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» 2004年09月23日 05時00分 公開

頭脳放談:第52回 無線周波数の再配分について考えてみた

無線周波数は有限な資源だ。その利用料課金と再配分について考えてみた。公平な課金と世界から孤立しない無線周波数の利用法とは?

[Massa POP Izumida,著]
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連載目次

 海外旅行へ行くときに、海外で使える携帯電話を借りたことはないだろうか。成田空港の周辺では貸しているお店が多いから、実際借りている人も多いのではないと思う。普段使っている携帯電話が海外でも使えるという人も中にはいるだろうが、普段PDC方式(Personal Digital Cellular:日本国内で最も一般的なデジタル携帯電話の方式)の電話を使っている場合は借りて行くしかない。筆者もそうしている。

 片や筆者の周囲の外国人は、日本に来るとき「だけ」借り物の携帯電話を持っている。ほかの国に行くときには普段から使っている携帯電話のまま使えるからだ。知ってのとおり、これは世界のほとんどの国でGSM方式(Global System for Mobile Communications:ヨーロッパや中国など採用されている携帯電話の方式。世界で最も普及している)の携帯電話が使えるのに、日本ではGSMでなく、PDCであるために起きる。

 最近の第3世代(3G)携帯電話では、日本の携帯電話が海外で使えるような構図になりつつある(そういえば、NTTドコモはオリンピック期間中にアネテでFOMAがそのまま「日本国内扱い」で利用できるというプロモーションを展開していたっけ)。ところが3Gのサービス自体が、海外では日本ほど急速に立ち上がっていない。海外ではGSM方式の携帯電話を借りる、という状況がしばらく続きそうだ(3GとGSMの両方式を内蔵する機種も販売されているので、こういった機種を利用するという手もあるが)。

 さて無線LANはどうだろう。驚いたことに最近筆者が乗った飛行機は、機内で無線LANのサービス(もちろん有料で、かなり高額)があった。実はそれを使って、この原稿のテーマについての担当編集者からのメールに返信したのだが、実に便利である。年末にはかなりの航空会社でサービスが始まるらしい。飛行機の中でも仕事が飛んでくるのである。ましてやほとんどのホテルで無線LANが使える。シリコンバレーのように無線LANサービスは基本的に無料というところから、飛行機のように高額なものまであるが、ともかくIEEE 802.11bならばどこでもつながる。先日も山岳地帯の美しい湖畔のほとり、中世に建てられたかとも思われる古い木造の一軒宿に「無線LAN使えます」のマークがあったくらいだ。「こんなところでビジネスかよ」と思ったが、筆者も観光ではなかった。

 門外漢のマイコン屋が、続けざまに「電波」関係にコメントするというのも気が引けるのだが、このところ電波の周波数割り当てに関して気になる話題がいくつかある。今回は、これらを少しばかり考えてみたい。PDCも無線LANもこれを考えるための1つの事例となるだろう。判断を誤ると、日本だけが、電波の孤島は大げさだが、片田舎くらいになってしまう恐れもある。もちろん、周波数は有限で、それも日本のような小さな面積の国にも米国のような広い国にも、物理的には一律に存在する資源である。それをどう配分するかというのは、みんなの問題なのである。まぁ、マイコン屋、ひいては半導体屋は節操がないので、決まった割り当てで最大限にチップを作りまくるという意志しかないのだが……。それにしても、市場が日本しかないのか、世界中で同じものが売れるのかでは、大きな違いがある。「門外漢」ともいっていられない。

無線周波数に対する課金はどうあるべきか

 このところ注目を集めているのが、携帯電話の周波数再割り当てについての当局とソフトバンク社の軋轢であろう。意見広告も見た人もいると思うが、それもあって異例な数のパブリック・コメントも集まったそうだ。しかし今回は、この問題ほど話題になってはいないものの、別の2つの問題に注目したい。1つは電波全般にわたる「課金制度の見直し」という問題であり、もう1つは「433MHz帯」の利用に関する問題である。これらを見ていくと、有限のリソースを上手に配分するということが難しいだけでなく、将来の発展の仕方をも決定する重要な決断であることが理解できるだろう。

