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» 2007年09月04日 00時00分 公開

転職失敗・成功の分かれ道(32):重要なのは、転職の目的を見失わないこと

毎日、人材紹介会社のコンサルタントは転職希望者と会う。さまざまな出会い、業務の中でこそ、見えてくる転職の成功例や失敗例。時には転職を押しとどめることもあるだろう。そんな人材コンサルタントが語る、転職の失敗・成功の分かれ道。

[広田ゆり,エイドエイム]

 今回初めて記事を書かせていただくエイドエイムの広田と申します。つたない文章ですが、最後まで目を通していただければ幸いです。

 「転職の目的は一体何か」という話がよく出ます。この記事をお読みの皆さんの中にも、転職を考えている方もいらっしゃるでしょう。それでは、転職を考えている方に質問です。「あなたの転職の目的は?」

すぐに出てこない転職の目的

 「なぜ転職をしようと思ったのですか」。転職の相談に来られたITエンジニアの方の多くは、この質問に結構すらすらとお答えになられます。

 業績がどう、キャリアパスが、人間関係に疲れた、給料が、残業が、入社前に聞いた話と違うなどなど、さまざまな話が出てきます。皆さんきっちりと、熱く語ることができていて、プレゼンテーション能力はバッチリ、と思いきや……。

 「今回の最大の転職の目的は?」との質問には、なぜか詰まる方が続出。そこで質問を変えてみます。

 「今回の転職で、希望することは何でしょうか?」

 「残業が少なく、雰囲気が良く、定着率の良い会社。あとは英語が使えて、教育制度が整っている会社でしょうか。できれば服装が自由であれば、なお良いですね」

 「それでは、年収はどうですか? 勤務地は?」

 「できれば年収は1〜2割くらいアップしたいです。ポジションもキャリアアップしたいので、マネージャを希望します。場所はできれば自宅から1時間以内。あっ、クライアントに出向くよりは自社開発がいいです」

 「じゃあ、その中で一番譲れないのは何でしょうか?」

 「……」

(もしかして全部?)

 カッコ内は私の心の中での発言です。

 さて、この会話で誰もが感じることが2つあります。

  • 条件は良いに越したことはない。全部かなえばうれしい
  • しかし、上記をすべて兼ね備えた転職先などない、という現実

 ここで重要なのは、一番大切なものの見極めを誤ると、その転職は失敗に終わってしまうということです。

 実はITエンジニアの方は、こうした思考に慣れているはずなのです。よく開発者とユーザーの会話を思い出してください。

 「これらすべての機能を実現するとしたら、いまの倍の予算と人数が必要になりそうです。少し整理しましょう。この中で絶対必要な機能は何でしょうか?」

 これとまったく同じことです。

一番大切なものがぶれてしまうと……

 最初は、何かきっかけがあって、それを改善したいために転職を考えることが多いでしょう。ですから譲れない条件は、基本的に転職理由と同じ。その際に、優先度を付けて、3つくらいに絞り込んでみる、という方法は、条件を手っ取り早くまとめるのに役立ちます。

 例えば、「今回の転職で、○○と××を実現するんだ」という気持ちで活動をするのです。

 しかし活動していくうちに、なぜかスタート時点とはまったく違った方向へと進んでしまう方が時々いらっしゃいます。その1例をご紹介しましょう。

 某中堅システム会社のシステムエンジニア(SE)をしていたA氏。上司がA氏に仕事を指示するのですが、この上司が全然仕事をせず、どんどんA氏に仕事を振ってくる。残業も多く、日々イライラが募り、精神的に限界に達してしまい、ご相談に来られました。

 そのとき私がA氏に確認した転職の目的は、「人間力のある上司」の下でのびのびと開発をし、いまの不満とサヨナラをすることでした。

 そこで提案したのは、フラットな社風で若手育成に積極的で、離職率も低く、ベンチャーながらに経営も順調な優良企業。人間力のある社長と温かいスタッフに囲まれて、A氏が楽しそうに仕事をする姿が目に浮かびました。A氏の温厚な人柄もあって、予想どおり順調に最終面接までこぎつけました。

 ところが突然A氏から、最終面接を辞退したいとの連絡があったのです。有名な大手企業の子会社から、とても魅力的な待遇で内定が出たとのことで、そちらに決めたいとのことでした。話を聞いて、当初の目的とは違うのではないでしょうかと助言をしたのですが、最後はご本人の決断です。その結果、その大手企業の子会社に入社されたのでした。

 それから3カ月後、A氏からメールが届きました。

 「まともに休みも取れず、相談に乗ってくれるはずの上司は、多忙で話も聞いてくれない。こんなはずじゃなかった。会社のブランドと待遇の条件に引かれて選択したばかりに、家族にも苦労をかけて悩んでいる。そこで、また転職を考えている」というものでした。

 A氏は前の職場で上司に苦労しました。今度の上司は仕事はするものの、相談に乗る余裕がない状況のようです。最も大切だった「人間力のある上司」というキーワードと違う選択をし、気付けばまた以前と同じように上司に不満を抱く結果となったのです。悪い予感が的中し、間もなくA氏は会社をお辞めになりました。

処遇アップの目的を完遂したB氏

 一方、処遇アップが転職の目的のB氏。「会社や業務に特に不満はないが、どん欲にもっと上を目指したい。そして少しでもいまよりも高い給料が欲しい。そのためであれば、ハードな業務や環境でも頑張ることができます」とB氏は心強くいうのです。

 転職活動の結果、次々と内定が出るのですが、希望に沿うものはありません。B氏は納得できる処遇が出る企業が現れるまで、入社を決めないつもりのようで、すべての内定を断り続けました。それでもあきらめず、しかも現在の仕事も責任を持ってこなし、処遇アップの糧になればと、取得が非常に難しい資格の取得にも励みました。

 そうしているうちに、何と現在務めている会社がB氏の成果と努力を認めたため、転職しないで処遇が上がったのです。しかも、大規模プロジェクトを任されるようになり、いまはその会社のらつ腕プロジェクトマネージャとして活躍中です。

 B氏は、目的をしっかりと認識していました。また、そのために自分が何をすればよいのかを明確に理解していました。単に処遇を上げてくれといっても、企業は簡単に首を縦には振りません。

 仕事で成果を出し、資格取得にも積極的に取り組んだことにより、自らキャリアアップの道を作り出したといえる、典型的な成功事例です。他社に転職していたとしても、やはりそれなりの評価がされていたことでしょう。

ぶれない目的を持つこと

 あまりにも理想が高すぎる場合は転職の実現が難しいこともありますが、転職の目的を明確にすることにより、自分が取るべき行動も見えるはずです。

 転職の目的は、しっかり見極めていただきたいものです。

 1人で転職の目的を見極め、さらにその優先順位を決めるのは難しいかもしれません。そんなときはぜひ、人材紹介会社のキャリアコンサルタントに相談してください。きっといいアドバイスがもらえると思いますよ。

著者紹介

広田ゆり(エイドエイム

20歳でブライダルブティックを開店し、8年間経営に携わる。その際、人材の重要さや雇用の苦労を知り、人材ビジネスに興味を持ち、人材業界へのキャリアチェンジを果たす。人材事業の事業部の立ち上げから携わった後、現職でキャリアアドバイザーとして活動中。



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