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» 2006年03月21日 00時00分 公開

異なるISPを統合するGMPLSを通信事業者が導入するのはいつか?特集:MPLS技術は何ができて何ができないか(3)

「特集:MPLSは何ができて何ができないのか」の第1回「通信事業者間の接続を担う、MPLSの可能性と限界とは?」、第2回「進化のしかたも機能も異なる MPLSとイーサネットのそれぞれの道」に続く最終回は、異なるISPのインフラ同士を統合する「次世代ネットワークNGN」の基盤技術として注目を浴びるGMPLSにスポットを当てる。最新技術「GMPLS」が、日本の通信事業者のネットワークの基盤に導入されるのはいつか?

[大宅宗次,@IT]

異ベンダ装置間のMPLSをつなぎ合わせるGMPLS

 MPLSはIPネットワークに「ラベル」によるエンドツーエンドのパスのような仕組みを提供する技術である。そのMPLSのパスを作る方法を、光伝送ネットワークのパスを作る方法に適用し、IPと光伝送という2つのネットワークを協調させる技術がGMPLS(Generalized MPLS)だ(参照記事:MPLSによるネットワーク統合/さらなる応用)。GMPLSはMPLS技術の集大成として、まさにこれから日本の通信事業者のネットワークの基盤に導入されようとしている最新技術だ。

 まずは、GMPLSの仕組みについて簡単に紹介する。もともと、光伝送ネットワークは時分割多重や波長多重、および回線交換などの仕組みによってエンドツーエンドの光パスを提供するものである。しかし、光伝送ネットワークの中でエンドツーエンドのパスを開通するための標準技術がなかったため、基本的には経由する装置ごとに個別に設定を行わなければならなかった。

 もちろん、同一ベンダの装置間であれば集中制御するための管理装置などを用いて一括して設定をすることはできたが、異なる装置同士が自律的にエンドツーエンドのパスを張るための仕組みは光伝送ネットワークの長年の課題であった。また、光伝送ネットワークを利用するトラフィックの多くがIPになってきたため、エンドツーエンドのパスの「エンド」はルータである方が都合が良くなってきたのだ。つまり、光伝送ネットワークのパスをIPネットワークのルータと連動して開通させる仕組みGMPLSが生まれたというわけだ。

GMPLSで光パスを拡張するしくみ

 GMPLS技術は将来の理想的なネットワークの実現に向けて、非常に多くの複雑な機能を提供しようとしている。しかし、現時点で製品化されている機能や、日本の通信事業者が実際に導入を検討している機能はその中の一部である。例えば、GMPLSは光伝送装置がルータとして動作するという漠然とした理解をしている人も多い。この理解は合っている部分もあるが、現在は光伝送装置がパケットをルーティングできるようにするための技術ではない。あくまでパスを張る仕組みだけをMPLSから取り出して、光パスを張る仕組みを拡張してルータと光伝送装置に載せている。つまり、現実的なGMPLSは割と簡単な技術なのだ。

 では、GMPLSの光パスを張るための仕組みをもう少し詳しく紹介する。MPLSではLDPやRSVP-TEなどを用いてラベルパスを張っている。LDPは主にサービスごとの細かいパスを提供し、RSVP-TEはそのパスをまとめてTraffic

Engineering (TE)を実現するトンネルとしてのラベルパスを提供する使い方が一般的だ。GMPLSではMPLSのTEパスを張る仕組みであるRSVP-TEのみを使用する。MPLSのラベルパスをさらにまとめてトンネルする光パスを提供するというイメージだ。GMPLS網で光パスのスイッチを行うのが光クロスコネクト(OXC : Optical cross (X) Connect)と呼ばれる光伝送装置だ(図1)。

