連載
» 2008年01月10日 00時00分 公開

ITアーキテクトが見た、現場のメンタルヘルス(5):深夜の呼び出し。早く資料を届けないと! (1/2)

常にコンピュータ並みの正確さを要求されるITエンジニアたち。しかし、ITエンジニアを取り巻く環境自体に、「脳を乱す」原因が隠れているという……。ITアーキテクトが贈る、疲れたITエンジニアへの処方せん。

[樋口節夫,樋口研究室]

 仕事のない休日はいいものですね。電話を取らなくていいし、会議にも出なくていい。ややこしいメールを読まなくてもいい。心が乱されることの少ない、とても貴重な日だと思います。

 こういう日には「自分レビュー」をしてください。自分レビューとは「自分をじっくり分析する」こと。そこからメンタルヘルスを維持するアイデアや、改善策が見えてくることがあります。

受注を決めたい出張の日。早く空港に行かないと!

 樋口研究室のオフィスは、土日もIT業界の皆さんでにぎやかです。

 今回は、日曜に自分レビューをするためにオフィスを訪れる、システム営業さんの登場です。私は毎回この営業に、「忘れたことリスト」を持ってくるようにお願いしています。忘れたことリストとは、やらないといけなかったがやり忘れたことを書き出した表で、自分レビューにはもってこいの題材です。

 ある日曜、いつものように私は営業に、忘れたことを尋ねました。

 「エアコンの消し忘れです。くやしい忘れ物でした」

 エアコンの消し忘れがくやしい? 一体、どのような忘れ物だったのでしょうか。詳しく聞いてみました。

 冷え込みが厳しい日のことでした。その日、営業はお客さまの元へ出張する予定がありました。システム開発の提案中で、この訪問で一気に勝負をかけたいと思っていたのですが、うまい説得方法がなかなか浮かびません。うんうんと悩んでいるうちに、飛行機の出発時間が迫ってきました。急いで自分の荷物をまとめて、空港に向かわないといけません。

 「こういうときに、大事なものを忘れるんだ」。営業は経験からよく分かっていました。資料や財布、携帯電話、そして家の戸締まり。入念にチェックしていたそのときです。携帯電話が鳴りました。営業は思いました。「この急いでいるときに、一体、誰?」

 相手は実家の母親でしたが、一言二言で電話を切って、空港に向かいました。

 3泊4日の出張の結果は、あまり良いものではありませんでした。疲れて帰宅してドアを開けると、いやに室内が暖かい……。

 「やってしまった!」。営業は叫びました。暖房を付けたまま出張に行ってしまったのです。4日間、エアコンは誰もいない家を暖め続けていました。出発する前にあれだけチェックしたのに……。営業の疲れは最高潮に達しました。

 「私は誰のために電気代を使ったのだろう? 気を失いそうになりました」と営業はいいます。確かに、くやしい忘れ物でした。

深夜の呼び出し。早く資料を届けないと!

 忘れたことリストは続きます。

 営業が作った見積もり資料に不備があって、お客さまから緊急呼び出しがありました。なんと深夜です。お客さまは、稟議書の作成を急いでいました。

 営業は思いました。「早く資料を届けないと!」

 資料を訂正して、タクシーに飛び乗りました。深夜なので道路は空いていて、スムーズにお客さまのビルに到着しました。ところがタクシー代金を支払い、ビルに入館しようとすると、IDカード(入館証)が見当たりません。

 お客さま先のIDカードがないと仕事にならないので、忘れないように、家ではいつも財布や携帯電話と同じ場所に保管しています。今日も絶対忘れずに持ち出したはずでした。でも見つからないのです。

 IDカードを悪用されたら、大変なことになります。そこで営業は、警備員に事情を説明して、自分のIDカードを使用禁止にしてもらいました。警備員には紛失状況を事細かく聴取されたそうです。やっと入館し、お客さまに資料を手渡せたのは、ビルに到着してから2時間後のことでした。「私の失った時間を返してくれ!」。営業はそう思ったそうです。

 幸い、タクシーの領収書から乗った車が特定できました。調べてもらうと、IDカードは車内に落ちていました。財布を出した弾みで落としてしまったようでした。

 営業は、残念そうにいいます。「忘れ物の対策が、忘れ物を招いてしまったようです」。対策が裏目に出てしまうこともあるわけですね。

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