連載
» 2004年02月07日 00時00分 公開

VoIPに耐えるネットワーク構築(1):IP電話導入のためのネットワーク必要条件

[延坂成人,ネットワンシステムズ]

総務部門の悩み

 総務部門が日常行っている業務は多岐にわたっている。このため広範囲な知識を必要とするが、実際には間接部門ということでそれぞれの専門スタッフを置くことはできず、1人で何役もの仕事をこなすのが当たり前の状況である。

 そのような中で、ファシリティ、特に通信設備(回線含む)についても、総務部スタッフは専門的な能力を求められる状況となってきている。従来、総務部門での通信設備といえば電話交換機の設定・運用がメインだった。が、この世界もインターネット技術が多く取り込まれてきており、『IP電話』や『IPセントレックス』のキーワードや、コスト削減の情報がはんらんしている。総務部内の限られた人員で日常業務と技術的専門知識を必要とする業務を行っていくことは、技術革新の速い今日の大きな悩みとなっている。

 そこで、以降はあるネットワークインテグレーションを主とする会社を例に話を進めたい。この会社では、本社のPBX容量(1000回線)が限界に達している。

 PBXを新調、もしくは増強したいと稟議を出しても、一向に受理されない。一方の電話回線利用状況は、新入社員が補充され、激しくなる一方だ。いよいよ、総務担当は頭を悩ませることになる。

 電話回線設備を運営していかなくてはならない総務部の悩みとは、以下のようなコスト削減に関するタスクではないだろうか。

PBX運用につきまとう総務部の悩み

  • 間接部門は人員増強を許してもらえない
  • コスト削減要求を強く求められている
  • 電話設備とIP電話などの通信関連に精通していない

 さらなる悲劇が総務部を襲う。会社経営側が今後、電話工事費は“ゼロ”に、そして通信費も30%削減しろと要求してきたのだ。担当者は考えた。組織変更や増員の多い当社で、電話工事費をゼロに近づけるにはどうしたらいいのだろう。現状のPBXを増強して通信費を30%削減することはできない。インターネットを利用した電話システムにすれば、経営側の要求を実現できるのだろうか、と。ネットワーク・インテグレータを生業とする企業なのだから、インターネット電話システムの構築は社内の協力を得られるかもしれない、と。ちなみに、この会社のネットワーク概要は次のとおりである。

比較的整備された社内ネットワーク事情

  • グループ企業:4社
  • 従業員:1000人(全グループ含む)
  • 拠点数:全国13拠点
  • イントラネット環境:広域イーサネット網を利用
    (契約回線種別 100Mbps Full、 1.5Mbps Half、 512kbps Half)
  • 音声系環境:
    • VoIP環境あり(拠点間VoIPならびに地方2拠点IP電話導入済み)
    • PBX環境全拠点リースでF社製PBX(大・中・小容量)を利用

 この会社を例として、企業が自社の電話設備をIP化していくときに、どのような技術的観点から調査し設計導入を行っていけばよいのか考えたい。

VoIPに耐え得るネットワークの条件

 『拠点間VoIP』『IP電話』のいずれを導入する場合でも“ユーザー環境”(通信料金、既存ネットワーク環境、運用保守など)によって効果の有無が決まってくる。ここではベースとなるネットワークがどうなっていれば“最大の効果”が得られるのかを考えてみる。

 ただし、技術や市場の流れは、いずれはIP電話に統合されることはほぼ間違いない状況である。

(1) 配線ケーブル仕様

 まず、床下配線から考えてみたい。統合配線システムなどを導入している企業が多いと思われる。統合配線システムで使用されるケーブルにはいくつかのグレードが存在する。

 通常、企業ネットワークの配線ケーブルで使用されているのは、カテゴリ5やエンハンスド・カテゴリ5が主流である。最近ではカテゴリ6やカテゴリ7といった規格の製品も出荷されはじめている。

 ちなみに、LANを張るケーブルの規格を表す「カテゴリ」は、カテゴリの後に来る数字が大きいものほどグレードが高く、伝送容量も大きいことを示している。

 表1に配線ケーブルグレードごとの適用アプリについてまとめる。

配線ケーブルグレード 最大周波数 適用アプリケーション
カテゴリ3 16MHz 音声、 ISDN、 10BASE-T、 4Mbpsトークンリング
カテゴリ4 20MHz 上記 + 16Mbpsトークンリング、 25Mbps ATM
カテゴリ5 100MHz 上記 + 100BASE-T、 156Mbps ATM (1000BASE-T)
エンハンスド・カテゴリ5 100MHz 上記 + 1000BASE-T
カテゴリ6 250MHz 上記 + 1.2Gbps ATM
カテゴリ7 600MHz 検討中
表1 モニタリングのカテゴリと対応するチェック内容

