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» 2005年11月26日 05時00分 公開

頭脳放談:第66回 新規参入で携帯電話向けチップは変わるか

久ぶりに携帯電話キャリアに新規参入が認められた。3社独自のサービスを企画しているようだが、そのとき携帯電話のチップはどうなるのか?

[Massa POP Izumida,著]
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 周波数は公共財といいつつ、筆者のような庶民の目から見るとその割り当て方法はいまいち不透明感がつきまとう。しかし2005年11月、久しぶり(12年ぶり)に携帯電話のキャリアに新規参入が認められ、新規の会社に周波数が割り当てられるようになった。まずはよかったといっておこう。新規参入する会社は、ソフトバンク系のBBモバイル、イー・アクセス子会社のイー・モバイル、マルチメディア総合研究所子会社のアイピーモバイルの3社。

 総務省が計画の認定書を交付した、というだけの現段階では相当先走った話になるが、半導体屋としては久しぶりの新規参入で携帯電話向けのチップに何か新たなトレンドが生まれるのかどうかが気になる。まぁ、冷静に考えれば、世界市場の中ではいま1つマイナーな日本市場である。また、その市場自体が飽和ぎみなところに、この先ビックになるかどうかは現時点では未知数の新たなキャリアが3社も増えてもそうそう大きな需要も見込めない、とは思うのだけれどそこはそれ「新規参入」である。ビジネス・モデルだけでなく、端末、そして必要とされるチップの面でも何か新たな可能性がでてきて、携帯市場が活性化するのではないかと、ついつい期待を持ってしまうのだ。

 ただ、筆者のデバイス屋としてのフォーカスは端末側にある。まだ新規参入の全貌も明らかでなく、インフラをこれから整備しなければならない段階だ。それどころか、まずそのための資金面での手当てがいろいろ取りざたされている段階で、端末側のチップの行く末が見えるのかといわれれば、我ながら無謀な気もするのだが、毎度のことでばっさりとやってしまうことにする。

差別化ポイントはチップセットの選択にあり

 参入の初期段階を考えれば、多分3社とも「アリモノ」を組み合わせて済ますであろうことは、まず間違いないところ。当然、現時点でもさすがにプロトタイプのようなものは持っているはずだ。取りあえずはその延長上で考えてくるだろう。ただでさえ、リスクの大きな新規参入であるから、わざわざ端末のチップ開発などでリスクを背負って、注目の集まる出だしのスケジュールにさらにリスクを重ねるようなことはしないだろう。端末のソフトウェアかハードウェアかがヘボくて、せっかくの新登場スケジュールにミソを付けては元も子もない(そのリスクを背負ってチップ開発からやってもらえると業界的には嬉しいが……)。

 しかし、うまく初期段階を切り抜けて「急速拡大」フェイズに入れれば状況は違ってくると思われる。3社ともいろいろ「ビジネス・モデル」面で新規軸を考えているらしいことが伝わってきている。それを「アリモノ」の組み合わせでカバーし続けるのは無理があると思うからだ。このところの携帯向けチップセットの動向を見ると、集積度の向上が著しい。いまのところシステムのチップ数的にはあまり変わらないと思われるが、同じ数のチップに次々に現れる新規機能がどんどん取り込まれているのが現状である。90nmに続く、65nmなどの製造プロセス考えると、近い将来デジタル部分は1個にまとめないとバランスが悪そうだ。

 ともかく3社が新規参入を果たすころには、既存キャリア向け端末チップセットのデジタル部は、相当に多機能なものでも、ほぼシングルチップ化にめどが立っている可能性も十分あり得る。そうすると、他社にない特徴を出したサービスを行うためには、自社主導で開発するかどうかは別にして、それなりのチップ選択が必要になるのではないかと思うのである。みんな同じチップを採用していたのでは、サービスに差がつかないからだ。

新規参入組の方向性は?

