連載
» 2004年05月08日 00時00分 公開

「問題解決力」を高める思考スキル(9):転職、人事異動時に注意すべきこと

[芳地一也,(株)グロービス・マネジメント・バンク]

新天地で働く際に心掛けておくこと

 例年4月は就職や人事異動、組織変更が多い季節。新しい出会いの予感でワクワクする半面、「ホントに“新天地”でうまくやっていけるのか……」という不安もあり、複雑な心境でデビュー初日を迎えた方もいると思います。5月になり、新しい環境にも少しずつ慣れてきたころではないでしょうか。

 4月に多いのは「新卒入社」「組織変更」「異動」ですが、「転職」のピークはもう少し後の7月ごろになるようです。企業側も3月は決算や新卒採用、組織変更などで忙しく、動きが鈍くなりますが、4月の半ばを過ぎると新人研修も一段落して人事部に余裕ができます。そして、中途採用が活発化してきます。そんな事情もあって、4月下旬〜5月に転職先から内定を獲得し、6月のボーナスをもらって6月末で退職、7月1日から“新天地で働く”というパターンが多くなります。

 転職志望者の事情としては、ボーナスをもらってから辞められるという分かりやすい理由がありますが、そもそも転職を考えるきっかけも増えるというのが大きな理由でしょう。「異動の希望が通らなかった」「実績が認められず昇進できなかった」「組織変更で自分のいる部署がなくなってしまった」……など、4月に多く発生する職場環境の変化(あるいは期待する変化がなかったこと)が転職のきっかけになっている場合が多く見られます。

 というわけで今回は、クリティカル・シンキング講師の立場というよりは、マネジメント人材の転職市場を見ているコンサルタントの立場から、マネージャのポジションで転職や人事異動した方が、「効果的にデビューする」ために心掛けておくことを伝えたいと思います。

新参者に対する「周囲の目」

 新しい職場での初日。あなたは新鮮な気持ちで、希望と期待、そして若干の不安を感じながら出社するでしょう。そんなとき、あなたを迎える人はどんな目で見ているのでしょうか。あなたがマネージャ以上のポジションで中途入社する場合、周囲の期待は想像以上に大きいものです。

 まずは上司。中途入社で自分の部下となるマネージャを採用することは、現在のメンバーだけでは力不足で、かつ自分自身が指揮を執るには手が回りきらないという事情があります。そこへ即戦力として外部から人材を迎え入れるということは、自分の意図をよく理解し、できるだけ早い段階でチームメンバーをまとめあげ、求める実績をどんどん出してくれることを期待しています。

 次に同じ階層の同僚。彼らはあなたより前に入社しており、それなりの実績を認められて現在のポジションを勝ち取っています。そこに外部から人が入ってくると、仲間として、あるいはライバルとして、複雑な気持ちで「自分よりデキる人かどうか」を見ます。

上司や部下が注視する点は異なる

 最後に、あなたの部下たち。彼らは能力、価値観や問題意識などさまざまに異なります。前の上司やほかのマネージャと比較しながらあなたを見ます。彼らはあなたをいろいろな観点で評価しますが、最もシビアなのは「自分より仕事がデキる人なのか」というポイントです。ここを早期にクリアできなければ、彼らの心をつかむことはまず無理でしょう。

 多くを学べる人か、尊敬できる人か、自分を引き上げてくれる人か、この人についていけるか……など。上司に期待する多くの要素が、「マネージャである前に、プレーヤとして、ビジネスマンとして自分たちより優秀かどうか」という一点にかかっています。それらを大前提に、マネージャとして自分たちの立場や仕事内容を理解してくれるか、公平な評価をしてくれるか、的確に導いてくれるかという視点であなたを“評価”しています。

 上司、同じ階層の同僚、部下。これらのうち最も気を使うべきは、あなたを評価する立場である上司ではなく、部下です。上司については、目標や期待値さえしっかりとすり合わせておけば問題ありません。

 マネージャであるあなたは、「チームを率いて期待される成果を出せたかどうか」で評価されますので、チームのパフォーマンスを最大化することに集中すれば良いのです。もちろん、実績よりも上司へのご機嫌取りが重視される風土の組織はいまだに多く見られますが、そんな会社は早晩傾きますし、長く在籍するほど自分自身の市場価値を下げてしまいます。間違って入社してしまったら早々に退散するか、自ら先陣を切って組織を変革しましょう。もし、つぶされることなく組織を変革できたら、あなたの市場価値は格段に跳ね上がるはずです。