 現状では、多くの企業がカテゴリ5以上のケーブルを利用しているだろう。しかし、8年前くらいに配線したシステムの場合、カテゴリ3や4といったケーブルが敷設されているケースも考えられる。

 IP電話を導入する場合のケーブル仕様がどう影響するのか、その関連事項として何があるのか? 詳しくは、次のイーサネットスイッチ機器仕様と併せてご説明したい。

(2) イーサネットスイッチ機器仕様

 イーサネットスイッチ(以下、スイッチ)は、ネットワーク機器のなかで、このところ比較的安価になっている製品の1つとして挙げられる。

 スイッチには大きく分けてバックボーン用とワークグループ用の2種類が存在する。

 前者はL3(ルーティング)機能も兼ね備えている。インターフェイスとしては、ギガビットや最近では10ギガビットインターフェイスを多数実装できるスイッチも出荷されている。当然、ワークグループ用の接続はギガビット(Gbit/s)が主流であるが、10/100Mbpsインターフェイス用モジュールも用意されている。後者はL3機能を備えたものも存在するが、純粋なスイッチング機能に特化した製品が多い。

 基幹システム周辺のアップリンク用にはギガビットインターフェイス、端末側は10/100Mbpsインターフェイスのタイプが主流である。新製品などでは10/100/1000Mbps(ギガビット)のインターフェイスを持つタイプも存在する。

 IP電話を導入する場合、スイッチに求められる機能を列挙すると次のようになる。それぞれについて説明する。

IP電話を導入するスイッチに必要な条件

  1. 10/100BASE-T対応
  2. ギガビット対応(IEEE802.3z、 802.3ab:バックボーンスイッチなどへの接続用)
  3. VLAN機能(802.1q)
  4. 優先機能(802.1pなど)
  5. PoE対応(802.3af)
  6. 冗長化機能(アップリンクポート、電源部分など)
    (上記以外にもスイッチが提供可能な機能は多数存在する)

1.10/100BASE-T対応

 配線ケーブル規格により、どのグレードのケーブルが敷設されるかによっても、ネットワークスピードは決定されることになる。カテゴリ4以下であれば10Mbps(10BASE-T)、カテゴリ5以上であれば100Mbps(100BASE-T)の伝送路があると認識してよい。後はスイッチ側の仕様がどのようになっているかで決定される。仮に現在の配線ケーブルがカテゴリ4以下であれば10MbpsネットワークへIP電話機を接続することになる。

 規模やデータトラフィックにもよるが、10Mbpsネットワークの場合、音声品質確保の観点からIP電話専用ネットワークを構築することをお勧めする。また電話用配線がIP電話用へ変更可能で、かつスイッチがVLAN対応である場合には、スイッチ側の設定変更でIP電話専用のネットワークを構成すればよい。この場合にはIP電話用のネットワーク機材の購入は不要となる。

 上記以外の場合には、配線追加工事、スイッチ購入やその他、関連するネットワークの見直しが必須となる。

2.ギガビット対応

 これは各ワークグループ(フロア)スイッチとバックボーン側に設置されたコアスイッチ間を接続するための部分で、配線ケーブルは通常光ケーブルとなる。同一スイッチ内に収容するデータ端末が多ければ多いほどアップリンク部分は理論的にも太い帯域が必要になる。

 単純にフロアが10Mbpsであればアップリンクは100Mbps、100Mbpsであれば1000Mbps(ギガビット)になることが望ましい。ただし、アップリンクはギガビットでなくてはならないというわけではない。

3.VLAN機能(802.1q)

 VLAN(仮想LAN)は規模が大きくなるほど必要になってくる機能である。これはメディア部分に依存することはなく、スイッチ側の実装仕様となる。なぜこの機能が必要になってくるのか? それは、IP電話には電話番号以外に、IPアドレスという個々の識別情報が必要になってくるからだ。PBXの世界でも番号計画があるように、IPの世界でもアドレス計画が存在する。IP電話は電話機能を提供する前提としてIP端末でなければならないのだ。つまり通常メールやWebなどの業務に使用している端末もIP端末であり、IPネットワークの世界から見るとコンピュータもIP電話端末もIPアドレスを持つことに変わりはない。

 仮に100人の社員に100台のコンピュータが存在する環境へIP電話端末を導入する場合、IP電話端末用のIPアドレスには1人1電話端末で考えると100個のIPアドレスが必要になってくる。会議室などの共有スペースにもIP電話は必要になるので、実際にはこれ以上の数のアドレスを付与しなければならない。

 また運用保守(障害含む)を考えた場合に、通常のデータ端末とIP電話端末のIPアドレスレンジ(割り当て範囲)はルール化されている方が何かと便利である。このようなことから、VLANは規模が大きいほど求められる機能の1つとなっている。 

4.優先機能(802.1pなど)

 優先機能とはいうまでもなく、VoIPトラフィックであるシグナリングや音声フレーム/パケットについて何らかの識別を行い、他のデータトラフィックと区別して優先処理させるための機能を指す。

