第41回 Transmetaの未来はブレード・サーバにある?頭脳放談

ノートPC向けプロセッサベンダーとして一時話題をさらったTransmetaが新プロセッサ「Efficeon」を発表した。このプロセッサのターゲットは?

» 2003年10月24日 05時00分 公開
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 低消費電力プロセッサ・ベンダとして一時話題をさらったTransmetaが久しぶりに新製品「Efficeon(イフィシオン) TM8000(以下、Efficeon)」と名付けたプロセッサ・シリーズを発表した(Transmetaの「Efficeon TM8000の発表に関するニュースリリース」)。Efficeonとは、「Efficiency(効率化)」からの造語である。Efficeonの名のとおり、前世代のCrusoeファミリ製品に比べれば格段に効率がよくなっていることは間違いない。今回は、Efficeonについての感想を述べさせていただく。

Efficeonのロゴ Efficeonのロゴ
Efficeonは、効率化(Efficiency)の新たな時代(eon)からの造語であるという。

Efficeonの何が有能なのか?

 Efficeonでは、CrusoeのVLIWアーキテクチャをベースにメモリおよびバスまわりを一新した。Crusoeは、いまとなっては時代遅れといわざるを得ない133MHzのDDR SDRAMと33MHzのPCIバスを採用していたが、Efficeonではメモリ速度は400MHzに上がっているし、遅いPCIはHyperTransportとAGP4xにとって代わられている(CrusoeとEfficeonはプロセッサ・コアにメモリ・コントローラが同梱されている)。それにプロセッサ自体も新しくなり、Crusoeでは128bit幅だったVLIWコアは2倍の256bit幅に拡張され、その結果、並列に処理されるVLIW命令自体も4個から8個に増えた。2次キャッシュ・メモリの容量も、これに合わせて2倍になっている。

Transmetaの新プロセッサ「Efficeon TM8000」 Transmetaの新プロセッサ「Efficeon TM8000」
当初は、TSMCの0.13μmプロセスで製造されるが、2004年には富士通あきる野テクノロジセンターの90nmプロセスへと移行する予定だ。

 Crusoeと比較している分には、素直に「新しくなってとてもよくなったなぁ」と喜べるのだが、そうとばかりもいっていられないようだ。まず、いまこうしてあらためて見直してみるとCrusoeはかなり貧弱なスペックである。たかだか3年くらい前に登場したプロセッサだが、市場の進歩は予想以上に速い、ということなのだろう。Efficeonのスペックを持ってきて、ようやく「普通」のスペックになったというところだ。

 それどころか、EfficeonにはCrusoeから、それほど進歩していない部分も散見される。まずは肝心の周波数だ。もともとCrusoeはそれほど高い周波数を達成できず、500M〜600MHzくらいをウロチョロしている印象があった。Crusoeの最新版のTM5800で0.13μmプロセス製造を採用してやっと1.1GHzを達成している。今回のEfficeonも当初は0.13μmプロセスで、1.1GHzからのスタートとなるようだ。周波数だけみると全然進歩していない。もちろん、コア・プロセッサが進化している分、同じ周波数なら新しいEfficeonの方がだんぜん速い。あるいは、同じ性能を出すのにより低いクロックで済む(つまり低消費電力となる)、というのがTransmetaの見解だろう。それは分かるのだが、新プロセッサとしては若干インパクトに欠ける登場といわざるを得ない。それを救っているのが、Efficeonは近いうちに富士通の半導体試作・生産拠点であるあきる野テクノロジセンターの90nmプロセスで製造される、という話である(Transmetaの「プロセッサの生産に富士通半導体をファウンドリ・パートナーとして選択」)。これに期待を持たせることで、何とか性能向上に対するユーザーならびにベンダの気持ちをつなぎ止めている、という感じであろうか。

Efficeonのロードマップ Efficeonのロードマップ
2004年には、富士通のあきる野テクノロジセンターで製造され、2.0GHzを実現する予定となっている。

 売り物のCMS(コード・モーフォング・ソフトウェア)にせよ、LongRun(動的に動作クロックの変更を行うCrusoeの低消費電力機能)にせよ、あちこち改良されて搭載されているはずだ。そんなによくなっているのなら、相当に評価されてもいいはずである。ただ少々ひっかかるのは、Transmetaの低消費電力を売りにしたモバイル指向路線が、傍目に必ずしも成功していないように見えるためかもしれない。衝撃的な登場とともに一時はモバイルPCの台風の目となった感のあったTransmetaだが、IntelのCentrinoによる巻き返しとともに、ビジネス的にはそれほど順調とはいえないようだ。今回のEfficeonはCrusoeのときとは違ってそういう冷めた目にさらされている。

Efficeonはサーバ用途を目指すのか?