 流れるニュースで常に3社の筆頭に挙げられるBBモバイルの場合は、その方向性がかなりはっきりしているように見える。取りあえずWi-Fi(無線LAN)そしてWiMAX(より高速な無線通信規格)との複合端末化を目指すようだ。Wi-Fiであれば、既存チップをかき集めても可能であり、チップ面でのリスクも少ない。よりシームレスで効率的なサービスを行おうとすれば、よりよい専用チップが必要だろうが、世界的にも同様なチップを必要とする人たちは多そうである。自社主導でやらなくても、そういうチップは自然と出てくるだろう。しかし、ほかの人もできる、ということで特徴を出すとすれば「ビジネス・モデル」の方を重点にせざるを得ないだろう。

 次に、ニュースでは常に3社の末尾にあげられる財務面で未知数な部分の多いアイピーモバイルを取り上げたい。聞くところによると、通常の携帯電話端末というより、PCカードや、マシン対マシンのような組み込み用途を狙うことで、他社との差別化を図る方針のようだ。確かに面白い方針で、すでにSIMカードが差さるPCカードなどを公開しているようだ。特徴を出すねらい目としては悪くないように思われる。しかし、この手のサービスは、1契約当たりでお金をいっぱい取るのは難しいだろう。相当安価な設定の定額制のサービスにならないと数が出ないと思われる。半導体屋としては、そのあたりが見えてしまうので、チップを売ることになったら、「相当に安く叩かれるのではないかなぁ」とおぼろげに想像する(まぁ、どこへ行っても叩かれるのは毎度のことだが……)。

 アイピーモバイルの方針では、いわゆる最近の携帯電話のフルセット機能に比べれば、通信機能に絞った非常にシンプルなチップで済みそうである。多くの応用ではバッテリも要らなそうだ。「端末」なのか「カード」なのかは別にして、それを非常に安く作れる可能性は十二分にある。しかし、それは数次第だ。半導体屋の付ける値段は数次第、という鉄則も含めて、採算を取るのに必要な数量の壁が立ちはだかるだろう。数出すのが先か、安くするのが先か、それともそもそも資金調達やパートナーが見つかるのか……。

 最後にイー・モバイル社である。個人的にはちょっと期待しているところがある。以前にも書いたが、PDAを愛してやまない筆者としては、現在使用中の発売中止モデル「CLIE(クリエ)」のバッテリがヘたったらどうしよう、というのが当面の課題だ。携帯電話も確かに高機能になってすばらしいのだが、PDAの柔軟性にはおよばないように思われる。何となればPDAは、単独でセルフ・コンパイルしてプログラム開発までできるPCに近い。それでいてポケットに入る大きさと重さである。発表を見ていると、どうもイー・モバイルは既存の携帯より1ランク上のPDA的かPC的な強力端末を出してくれるような感じするのだ。期待が持てるだろうか?

 しかし、PDAが携帯電話に飲み込まれて数量が伸びなかったことを考えると、まっすぐPDA的テイストでは、それほどお客はつかめないかもしれない。するとゲーム機路線かも。そういえば、発表された「モック」はどことなくゲーム機に見えなくもない。PSPとかニンテンドーDSに携帯電話機能を持たせた路線の方がありそうだ。確かに電車の中で乗客がゲームやっている風景は日常になったが、筆者としては一線を画したい。それにデバイス的にはそうとう強力なプロセシング・パワーとメモリ容量を積まないとできない路線である。取りあえずゲーム機かPDA向けのデバイスと携帯電話チップセットを組み合わせれば、端末自体は実現可能であろう。その先の専用シングルチップ化も技術的には十分対応できるだろう。しかし、こちらの場合は高機能でなければならないだけに廉価にできるか否かのハードルはそれなりに高そうだ。高ければ数が限られる。やっぱり先立つものは数ということか。

 デバイス的にもちょっと期待を持ってしまう新規参入組なのだが、さてデバイス屋にも影響力があるほどにデカクなれるか。その前にちゃんとスタートラインに立てるのか。健闘を祈る。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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