コスト、性能、消費電力の統合最適化になる組み込み系では宿命的な流れであるが、「ヘテロジニアスなマルチプロセッサ」は「きたないツラ」になる宿命を負っている上、ソフトウェアもまた「きたない」構成にならざるを得ない。コンピュータらしいコンピュータ向けプロセッサであり、それにも増して「対称」で「ツラのきれい」なAMD Opteronにはぜひ、古典的かつ美しい、シンメトリカル(対称的)なマルチプロセッサ集積の方向で進化してもらって、近い将来、いまにもまして美しい御尊顔を拝せたら幸せである。いつも「きたない」顔ばかり見ていると、ついそんなことを考えてしまう。

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筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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