 そう思ってEfficeonの資料を眺めていて気付いたことがある。もしかすると状況打開のためにTransmetaはモバイル以外の別な分野に打って出る準備がありそうだ。筆者は、Transmetaが本気なのかどうかは知らない。しかし、そこには確かにサーバ分野へ参入するつもりかと思わせる記述があり、仕様を見ればオプションだがECC付きのDDR SDRAMのサポートがある。多分、モバイル用途狙いならECCなど不要であろう。ここからは筆者の勝手な憶測ならびに妄想だ。多分、Transmetaの誰かにはいま流行りのブレード・サーバへの参入の目論見があるのではないだろうか(実際、以前にCrusoe搭載のブレード・サーバが発表されたことがあった)。

 サーバ向けプロセッサといえば、Itaniumプロセッサ・ファミリとすぐに思われるかもしれない。また、AMDでもAMD Opteronというサーバ向けラインがある。そのアーキテクチャからノースブリッジを集積せざるを得ないTransmetaの製品だが、HyperTransportを採用したEfficeonの現在の構成は、AMDのAMD OpteronやAMD Athlon 64に確かによく似てきている。でも、だからといってたかだか1.1GHzの駆動周波数である。Crusoeよりも速いとはいえ、サーバ用途はあるまいと思われるであろう。モバイル向けのサブノートなどを市場にしているTransmetaの製品でだ。

 しかし、ブレード・サーバならば、不可能ではない、と考えている。高性能なプロセッサを4つとか8つとか密結合で構成するサーバには可能性はないが、小さなサーバ・ブレードを24枚とか48枚とかを1ユニットに搭載し、それをさらに数ユニットから数十も重ねてラックマウントに実装するブレード・サーバであればTransmetaの製品が生きる可能性があるのではないかと思うのだ。

 そうしたブレード・サーバのよく知られた応用例が、かの検索サイトの「Google」である。Googleは数千台のPCから構成されるクラスタから構成されており、全部で1万5000台ものPCを使っていることが知られている。そしてそれらのPCの多くがコモディティ・レベル(日用品レベル)のごく普通のPCであり、中には500MHz台のCeleronで動いているものもあるようだ。しかし、Googleは、全世界から飛び込んでくる膨大なクエリと、そして1個1個のクエリが要求する何Gbytesどころか何Tbytesもの検索処理をさばいている。そして止まることのない信頼性も確立しているのだ。

 コモディティ・レベルのPCといって、実際にスリム・タワーのデスクトップが並んでいるわけではない。場所をとるから実際にはブレード・サーバになっており、1枚1枚のブレードがハードディスクまで含めたコモディティ・レベルのPC相当になっているらしい。

 Googleのような極めて膨大なクエリを扱うデータベース・サーバの場合、強力なプロセッサが1つあるよりも、並列に動作できるプロセッサの数が多い方が有利とのことである。アルゴリズム的に、1つの検索を数多くのプロセッサに分割して行わせるようにしているためだ。また、同じ構成の安いPCで冗長構成にすることで、高価な信頼性の高いサーバ以上の信頼性を確保できるということである。その際に一番の問題が消費電力と熱なのだ。ブレードを数十枚もラックに実装し、それを重ねるのだから、仮に1枚の消費電力が100Wとしても24枚のブレードがあれば2.4kW、それを10台も重ねれば24kWである。それを4個でようやく1000台弱のクラスタ構成となるわけだ。4台のラックマウントを入れた狭い部屋の中で、100kWもの電力が消費される。しかし、1枚100Wは控えめな数字だ。何せプロセッサだけでなく、ハードディスクもメモリも含めた「フルPC」なのだ。4帖半の広さで数百kWというレベルになるだろう。

 こういったブレード・サーバの消費電力と熱の問題にEfficeonは対応できるのではないかと思うのだ。モバイル用途向けの低消費電力と熱の管理の技術が生きてくる。また、ノースブリッジも集積し、少ないチップ構成でブレードが作れるところもよい。そして、インターネット上のデータベース・サーバの需要は少なくない。Googleのような超並列構成がこの先一般化する可能性もある。この新規分野に参入できれば、Efficeon、そしてTransmetaに新たな可能性が生じるだろう。

 しかし、Intelにも対抗策がないわけではない。Hyper-Threading(HT)テクノロジがそうだ。プロセッサの性能より、数が多い方が有利、という特性は、HTテクノロジにもフィットする。Intel側にも低消費電力化技術はあるから、これとHTテクノロジを組み合わせるのが、この分野でのIntel側の武器になるだろう。

 筆者と同じような妄想をTransmetaの誰かが持っているかどうかは分からない。しかし、今後は注意深く彼らの動きを見るつもりである。ローエンドのプロセッサでハイエンドを打倒できるシナリオになり得る可能性があるからだ。しかし、それにしても富士通は90nmプロセスとかによく投資してるなぁ、と思う。どこまでやる気だろう。実は、ある意味こちらの方が驚異かもしれない。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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