連載
» 2005年07月23日 05時00分 公開

頭脳放談:第62回 CLIEの悲しみ−−インテルとイー・アクセスの協業がPDAを救う?

イー・アクセスが携帯電話市場に参入できたあかつきには、インテルとの協業で携帯電話端末を販売するという。それは新たなPDAとなるのか?

[Massa POP Izumida,著]
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 実は個人的にかなり残念に思っていることがある。大分前にすでにアナウンスされているが、ソニーのPDA「CLIE」が7月末で製造中止、事実上の販売終了となってしまうことだ。CLIEに限らず、PDA関連をサポートしていたWebページの更新も途絶えたところがある。また電気店では、このところ底堅い人気のある電子辞書類の片隅にひっそりと置いてあればよい程度のプレゼンスとなってしまっている。この原稿もCLIE TH55で書いている根っからのPDA派の筆者としては寂しい限りだ。原因は1つ、携帯電話との競争に負けたことにある。

PDA復活は携帯電話にあり?

 ところが7月に入り、CLIE退場と入れ替わるようにして、PDA派には期待の持てるアナウンスがあった。携帯参入を狙うイー・アクセスがインテルと共同で「オープン・プラットフォーム」に基づく携帯電話端末を推進という発表である(イー・アクセスのニュースリリース「インテルと協働で『オープンプラットホーム』に基づく携帯電話端末を推進」)。ニュースリリース中では、あえて避けたのか「PDA」という単語は見当たらず「オープン・プラットフォーム」と書かれている。しかし、この「オープン・プラットフォーム」に基づく携帯電話と思われるものが、ワイヤレスジャパン2005で公開されており、そのモックアップを見るとまさしく携帯電話機能付きのPDAともいえるものになっている(ITmediaのビジネスモバイル「『イー・アクセス携帯』のイメージモックが登場」参照のこと)。これはPDA復活につながる道でもある。

 なぜそういえるか、というと、PDA的な携帯電話が米国では普及しているからだ。前から米国ではそういうものもあるとは聞いていた。しかし、久しぶりに訪れた米国で実感したのが、角(アンテナ)の生えたPDAとでもいうべき携帯電話がけっこう多いことである。いわゆるスマートフォンと呼ばれる電話機の範疇にカテゴライズされるもので、その実態は携帯電話というよりも、携帯電話機能を集積したPDAである。使っている人の多くはビジネスマンであった。日本では、主としてパーソナルな目的で携帯電話のテンキーを介して短いメールをやりとりしているが、米国流のスマートフォンの場合、PCでやりとりされるようなビジネス・メールが主体のようだ。実際、ハーツレンタカーのカウンター待ちの長い列で、それを持ち出しているビジネスマン風のお客が何人もいたのは印象的であった。そのサイズは携帯電話ほど小さくはなく、形状は幅広で平らなシェイプ、そして通常の携帯電話のキーとは明らかに異なる入力インターフェイスを備えており、アンテナを除けば筆者のCLIEと変わらない。PDAはしっかり米国で生き延びていたのだ。そしてインテルは明らかに米国流のそういう携帯を念頭においているように思える。

 イー・アクセスのアナウンスは、携帯電話市場への参入をめざすイー・アクセスが、インテルと組んでXScaleを使った「オープン・プラットフォーム」を、イー・アクセスが参入できたそのアカツキには推奨する、というかなり回りくどいものだ。実際、ニュースリリース文もそっけないくらい短い。普通、プラットフォームの話なら立派なブロック・ダイアグラムや使用されるチップ、もろもろのことがずらずらと書かれていてもおかしくないのだが、これから仕様を一緒に考える、というだけの発表である。大体、イー・アクセスの携帯電話市場への参入が決まったわけでもないので、そのサービスがいつ始まり、どのような端末が登場するのかも現時点では確かなことは何もない。

 インテルはインテルで、ずっと前から携帯電話市場を狙い続けてきているし、またかというところも多分にある。そして、その尖兵はあいも変わらずXScaleである。XScaleは悪い石(プロセッサ)ではないのだが、市場ではイマイチである。個人的な意見だが、日本の携帯電話市場に思ったように参入できないのは、押しつけがましいインテルのやり方が携帯電話業界に合わないためではないかと、ひそかに思っている。実際、今度の発表も押しつけがましいテイストは相変わらずだ。「PC業界で培ったマーケティング・スタイル」は絶対に変わらないと見た。今回のリリースは、既存のキャリアや既存の端末メーカーへアプローチしていたのでは、いつになっても日本の携帯電話市場へのインテルの参入が果たせそうにないので、新たな「キャリア」と組んで、インテルの望む「オープン・プラットフォーム」を押し付けようという作戦だろう。既存キャリアと同じような端末で同じようなサービスを提供しても生きていけないはずの新キャリア候補にとっては、インテルと協業というのは渡りに船だったのかもしれない。

 インテルにしたら、「インテルの」プラットフォームの上でOSが走り、アプリケーションの走るPCのような世界が「オープン・プラットフォーム」であり、それを携帯電話にも広げたいだけなのだ。「オープン・プラットフォーム」といって最下層から「オープン」であるわけでないことは気を付けないとならない。それをPDAといわないのは多分、マーケティング的に語感が悪いからだろう。実際、LinuxやWindowsが稼働する「PDA」もある。まぁ、インテルのいう「プラットフォーム」を受け入れさえすれば、中国の会社が自社の端末にLinuxを実装して日本の携帯市場で売るということが可能になるだろうから、それはそれで凄い話ではあるのだが。

 しかし、である。考えてみれば日本においてPDAを復活させる可能性があるとすれば、インテルのこの戦略くらいしかありえないではないだろうか。ほかにPDAのような持ち運べてデータやアプリケーション・ソフトウェアが自由に入れ替えられるシステムを復活させたい強い要求のあるメーカーはなさそうだ。ここはあえて書こう。インテルもイー・アクセスも頑張ってください。よいPDA携帯電話ができ、当然いまの電話番号のまま移行できるようになっているなら、買わせていただく。ただし、日本でPDAが退潮したのは、主としてビジネス・ユースを狙ったPDAに対して、パーソナル・ユース狙いの携帯電話が圧倒的に強かったということである。日本でスマートフォンを展開するにしても同じようなビジネス・ユース狙いの切り口ではうまくいかないかもしれない。かといって、筆者がほしいのはビジネス・ユース狙いの端末なのだが……。

 ちなみにハードウェア・キーボードを排除し、トランスペアレントな蓋のシンプルなデザインであるCLIE TH55は、変遷と試行錯誤を続けたCLIEの1つの完成型であると思っている。カメラやオーディオ・インターフェイス、マイクと無線LANも内蔵しているから、PDAといいつつIP電話化の可能性を秘めた「プラットフォーム」でもあった。将来「オープン・プラットフォーム」の端末が誕生するとしたら、せめて、このCLIEの最終モデルを超える使い勝手を実現してほしいものである。パーソナル・ユースのためのいろいろな機能は、それはそれであってよいので。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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