社内ブログはナレッジマネジメントツールとして機能するか?ものになるモノ、ならないモノ(1)

本コラムでは、ネットワークの新しいテクノロジや考え方に注目する。注目するテクノロジへの、企業の新しいスタンダードとして浸透していくことへの期待を込めてコラムタイトル「ものになるモノ、ならないモノ」にした。 第1回目は、グループウェアやナレッジマネジメントツールの土俵に上がってきた「社内ブログ」にスポットを当てたい。(編集部)

» 2005年06月07日 10時00分 公開
[山崎潤一郎@IT]
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連載目次

社外向けのPR利用でのビジネスブログ

 「ビジネスブログ」という言葉を聞いてまず思い出すのが、企業が自社商品などの宣伝のために公開するブログであろう。個人ブログのブームに呼応するかのように、いまでは企業も、先を争うようにブログを構築して「SEO的にバッチリ」「低コストの割にはアクセスを稼げる」「コメントやトラックバックで生の声が集まる」「掲示板と違って荒らし行為が少ない」などのメリットを声高にうたい、ちょっとしたブームの到来だ。そして、ホリエモンで一躍市民権を得ることになった社長ブログ系も、フレンドリーな体裁で自社を広く知ってもらおうという宣伝行為の一種と考えれば、ビジネスブログに分類できる。ということは、ビジネスブログというのは、更新と管理の簡単なシステム──CMSなどともいう──を使った新手のホームページというわけで、じゃあ、本質的な部分ではこれまでのモノと同じじゃん! という疑問も起きるというもの。

 まあ、企業のホームページ上でいきなり「昨日はこれ食った」などと社長の私生活を公にされても、読んでいる方は興ざめするだけなので、それがブログという形で語られた途端、なにやら「家政婦は見た」的な興味を持って、フムフムなどと真顔で読んでしまうところにブログの効果あり、というのであれば、それは正解なのだろうが……。

 とまあ、社外に情報を発信するためのビジネスブログは、ちょっと目新しい名前と更新の簡単な仕組みを得ただけの、新種のホームページと分類することにした。ちょっと強引でしたか? あっ、それとコメントとトラックバックも新しいが……。でも、商品宣伝系でコメント受け付け拒否が多いのは、いかがなものか、って、そうなるとやっぱり普通のホームページと変わらない。

ナレッジマネジメントの方法論としての「社内ブログ」

 さて、ここまでは前置き(長くてすみません)。問題は、社外に見せるためのブログではない。社内用ブログなのだ。いま、社内で利用することを前提としたビジネスブログという方法論があり、その効果的かつ実践的な利用方法の研究開発が熱い。

 社内での利用方法の1つが、情報共有のためのツールという位置付けだ。いわゆるナレッジマネジメントのツールとしてブログを利用しようというものだ。ん? ナレッジ系ツールには、グループウェアという大先輩がいて、すでに社内での地位を盤石なものにしているはず。そこにブログが入り込む余地はあるのだろうか。

サイボウズ・プロダクト本部 プロダクトマネージャーの小川浩氏 サイボウズ・プロダクト本部プロダクトマネージャーの小川浩氏

 一般的にナレッジマネジメントは、グループウェアを使い、営業日報といった個人が日々蓄積してゆく文書を組織全体で共有したり、業務に関する議論や意見交換を行う掲示板のような場を設けたり、あるいは、蓄積した情報の中から過去の事例などを検索できるようにしたもの、と認識されている。では、ブログはこれ以外に、あるいはこれ以上の、どのようなナレッジマネジメント効果をもたらしてくれるのであろうか。

 社内ブログ活用研究の第一人者で、『ビジネスブログブック』の著者であり、かつサイボウズ・プロダクト本部プロダクトマネージャーの小川浩氏は「一般的にグループウェアは、『形式知』に対する検索性は高いが、『暗黙知』の中から知りたい情報を引き出すことには向いていない」と分析する。

社員の頭の中にある“知”を活用する

 えーと、ここでちょっとお勉強。人間の持つ知識を2つに分類する考え方がある。『形式知』は、第三者に理解しやすいように、文章、図版などで表現される知識を示し、『暗黙知』は、個人の頭の中にあり、明確な形で表現されていない知識を示す言葉だ。

 ということは、個々の社員の中にある文書などで具現化されていていない暗黙知を、明確な形式知へ変換し、組織内での知的な創造と共有を行うという、ナレッジマネジメントが目指す高みに到達するには、ブログの方が向いているということになる。

