現役で技術を究める――その落とし穴転職を阻む意外な落とし穴(13)

転職する際に重視することは何か。給料、希望職種、経営者のビジョンや方針、スキルアップ支援など。しかし、いざ転職する場合に、そんなこととは関係なく、思いもよらぬことで転職を断念しなければならないことがある。そんな例を、毎回キャリアデザインセンターのキャリアコンサルタントが紹介する。

» 2004年12月23日 00時00分 公開
[石田真一@IT]

現場で……、技術で……

 現場でバリバリ技術者を続けたい。上流工程などでの管理(マネジメント)はあまりしたくない、といった希望を出した場合に転職先はあるのでしょうか。

 年齢が若ければ問題ないでしょう。しかし20代後半にもなると、プロジェクトの中でもリーダーとしての役割を求められることが多くなります。

 30歳近くなってもそうしたリーダーとしての業務にかかわるチャンスがない環境にいるエンジニアには、将来プロジェクトマネージャになれるようにするため、プロジェクトリーダーなどのマネジメント業務を経験できる転職先を希望する方が多いようです。

 しかし中にはマネジメントはあまりしたくないという希望を持つ方もいらっしゃいます。「エンジニアとしての技術スキルを追求していきたい」「人的マネジメントをやりたくない」など、その理由はさまざまですが、実はマネジメントの業務を避ける方には、あまり多くの求人などを案内できないのが現状です。

あるエンジニアの転職希望は

 実は先日もあるエンジニアの方から、「エンジニアとしての技術スキルを追求していきたい」という相談を受けました。

 柳沢しげるさん(仮名・32歳)は有名大学の大学院を卒業して大手メーカーに入社。組み込み系エンジニアとして、コピー機の組み込みソフトの開発に携わっていました。技術レベルも高く、新製品にも多くかかわっていたのです。そんな柳沢さんの希望はJava、UMLを身に付けて、Web系の開発にチャレンジしたいということでした。つまり、技術をより究めたいというのです。

 通常32歳ともなると、これまでの経験を生かして、そのまま組み込みのエンジニアとして開発の上流工程での企画業務や、チーム・マネジメント業務をする、というのが大半です。

 しかし柳沢さんは学生時代から探究心が人一倍強く、新しい技術の習得にとてもこだわりと自信がありました。そんな彼に私は次のような質問をしました。

「マネジメントだけではなく、システムや製品の企画業務には興味がないのですか?」

 多くの企業では開発プロジェクトのマネジメントと、企画業務は非常に近いところにあります。Web系開発をするにしても、企画段階からかかわるには、顧客の要望をキャッチし、開発全体を見渡せる人材になっている必要があるのです。32歳でキャリアチェンジを行い、一からノウハウを得るには、年齢的にかなり厳しいといわざるを得ません。

 技術を追求していくのであれば技術専門のアウトソーシング企業に入社して開発を続けるという道もあるわけですが、その中で上流工程に携わっていける環境がある企業は限られますし、そういった企業もまた、若手の人材を求めているのです。

 結局彼の希望に見合う企業は少なかったのですが、その中から3社に応募しました。部下の育成を求めない企業ということでしたが、結果は2社では不採用で、1社で内定が出ました。しかし年収は以前よりも200万円以上低かったため、柳沢さんは辞退しました。

企業が求めること

 企業側も開発経験や能力だけでなく、マネージャ候補として、チームをまとめたり、顧客との接点を持ったり、後輩の育成をしたりという経験、もしくはその素養のある方を求めています。

 企業が社員に求めることは、顧客であるユーザー企業が求めていることです。顧客にとって重要なのは、システムに高度な技術や最先端の技術が使われているかどうかではなく、そのシステムが自社の課題を解決してくれるかどうかですから、要望をどう実現するかを設計し、完成まで責任を持てる人材かどうかなのです。

 1人だけマネジメントをやらずに開発に専念する人材がいると、給与体系や組織編成など社内のバランスが崩れるので避けられてしまうことがあります。

 確かに一部では、技能職(エキスパートなど)といった職種で、こうした開発に専念する人材を採用する企業もあります。こうした企業では、制度や組織として技術職とマネジメント職をはっきりと切り分けているところが多いようです。しかしそうした企業は一部の大手や先端技術研究に力を入れている企業などに限られていて、少数派なのが現状です。

スキル追求型のリスク

 技術スキルを追求していると、避けて通れないリスクがあります。それは、転職市場で「旬」の募集職種と、将来のトレンドが微妙にずれていると思われるケースが多いことです。

 例えば、業務系インフラのシステムエンジニア(SE)の採用ニーズです。現在のハイエンド市場のトレンドはUNIXです。この分野に長けたエンジニアは、現在稼働中のシステムを運用したり、導入したりする案件が多いせいで、人材の採用でも大変ニーズがあります。

 ところがITの業界誌などでは、今後の市場トレンドは、現在主流のUNIXのほか、Windows、Linuxとの激しい三つどもえの戦いになると予測しているようです。しかし、現在の求人マーケットにおいてはハイエンド分野ではまだWindows、Linux関連の求人はあまり多くはありません。

 では、どの分野に強くなることが市場価値を上げるのでしょうか。UNIXの経験がある日意味のないものになったら……。Windowsの世界に飛び込んだがハイエンド市場での伸びが予測ほどではなかったとしたら……。

 一般的に技術トレンドが変わっていくとき、多くの企業は、新しい技術を吸収力の高い若手への社内研修や即戦力を求めて行う人材採用、またはほかの企業とのパートナーシップで対応しようとします。その意味でも40歳になってもスキルだけで生き残るのは難しいといえるのです。

どんな職種でも求められること

 エンジニアもまた、ビジネスマンです。顧客が求めていることを実現するためにできること、企業の一員としての役割を果たしていくこと……。それらのために自分自身の経験やノウハウを広げていく必要があります。それはどんなビジネスでも、どんな職種でも共通していえることです。

 20代でやること、30代、40代とそれぞれ求められることは当然、変わっていくものです。開発プロジェクトの1要員として、技術スキルを磨き「開発力」を発揮するステージから、全体を見渡してプロジェクトをまとめ上げていくステージへ、さらには組織や企業の強みを伸ばしていくステージへと……。

 エンジニアとしてだけでなく、ビジネスマンとして、自分がどうありたいかをぜひ考えてみていただきたいと思います。

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