第86回 Transmetaの事例に見る半導体とサービスの関係頭脳放談

TransmetaがAMDから「戦略的な」出資を受けた。その裏にTransmetaの挫折(?)が見て取れる。半導体がサービス産業となる日は?

» 2007年07月20日 05時00分 公開
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 地味な話題なのだが再びTransmetaを取り上げる。ちょうど1年くらい前にもTransmetaを取り上げたことがあるので、そのフォローといったところである(「第73回 MicrosoftのFlexGoに見る半導体とサービスの関係」参照)。今回このタイミングで取り上げるのは、TransmetaにAMDが「いくらか」出資したというごく地味なニュースリリースが流れたことがきっかけになっている(Transmetaのニュースリリース「AMD Makes Strategic Investment in Transmeta」)。

Transmetaの変革と未来

 第73回で取り上げたときの趣旨をめずらしくも振り返るならば、「背に腹はかえられず仕掛けにのった(?)Transmetaに『がんばれ』などとお気楽なエールを送りつつ、一方で『でも、そんな簡単じゃないだろうなぁ』などと冷やかす」内容であった。いつもながら無責任な態度といわれればそれまでだ。しかし、単なる出資話である今回のニュースリリースからその後の経緯と、やっぱり「簡単じゃなかった」様が読み取れてしまうのが悲しい。

 ニュースリリースそのものは、「AMDがTransmetaに対して750万ドルの出資をした」というものである。「戦略的な」といった修飾語が書かれているが、まずはその額におどろくべきだろう。多さでなく、その少なさに、である。日本円で10億円にも届かない額だ。確かにぽっと出の小さなベンチャー企業相手であれば大金ではあるが、それなりの売り上げがあった時期もあり、それどころか最盛期には数百億円くらいは軽く集めていたであろうTransmetaが、わずか10億に届かない投資を「戦略的」といわざるを得ないところに、現在の状況が滲み出ている。

 お金は、コア・ビジネスに集中して事業再編するために使うらしい。Transmetaのコア・ビジネスって何かといえば、LongRun2技術のようなIP(設計情報)のライセンシング事業である。ということは、プロセッサを売るというメーカーとしての事業どころか、設計受託といった事業も止めちゃうってことかい? ぶっちゃけたところを書いてしまえば、それって「リストラ費用」ではないか。

 もともとTransmetaは、「ファブレス・メーカー」だったはずが、いつの間にかIPを売ると同時に設計サービスも行う「設計プロバイダを兼ねるメーカー」になっていたのは、第73回で取り上げたときに書いたとおりである。そしてその転換を生かして、AMDやMicrosoftと組んで新たなビジネス・モデルの創出に賭けたのではなかったかな。その賭けの中では、物を作る部分にも、設計をする部分にもそれなりの意義を持たせていたように記憶している。

 結局、どうも賭けはうまくいかなかったようだ。AMDがTransmeta製品を売るという話もあったが、新たに魅力的な製品が出てくるわけでもなく、製品出荷はジリ貧傾向で「メーカー」としては死に体のように見える。また「設計プロバイダ」としても各社から受託して仕事をしていたはずだが、うまく回らなかったのだろう。ハイエンドのプロセッサ設計のために相当数の設計部隊を抱えていたはずだが、それも縮小してしまったようだ。

 うまくいって儲かっている受託設計会社の方が珍しい昨今なのではあるけれども。わずかに残っている部隊を今回の「戦略的」資金でリストラしてしまえば、Transmeta自身は、単なるIP管理会社になってしまうということであろう。

 多分、すでに契約済みのIPの使用料として、依然、けっこうな額の収入を得ることができるだろうから、管理に必要なわずかな人を残して大多数を削って出る側を絞ってしまえば、会社としては「回る」ようになるのかもしれない。バランスシート上は優良企業になるのだろう。しかし、発展性はあるのだろうか。

 出資している側のAMDにすれば、そのようなシナリオも考えた上でお金を出しているはずなので、何らかの価値をTransmetaに認めてはいるのだろう。しかし、状況から考えれば、「動的に行動する」部分への期待というより、いますでに持っている何らかの「無形資産」への期待でしかないのかもしれない。

Transmetaは挫折したのか?

 別にニュースリリースそのものは、出資話で悪いネタではないので、現段階でこう書いてしまうのは、ちょっと気が引けるものがある。「Transmetaの挫折」と。

 しかし、ビジネス面というより「志」という点で、そう感じられるのだ。本当に残念なことである。それも初期のx86互換機ベンダとしてのTransmetaの挫折よりも、このところの半導体ビジネス・モデルの変革における先駆けとしてのTransmetaの挫折に、である。直接的にビジネス・モデルの変革者となるというよりは、それを担うデバイスを作り出すという程度の期待ではあったが。昨年の時点では、「サービス」といっても「ベンダ」がほかの会社にサービスを提供してお金を取るというようなモデルではなく、消費者向けのサービスから半導体ベンダがお金を回収するような最初のモデルケースとなるか、と期待していたのだが。

 IP管理会社になってしまえば、そのような無謀なことに挑戦するということもないだろう。結局、昨年書いた「まぁ、うまく行けばよし、失敗しても、今回の実験結果を元に補正をかけていく」という程度の、「失敗事例」を提供したにすぎないということなのだろう。

 半導体屋にとっては、「結局、これからはサービスだぜ」というのは見果てぬ夢なのだろうか。しかし「事例」として学ぶならば、ここで諦めてはイケナイ、と強く思う。少なくともマイクロプロセッサの切り口で、PC系からデバイス屋が「サービス・ビジネス」に入り込む、というのは可能性がとても低そうだ、ということはよく分かった。でもTransmetaをして、それだけ? 本当にそれだけ? 何かまだあるんじゃないの、とも思っているのだが……。

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筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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