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» 2005年06月22日 00時00分 公開

一歩上いく英文履歴書の書き方、使い方(8):英文履歴書は国と時代を反映する

英文履歴書をより魅力的に、ほかの人と差別化して書くにはどうしたらいいのか。そんな英文履歴書の書き方、使い方を解説しよう。

[福島由美,@IT]

 英文履歴書は、その国のその時代の雇用情勢や、求職者側・求人側両者のニーズと「こうあってほしい」という希望を忠実に反映します。そのため書き方のトレンドは絶えず動いています。今回は、海外の企業に直接応募しようという方のためにも、米国の履歴書Resume、英国の履歴書CVのそれぞれについて、そのトレンドを見てみましょう。国内で米国系企業と英国系企業に応募する際の、英文履歴書の書き方の違いの注意点としても役立つと思います。

米国式Resume

 米国には公的機関に認定されたプロの履歴書ライターがいて、履歴書ライターの業界団体もあります。彼らは他人のResumeを書くことでお金をもらっているわけですから、より素晴らしいResumeを作ろうと、常に研究を重ねています。

 現在、Resumeに盛り込むべき情報は、基本的には

  1. Contact Information(氏名および連絡先)
  2. Objective(希望職種)
  3. Professional Summary(またはProfile。個人の履歴を数行にまとめたもの)
  4. Work Experience(アルバイトなども含む職歴)
  5. Education(学歴およびトレーニング歴)
  6. Skills (技能)

です。

 Career-Resumesのサンプルを見てみましょう。ご覧のように、職務に関係のある情報が強調され、それ以外の「趣味」「リファレンス(紹介元)」といったものは極力省かれています。人種、性別や未婚/既婚などの個人情報を書かないのは、雇用機会均等法上問題になるからです。

 このサンプルには大学に関する「年代」の記述がありませんし、書かれている場合も通常は学位の取得年(または卒業年)のみです。この理由は、学位の取得そのものは能力の証明のために重要であっても、いつ取得したか、何年かかって取得したかはあまり重要ではないと考えられる(あるいは、考えてほしい)からです。米国では、いったん社会に出た後で大学や大学院に入り、学位を取得する人が多いのです。

 リファレンスが省かれるようになったのには、2つの理由があります。1つは、リファレンスは求められれば必ず提出することが前提になっているので、わざわざ書く必要がないからです。もう1つは、書類選考の時点でリファレンス情報を出してしまうと、リファレンスに名を連ねた人の「Poaching」(「密漁」のことですが、「人材スカウト」「引き抜き」の意味もあります)に使われてしまうかもしれないからです。実は日本でも、リファレンスを入れた英文履歴書を人材紹介会社に提出したところ、その人材紹介会社がリファレンスのリストにある人たちに、個別に「転職先紹介」のアプローチをしたという話があったと聞いています。

英国式CV

 英国のCVは、基本的には米国のResumeの書き方の後を追っている部分が多くあります。これは英国の長期雇用の崩壊が米国よりも後に起こったため、先に転職が一般的になった米国の履歴書を参考にして、雇用の流動化に対応した履歴書を書くようになったためのようです。ですからResume同様にCVのスタイルには、連載第5回(履歴書のスタイルを究める)で説明したChronological、Functional、Combinationといった区別があり、記述には連載第2回(「英語的発想」対「日本人の常識」)で説明したAction Wordsが多用されます。とはいえ文化が違いますから、CVには英国独自の事情が反映されます。

 Pathways to Performanceのサンプル(pdf文書)を開いてみましょう。

 2ページ目の最後に、「Personal Details(詳細な個人情報)」「Hobbies&Interests(趣味)」の欄があります。一般的にCVにはこの2種類の情報を含めます。前者には、生年月日と既婚未婚の別、子どもの数などが書かれ、場合によっては国籍や性別、子どもの年齢も記入されます。また、CVには個人情報欄に「Driving License:Full,clean」と自動車免許(Driving Licenseとは英国のいい方で、米国ではDriver's Licenseといいます)に関する情報を入れる人が多いです。とはいえ、個人情報をギリギリまで簡略化したり(生年月日のみ)、趣味をスペースの無駄として省いたりする人も一部にはいます。これもResumeの影響といえるでしょう。