部下との“知識ギャップ”を補う

 いずれにせよ、転職直後のあなたは期待を込めて注視されていますので、できるだけ早く周囲、特に部下に対して実力を示す必要があります。しかし、物事はそう簡単に進みません。なぜなら、あなたは「“汎用的な能力”については部下を上回る」と判断されて採用に至ったからです。しかし、その会社や業界固有のやり方や課題などについての知識レベルは部下よりもかなり劣っているはずです。従って、あなたは早急にこの知識を補う必要があります(図1)。

●転職直後の「あなた」と「部下」とのスキル比較

図1 転職したら、まずはその業界や会社特有の知識を仕入れることを心掛けよう 図1 転職したら、まずはその業界や会社特有の知識を仕入れることを心掛けよう

 転職を経験したことのない方が陥りがちなミスは、この“知識ギャップ”に気付かず、自分がこれまで確立してきたやり方を新しい会社にそのまま持ち込み、うまく実績が出ないというパターンです。業界、会社、組織、ミッション、構成員などが変われば、マネージャとしての最適な振る舞いは、当然変わってきます。このような状況を把握し、最適な仕事の進め方を考えながら部下を率いていってこそ、最大限の成果が発揮されるのです。

 クリティカル・シンキングの基本は「自分の考えを常に疑ってみる」ことですが、この例のように、時には長い経験で築いてきたものまでも疑ってみることも大切なことです。

マネージャが効果的にデビューする方法

 私がリクルートに在職して2年目になったばかりのころ、グループマネージャが替わったことがあります。転職ではありませんでしたが、彼は別の部署から異動してきて、わずか2週間で見事にグループをまとめあげ、新しい方向性を打ち出してグループを方向付けました。その尊敬すべき上司がそのとき何をしたのかという実際のケースを紹介します。

ケーススタディ〜優れた「新天地デビュー」

 グループマネージャに着任した日の朝、彼はメンバーへのあいさつでこういった。

 「まず、皆さんが普段どんな仕事をしているのか、何がうまくいっていて何が問題なのかを教えていただくことから始めたいと思います。来週、皆さんと1人1時間ずつミーティングの時間を設定しますので、それまでに各自レポート用紙1〜2枚でまとめてきてください」

 数日後、彼はメンバー全員と1時間ずつ、職務内容や仕事上の問題意識、さらに大事にしたい価値観や将来の夢などについても話し合った。これまでの仕事に多少の不満を抱いていた者は数名いたが、親身に聞いてくれる彼に対していろいろと相談した者も多かった。

 全員と面談を済ませた後、彼はグループミーティングの場で新体制について説明し、各自に新しい役割を与えた。担当の入れ替えや役割の廃止など、大きな変更もあったが、メンバーは新しい方針を理解し、スムーズに新しい組織体制に移行した。


 さて、いかがでしょうか。これは私がメンバーの1人として経験した実話です。これまで説明してきた「効果的にデビューする」ためのノウハウがぎっしり詰まっているのが理解していただけると思います。

 彼はこの面談を通じて、各メンバーの職務内容、問題意識、能力、志向、適性、さらに組織が抱えている問題点などを把握しました。さらに、部下に対して「この人はきちんと話を聞いてくれるし、自分のことを理解してくれる良い上司だ」という認識を持たせることにも成功しています。

 さらに、グループの現状や課題を短期間で把握したことを踏まえて、的を射た改革案を出して実行に移しました。面談の内容を踏まえて新しい方向性を打ち出したので、メンバー全員が「グループの新しい方針に自分の意見が反映された」という意識を持ち、各自の仕事に対してより強くコミットすることができたのです。

最初の「3カ月」が勝負!

 新参者には期待の込もった視線が注がれています。最初に「こいつは仕事のできない奴だ」とみなされると、思うように協力が得られず実績も出せないという悪循環に陥ってしまいます。

 紹介した事例のようなテクニックは非常に有効ですが、それと同時に、最初の3カ月は誰よりも働き、誰もが認める実績を1つでも出すといった心掛けも非常に重要です。

 以上、皆さまの新天地でのご活躍を心よりお祈り申し上げます。

筆者紹介

(株)グロービス・マネジメント・バンク

芳地 一也

(株)グロービス・マネジメント・バンク、コンサルタント。グロービス・マネジメント・スクールおよび企業内研修においてクリティカル・シンキングの講師も務める。東京大学文学部心理学科卒業後、(株)リクルートを経て現職。グロービスは経営(マネジメント)領域に特化し、ビジネススクール、人材紹介、企業研修、出版、ベンチャーキャピタルの5事業を展開。経営に関するヒト・チエ・カネのビジネスインフラを提供することで、日本のビジネスの「創造と変革」を目指している会社。



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