図1 GMPLSの光パス実現イメージ 図1 GMPLSの光パス実現イメージ

 もちろん、ラベルパスと光パスは特性が異なるため、その違いを吸収するためにRSVP-TEをGMPLS用に拡張している。ラベルパスは「ラベル」で識別する論理的なパスだが、光パスは主に波長やファイバそのもので識別する物理的なパスだ。よって、物理的に接続できる同じ種類のメディアを指定する機能や双方向で同じ経路を使用させるための機能を持っている。また、GMPLSでは光パスがどの経路を用いるか選択するための経路情報を配布するOSPF-TEを併せて用いる。OSPF-TEは通常のOSPFにTE情報を配布できるように拡張したものだが、GMPLSでは光パスのTE情報に対応するためさらに拡張したものを使用する。光パスのTE情報とは、例えば異なる波長によって複数の光パスが多重されている区間を同一のグループとして見なすなど光パスの特性を考慮したものだ。

RSVP-TE、OSPF-TE、LMPという光パス開通の3点セット

 RSVP-TEとOSPF-TEに加え、GMPLSではLMP (Link Management Protocol)と呼ぶ新しいプロトコルを使用する。RSVP-TE、OSPF-TE、LMPという3つがGMPLSで光パスを張るための機能を実現する3点セットなのだ。

 LMPの役割を説明する前にGMPLSとMPLSの制御信号をやりとりする構成の違いを説明する。MPLSはルータ間で物理的なパスが開通している前提でそのパスを使ってRSVP-TEやOSPF-TEのやりとりをしていた。ラベルパスも同じ物理パスを利用していた。

 しかし、GMPLSは物理的な光パスそのものを開通するための技術であるため、RSVP-TEやOSPF-TEのやりとりをするパスは別のパスを使った方が都合が良く、制御信号と実際の光パスが別である構成が一般的だ。このため制御用のパスと光パスを関連付けてそれぞれの状態を管理する機能LMPが必要になるのだ。

 LMPはほかにも複数の光パスを1つのグループとして扱うための機能や障害状態の切り分け機能などを持っている。また、光伝送ネットワークではパスのスイッチを行う光クロスコネクトのほかに、パスの多重を行う波長多重装置を併せて使用する構成が一般的だ。LMP-WDM (Wavelength Division Multiplexing)と呼ぶ別のプロトコルを用いることで、この2つの装置を連携させることも可能だ。このようにLMPはRSVP-TEやOSPF-TEの拡張では補えない、光伝送ネットワークならではの特性をカバーするための機能を実現する。

 GMPLSはこれらRSVP-TE、OSPF、LMPの3点セットを用いて、ルータから光伝送装置を経由してエンドツーエンドの光パスを開通させる仕組みを実現させるのだ。

MPLSの信頼性を光回線で向上させる

 GMPLSは当然ながらエンドツーエンドの高信頼性の実現も可能だ。光伝送ネットワークは現用の光パス1本の予備回線を常に1本用意するなど効率性に欠ける面があった。GMPLSによりMPLSのFastReRouteの仕組みを応用した、より効率的な方法で信頼性を提供することが可能になる。何よりもGMPLSによりルータと連動して障害切り替えができるようになるメリットが大きい。

 つまり、これまでは光伝送とMPLSで別々に高信頼性を提供していたので無駄が多かったが、同じ機能で高信頼を実現することで適切な迂回動作をさせることが可能になるのだ。MPLSは信頼性に乏しかったIPネットワークに高信頼を提供するという特徴が注目された。しかし、光伝送ネットワークは従来から最も信頼性が高いネットワークであり、GMPLSにより飛躍的に信頼性が向上するわけではない。

基盤技術としてGMPLSを有力視する国内通信事業者

 GMPLSはRSVP-TE、OSPF、LMPの3点セットをはじめ、基本的な部分は標準化も完了しており、GMPLS対応の製品化も進んでいる。このようにGMPLSを導入するための準備は整ったといえる状況だが、日本の通信事業者への導入はどのような状況なのだろうか。日本はGMPLS技術に関して早くから注目しており、世界に先駆けての導入を目指し研究や実験を行ってきた。また、多くの通信事業者がVoIPへの移行やIP放送、FMC (Fixed Mobile Convergence)の実現などオールIPベースのサービスを実現する次世代ネットワークNGN (Next Generation Network)の基盤技術としてGMPLSを有力視している。