 イーサネットレベルでは、802.1pといわれるもので8段階の識別をすることが可能である。またIPヘッダフィールド内のTOSフィールドを使用した識別方法(Diffserveなど)・IPアドレスや上位プロトコル(トランスポート層)レベルでトラフィックを識別することが可能な製品も存在する。

 ワークグループスイッチには優先制御機能を求めるよりも、10/100BASE-T、ギガビット対応、VLAN機能を実装しているかどうかが大切となる。

5.PoE対応(802.3af)

 PoE(Power over Ethernet)とは、ツイストペアケーブルを使用して電源を供給するための規格である。この機能を利用すれば、外部電源不要でIP電話端末を動作させることが可能となる。PoEには802.3af規格のものと独自仕様のものが存在する。独自仕様の製品はIP電話端末とスイッチを双方供給可能なメーカーが提供している。

 802.3af規格には、モードAとモードBの2種類の仕様が存在する。モードAは、ツイストペアケーブル8芯のうちデータ用として使われる4芯(ピンアサインメント 1-2ペア/3-6ペア)をデータ通信線として使用して電源供給するタイプ。このデータ通信線以外の空きペア(ピンアサインメント 3-4ペア/7-8ペア)を使用して電源供給するタイプがモードB。

 最近では1人1台のPCが付与されている企業がほとんどであるから、電源コンセントの問題もそんなに深刻ではないと考える。100円ショップでも電源タップは売っている。

 PoEにする場合にはスイッチもIP電話も802.3af対応のものを購入しなければならない。IP電話端末自体はPoE対応でもコスト的には微増であるが、スイッチコストは通常のPoE未対応製品よりも1.5倍程度の割高となる。特に既存ネットワークへ導入する場合には極力ネットワーク構成や機器も変更したくないのが本音であろうと考えるので、IP電話端末が対応のものであるかを確認する程度でよいと判断する。

 ただし、PoE対応製品は、新規建物へのネットワーク導入や既存ネットワークを再構築する場合には、ぜひ取り入れたい機能であることを付け加えておきたい。

6.冗長化構成

 この機能はスイッチ製品に依存する。電源部分やスイッチングエンジン、アップリンクポートを複数持つことが考えられるが、導入はコストとの兼ね合いになってくる。アップリンクポートを複数にして、バックボーンスイッチへの経路を冗長化することが、一般的である。また特に電源系は、ファシリティとの関連やUPSを検討する場合も出てくる。

 実際にIP電話を導入する場合のフロア系ネットワークで予想されるタイプと適用規模等について簡単にまとめた(表2)。自社で実現したい音声品質と現状のネットワークと照らし合わせて参考にしていただきたい。

表2 タイプ別:IP電話に必要なネットワーク機器と音声品質 表2 タイプ別:IP電話に必要なネットワーク機器と音声品質

(3) 主要ネットワークノード機器仕様

 ここではバックボーン側や拠点間を結ぶ個所に配置されるネットワーク機器の持つべき機能について考えてみる。これは先に触れたイーサネットスイッチ機器仕様の5のPoE対応を除き必要となってくる。6の冗長化部分については、スイッチを複数台にすることでも対応は可能であるし、コストも考慮しなければならない。ただし最近は、この辺りの製品も最近比較的安価になってきている。

 拠点間を結ぶ機器について少し触れておくが、構内LANではケーブルネットワークがカテゴリ5で光ファイバが準備されていれば、比較的簡単に高速ネットワークを構築することができる。同様に拠点間も100Mbpsなどの帯域を確保しようとすると、膨大なランニングコストが必要となってしまう。

 実際には、キャリアが提供する広域イーサネットサービスやIP-VPNなどからニーズにかなうものを選択するのが最近の状況となっている。

 これらの拠点間接続に使用する機器には、VoIPトラフィックを最優先させることができる機能とともに、拠点ごとのアクセス回線速度に合わせてシェーピングが可能な多重シェーピング機能が必要となってくる。

 補足であるが、IP電話端末へのIPアドレス設定は手動ではなくDHCPで行われる。このDHCPサーバの機能もネットワーク側で持っていなければならない。


 以上IP電話を導入するベースインフラの要件を説明したが、モデルケースとなるこの会社は調査した結果、一通りこの条件を満たすことが分かった。

 つまり、導入コストとしてはIP-PBXサーバとIP電話端末、一部グループウェア設備を購入すれば、システム構築ができることになる。IP電話を導入するために、ベースとなるインフラ自体をリプレースすることは不要、という好条件であった。

 今回は、配線ケーブル仕様とイーサネットスイッチ機器仕様にフォーカスをあてて、「VoIPネットワークに耐える条件」を考えてみた。次回は電話接続と音声データをIP上で実現するためのシグナリングプロトコルと音声パケットについてSIPプロトコルの特性をかんがみながら考察する。


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