 まずは電波全般にわたる「課金制度の見直し」の問題である。多分、この文章が公開されるころに意見集約が終わっていることになる。携帯電話などは、ある特定の周波数帯を占有使用する必要がある。限りある周波数の一部を使って商売するのであるから、その免許取得の「代償」としてお金を納付するのは当然といえば当然かもしれない。実際、すでに日本でも携帯電話には課金されていて、みんなが持っている端末につき、500円玉1個くらいが支払われているそうだ。海外では、周波数帯の免許に関して入札をしたために、その免許料がとてつもない巨額となり、携帯電話会社の経営をゆるがせたという事例もある。

 そのお金の使い道を今回とやかくいうのは止めよう。お金が入る分税金を安くするという発想は日本政府にないのは当然で、ガソリン税が道路へ行くごとく、電波からとるお金は電波の有効活用に使われるそうである。しかし、とれるお金を最大にする、という発想もないようで、携帯電話のように巨額のお金が動くビジネスの成立する周波数帯についても、外国のような入札制度にして料金を吊り上げる気はさらさらないようである。

 まぁ、確かに利用料が高くなれば、月々の利用料金が上がってしまう可能性もあり、エンド・ユーザーにも影響が出るだろう。かといって競争原理が働かなくてはサービス向上も料金低下もないことは、みんなが経験してきたとおりである。また、一部の会社に不要に広い周波数帯が割り当てられていたり、技術の進歩により幅の狭い周波数や異なる周波数で目的を達せられるようになったりしたら、再配分を動的に行っていく仕組みもないと、進歩が止まり硬直化する。経営が難しくなると経営者にはいわれるだろうが、あまり長いスパンで固定してしまうと、この先どこまで急展開するか分からない無線関連技術が常に不適合となり、規制が進歩の足を引っ張ることになる。

 エンド・ユーザーの利用料金と免許料、経営の折り合いのつくところで、フェアに配分(これが難しいが)する方法を考えるべきだと思うがどうか。個人的には、入札以上に過激だが、この際、周波数を小分けに「証券化」して市場で売買するくらいの方法を採用してもよいと思っている。買占めに関する対策は必要だが、特定帯域で確保できる上限は決められるだろうし、占有率で課金レートを上げることも可能である。これならどんな会社でも市場原理で携帯電話に参入できるし、再配分もなされる。しかし、決してこういう答申がなされることはないのでご安心を。多分、携帯電話に対する課金は、「ほどほど」のところで折り合いがつくのであろう。

 しかし、免許不要無線に対する「課金」という問題が残っている。この際、携帯電話ばかりからお金をとらず、無線を利用するすべての機器からとれ、という議論である。公平といえば公平な議論である。小電力で免許不要の領域、それこそワイヤレス・マイクやコードレス電話から、無線LANやRF-IDに至る分野についての課金という問題である。当然、免許がないので、免許=利用に対して課金するのは難しそうだ。そこで、製造に課すという話もチラホラ出ている分野である。ここに課金すれば、世界に先駆けてということになるが、どうだろうか。無線LANなどからも取るということになって、成田空港で申告用紙を配ると外国人はおどろくだろう(そんなことにはならないだろうから、真に受けないように)。どこからどれだけ取るかという話は、いまのところまだまとまっていないようだ。そういう制度を始めると、免許不要、あるいはだれでも勝手に使えるといいつつ、料金を払うために登録してしっかりとお金を払う事業者がいる半面、逃れる部分もあって、不公平感が高まるのではないかと思うのは筆者だけだろうか(そういえば、テレビ付き携帯電話に対するNHK受信料はどういう処理になっているのだろう?)

433MHz帯を開放すべきか否か

 もう1つ、RF-TAG関連では、433MHz帯TAGをめぐってアマチュア無線の方々とそれを推進する米社の軋轢の話が出ている。昔から欧州などは433MHz帯をいろいろな装置に使ってきたのだが、最近物流系、特に航空貨物系のRF-TAGに応用が広がり、米国でもほかとの共用ということで無理やり使っている。日本では近くの周波数に日本独特の「特定小電力無線」という技術適合の検査は必要だが、免許不要の周波数があるものの、433MHz帯はアマチュア無線に割り当てられている。課金については日本独自路線を進むように見える当局が、ここでは国際整合性を重視する立場で、既得の周波数を手放したくないアマチュア無線側と綱引きが行われている。結論はなかなか出ないかもしれない。筆者は周波数を手放さないアマチュア無線側を責める気もないが、日本での議論が長引けば長引くほど、欧米は日本抜きで勝手に433MHz帯を利用したRF-TAGのワールドワイド化(世界標準化)を推進しまうだろう。これもPDCのように後になっていろいろ考えさせられる事例の1つになるのは間違いない。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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