 しかし、現実的にはGMPLSネットワークをいきなり全面的に導入する状況ではない。ほとんどの通信事業者が現在のところIPネットワーク、および光伝送ネットワークの両方でGMPLS導入の前に片付けなければならない課題が山積みだからだ。

GMPLS導入前の課題とは?

40Gbpsのインターフェイス対応

 まず、光伝送ネットワークの都市間を結ぶバックボーンでは、トラフィックの増大に伴う容量拡大が最優先課題になっている。具体的には長距離用の波長多重装置などの40Gbpsインタフェース(OC-768)対応を行っている。GMPLSで光パスのスイッチを行う光クロスコネクトの導入まで手が回らない状況だ。

オール光型の光クロスコネクトの導入は2〜3年後

 また、日本の多くの通信事業者が導入を検討しているのはオール光型の光クロスコネクトだ。オール光型とは、電気信号に変換しないで光のままスイッチを行う装置なのだが、比較的に新しい分野であり今後のさらなる開発が期待できるため導入に慎重になっているという事情もある。よって、GMPLS対応の光クロスコネクトの本格的な導入は2〜3年後といわれている。

運用・拡張性を広げる低価格の「第2世代DWDM」の台頭

 都市圏のメトロネットワークでは少し事情が異なる。メトロではROADM (Reconfigurable Optical Add Drop Multiplexer)と呼ばれる「第2世代DWDM」を構築できる新しい装置の導入が盛んだ。ROADMは中短距離用の波長多重装置に、設定によって任意の波長を多重分離できる部品を組み合わせた装置だ。これまではあらかじめ決められた波長しか多重分離できなかったので、運用性や拡張性に問題があったのだ。

 メトロではリング型に接続された局からトラフィックを多重して柔軟に集める機能が最も重要視される。GMPLSで実現可能な高度なパスのスイッチ機能が活用できる場所が非常に少ないのだ。もちろん、ROADMもGMPLSに対応することは可能だが、現時点ではより簡単で低価格なROADMで十分だという認識が強い。

ルータ台数の集約が最優先課題のIPネットワークがGMPLS導入を後押し

 一方、IPネットワークではルータの大容量化とともに、ルータの台数を集約するのが最優先課題となっている。大手の通信事業者はサービスごとに数千台から、場合によっては数万台規模のルータを運用しており、大容量化により台数を減らすことで運用の負担を減らしたいのだ。

 しかし、台数を減らすために中継ルータをなくし、光伝送ネットワークを積極的に活用するという構想を持っている。特にバックボーンでは早い段階でのGMPLSへの移行を目指しているのだ。バックボーンで使用するコアルータはすでにGMPLSに対応している製品が導入され始め、光伝送ネットワークのGMPLS対応を待つ状況だ(図2)。

図1 GMPLSの段階的導入イメージ 図1 GMPLSの段階的導入イメージ

次世代ネットワークNGNの基盤技術=GMPSにかかる期待

 これまでGMPLSは壮大な将来のネットワーク技術として取り上げられてきた。しかし、最近ではこのように部分的な導入から順番に行っていこうという路線に方向転換されつつある。逆の見方をすれば、これはGMPLSが次世代ネットワークNGNの基盤技術として現実的なものになってきたことを意味する。

 日本の通信事業者がGMPLSを全面的に導入する時期はもう少し先になりそうだが、導入を始めるころにはMPLSおよびGMPLSはさらなる進化を遂げているだろう。今後もMPLSおよびGMPLSは、日本の通信事業者のサービスを支える基盤技術として着実に適用範囲を広げていくのは間違いなさそうだ。

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