 趣味を書くのはどうしてでしょうか。英国企業では米国企業よりも、応募者の人間性や性格を重要視しているのかもしれません。しかし、別の意図がある可能性もあります。英国は依然として階級社会であり、「所属する階級にふさわしい趣味」もある程度決まっているので、趣味を書くことで育ちが分かることがあるのです。階級によってどんな職業に就くべきかの暗黙の規範もあり、通常はこの規範を破ることは難しいし、嫌われるようです。

 個人情報が2ページ目の最後の方に置かれているのには、2つの理由があります。1つはこれが書き手の実力・実績とは関係のない情報だからです。もう1つは、この情報がマイナスの情報になり得るからです。

 仮に応募者が中高年だとします。生年月日を1枚目の上の方に書いたら、企業はCV全体を読む前に、年齢で不採用を決めてしまうかもしれません。マイナスになることが分かっていても記載しなければいけない情報は、実績に目を通してもらった後に知られた方がよいという考え方から、あえて後ろに持ってきたのです。

米国式と英国式の違い

 最近は英国でも、Chronological CVといえば新しい年代から書くものが多くなっていますが、一部には日本の履歴書のように古い年代から記載する形式も残っています。古い順に書いたものでも、記述内容にはAction Wordsと実績を表す数字が多用されます。しかし、そこはやはり英国人。どんなスタイルを使って書いても、米国人ほど押し出しが強くありません。CVには、記述内容がResumeより若干おとなしく、デザインもシンプルなものが多いです。

 さて、日本人は英語に関連するものとなると、米国流をまねる傾向にあります。そのため、現在日本で出回っている「英文履歴書の書き方」のノウハウも、多くが米国の書き方を参考にしています。また、すべてとはいえないまでも、多くの本が数年前の書き方を紹介していますし、一度本が出版されると改訂版が出ず、そのままなのです。

 もちろん国内の外資系企業へ応募する際の英文履歴書には、米国や英国のものとは異なる傾向があることも確かなので、やみくもに海外の英文履歴書の最新のトレンドをまねることが、必ずしも良いこととはいえません。しかし、古い英文履歴書の本を参考にし続けている人は、取りあえず書店に行き、最近出版された本の中から自分が納得できるものを選んで買い直した方がよいようです。

 中には、履歴書を人生の最初に作ったときに参考にした書き方を「これこそが履歴書の書き方の王道である」と思い込み、20年以上前の書き方を頑固に守り続けている人もいます。しかし、英文履歴書の様式は、時代のニーズとともに徐々に変わっていくものなのです。

英文履歴書ワンポイント解説

■キャリアダウンの転職で注意したい表現

 この連載で私は、読者の皆さんの多くが「比較的若いエンジニアが中心で、キャリアアップを目指している」と想定しています。しかし中には「キャリアダウン」の転職を考えている方もいらっしゃるでしょう。

 キャリアの追求よりも、自分自身の時間や家族との時間を重視してキャリアダウンをすることを、英語では「ダウンシフティング(downshifting)」といいます。いわゆる「ワーク/ライフ・バランス(work-life balance)」のための転職です。米国は1990年代以降、こうした動機の転職が多くなってきていますが、今後は日本でもこのような理由によるキャリアダウンのための転職が増えていくかもしれません。

 では、ダウンシフティングをしようとする応募者に対する、企業の反応はどうでしょうか。

 「こんなに素晴らしい経歴の方が当社に応募してくれるなんて!」と感激して面接に呼んでくれることは、まずありません。外資系企業といっても、日本的風土が強いところも本社の文化が強いところもあるので一概にはいえませんが、一般に欧米系企業では本国色が強いところほど、募集しているポジションに一番ぴったりの人を採用する傾向があります。必須要件を満たしていない人が採用されにくいのはもちろんですが、必要以上に資格、学歴、経験がありすぎる人、すなわち「オーバークオリファイド(overqualified)」な人も敬遠されてしまいます。