 小川氏は、次のような例え話をしてくれた。グループウェア上に蓄積された情報から、例えば「リナックス」について調べようとしたら、そこから得られるのは、「リナックスとは何ぞや」というそのものズバリの情報であったり、それに深く関連する周辺情報だったりが中心となるだろう。だが、ブログにより構築されたナレッジデータベースであれば、「リナックス」について軽く触れた程度の情報にも到達することができ、それら情報を読み解きながら蓄積することで、リナックスの全体像を思い描き、最終的にはそれを理解することができる。

 つまり、知りたいテーマに対して極めて緩い適合性しか持ち得ない形式知の中から得た情報や方法論で業務を遂行する。そして、その業務の中からまた新たな暗黙知が構築される。そして、それをデータベースに形式知としてフィードバックする。それを参考にした人がまた新たな暗黙知を作り出す、というポジティブなナレッジ共有の連鎖作用をサポートするツールが社内ブログということになりはしないだろうか。

 そういえば、このような情報収集はインターネットの時代になって実は多くの人が無意識に実践している方法である。あるテーマを調べるときに検索エンジンでヒットしたサイトを片っ端から確認し、そのテーマの全体を理解しようとする行為、それに似ている。そして、そこから得られた知識は、そのテーマを核としてその周りに明確な境界線を持たない広がりを見せ、多角的な知識や解答を得ることができる。それと同じ理屈で、社内で業務に関するブログが立ち上がっており、そこに暗黙知の情報発信や蓄積があれば、ナレッジ共有できるデータベースが日々構築されていくことになる。

 ただ、ナレッジマネジメントで必ず問題となる、情報を発信する人間とそうでない人間に分かれてしまうという点は、いくらブログでも克服することができない。いや、ブログだからこそ、トップダウンで強制的に“書かされる”グループウェアに比べかえって不利なのではないか。

 それに関して小川氏は「社内ブログは、書く人と読む人がまったく別であっても問題はない」と言い切る。情報を持ち発信する能力のある人がどんどん書けばよく、その一方で読むことに徹する人がいても一向に構わないのだそうだ。社内ブログは、読む人と書く人のチームワークがあってその威力を発揮するもので、みんなに書かせることよりも、むしろいかに多くの人に読ませるかという部分に注力すべきだという。

膨大な情報を選別するという課題

 小川氏は「ブログを形でとらえるから本質を見誤る」という。ブログは、RSSという仕組みにより関連情報が配信され、その結果としてメタ的につながるところに、その存在価値があるというのだ。そこで重要になるのが、RSSリーダーだ。社内ブログに日々更新される情報がRSSリーダーにより社員個々の目に触れる、それが大切なのだ。その重要性に気付いたサイボウズでは、Webグループウェアである「サイボウズ・ガルーン」に簡易RSSリーダーを搭載した。サイボウズのポータルにブログの新着が表示される仕組みが取り入れられている。今後、グループウェアベンダ各社は同様の機能を搭載してくるだろう。

 ただ、心配なのは、社内ブログがうまくいって、情報の配信や蓄積が活況を帯びてきたとき、それを受け取る側は情報過多になり、それだけで拒絶反応を起こしてしまうのではないかという部分だ。まさか1日に5000通のメールに目を通すホリエモン(著書:東洋経済新報社発行「100億稼ぐ超メール術 1日5000通メールを処理する私のデジタル仕事術」より)のマネをして、社員に高速情報処理の術を身に付けろ! というわけにはいくまい。それに、上記で述べたような社内ブログからの解答の見つけ方は、ある種、構造主義の研究の徒のように地道で丁寧な理解と解読を必要としているようにも感じる。果たして忙しいビジネスマンにそれができるのかという心配もある。

 まあ、とにかく、社内ビジネスブログ構築の方法論は、その序章の1ページ目が開かれたところなのだ。果たしてそれを、単に「ブームに乗り遅れるな」というレベル以上の、実用的・効果的な真のナレッジ共有のステージまで引き上げる実践論を、誰が一番に構築するか、それが楽しみだ。

山崎潤一郎

著者の山崎潤一郎氏は、テクノロジ系にとどまらず、株式、書評、エッセイなど広範囲なフィールドで活躍。独自の着眼点と取材を中心に構成された文章には定評がある。


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