 また、本音をいえばキャリアアップまたは少なくとも前職と同等条件の職を目指したいのだけれど、厳しい労働市場の現実を考慮して、やむを得ずキャリアダウンの道を選ぶ人もいるでしょう。前職が上級管理職や、中高年の方に多いこういう応募者も、オーバークオリファイドと見なされます。

 オーバークオリファイドな人間に対する企業側の恐れは、以下のようなものです。

「この応募者にはこのポジションの職務は単純すぎるので、すぐに飽きてしまうだろう」

「この人物を雇ったら、予算よりも高い給与を支払わなければならないかもしれない」

「状況(雇用市場や本人の事情)が変われば、すぐに違う会社にいってしまうかもしれない」

 さらに、上級管理職の経験がある応募者や、中高年の応募者の場合、企業は以下の懸念も持つでしょう。

「若い上司の指示に従えるだろうか」

「チームの一員としてやっていくのは難しいだろう」

「管理職になりたがるのではないか」

「これまでの仕事のやり方に固執するかもしれない」

 こういったオーバークオリファイドな応募者に対して、米国では履歴書に対するアドバイスとして、以下のようなものが多く見受けられます。

  1. 大学より上の学歴を履歴書に書かない、あるいはぼかした表現で書く
  2. 年配者の場合は、15年以上前の職歴を省略する。どうしても書かなければいけないときは、古い職歴をまとめて1つとして書く
  3. 職歴にタイトル(肩書き)を書かない
  4. 応募する職務の必須条件に合うスキルを強調する
  5. チームワークや柔軟性があることを示す

 日本国内で英文履歴書を書くときに、上記がどこまで応用できるかを考えてみましょう。

 日本語の履歴書を添えずに英文履歴書だけで応募する場合には、1と2については履歴詐称になりかねません。日本語の履歴書とともに英文履歴書を提出した場合も、両方の履歴書の記載内容のギャップが目を引き、かえってオーバークオリファイドが目立つ結果になることがあります。

 3のタイトルについては、「第5回 履歴書のスタイルを究める」のコラムで、職務内容をひと言で表す非常に重要なものだと述べました。本来はタイトルを記載することが望ましいのですが、このタイトルが「出来過ぎ」の印象を強めてしまうかもしれません。

 そこで、あえてタイトルを省略できる履歴書のスタイルを選びます。Functional ResumeかCombination Resumeです。この2つのフォーマットは特定のスキルを強調するので、4と5の目的を果たすのにも有効です。ただし、英文履歴書のみで応募する場合、Functional Resumeでは、かえって「訳あり」を強調する可能性があります。Combination Resumeで4も5も満たすのが妥当な方法だと思いますが、いずれにしろ決定打はありません。

 オーバークオリファイドな応募者にとって最も有効な手段は、「とにかく一度採用担当者と会って、応募にかける自分の熱意と職務に対する適性を知ってもらう」というものです。履歴書は「会ってみたいと思わせて選考をパスし、次のステップである面接に持ち込む」のが主要な目的の1つなので、本来の選考とは順番が逆になります。順番を逆にできる可能性があるのは、「担当者が以前から応募者を知っている」場合や「採用担当者が断りきれないほどの影響力のある人間から応募者の紹介があった」場合です。人材紹介会社を経由している場合には、人材紹介会社の担当者の信頼を得てそこから話を通し、とにかく一度企業側の担当者に会わせてもらうという方法もあるでしょう。

 こう考えてみると、転職を視野に入れている方は、日ごろから業界内外のネットワーキング(人脈づくり)をしておくに越したことはありません。そういえば米国でも英国でも、長期雇用が崩れて「キャリアの自己管理」がいわれるようになってから、このネットワーキングの必要性がことさらに強調されるようになりました。


本記事は、「B-zine(ビージン)」(メールマガジン)に掲載された記事を基に加筆、修正したものです


筆者プロフィール

福島由美

外資系メーカー、会議通訳、再就職支援会社勤務などを経て、現在は某大学で非常勤講師としてビジネスコミュニケーション科目群を担当。異文化ビジネスコンサルタントとしても活動中。著書に『異端パワー?「個の市場価値」を活かす組織革新「新しい経営」シリーズ』(共著、日本経済新聞社)がある。



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