シュロスバーグ理論で転機をうまく乗り越えろエンジニアも知っておきたいキャリア理論入門(4)(2/2 ページ)

» 2008年08月05日 00時00分 公開
[松尾順シャープマインド]
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● 2.リソースを点検する

 転機に直面した際、転機がもたらす変化を乗り切るために利用できる力のことを「リソース」と呼びます。これは、変化に振り回されるのではなく、むしろ変化を自分の思いどおりに支配するために利用可能な各種ツール(枠組み)や人、支援サービスなどを指します。シュロスバーグ氏は、リソースを4つの「S」でまとめています。この段階では、こうしたリソースをどの程度、自分が利用可能かを点検するのです。

  •  状況(Situation)
  •  自分自身(Self)
  •  支援(Support)
  •  戦略(Strategies)

 「状況」(Situation)とは、転機があなたにとってどのようなものかを評価することを意味します。例えば、転機をあなたがどのように見るかという視点があります。端的には、転機をポジティブなものとしてとらえるのか、それともネガティブなものとしてとらえるのかといったことです。半分だけ入っている水を見て、「半分も入っている」と見るか、「半分しか入っていない」と見るのかで意識はまるで違いますよね。いうまでもないことですが、基本的には変化をポジティブなものとしてとらえた方が、ネガティブなものとしてとらえるよりも転機を楽に乗り越えやすいです。

 次の「自分自身」(Self)とは、主に自分自身の性格など、内面的な特性(強み・弱み)を把握するという意味です。自分が打たれ強く、負けん気の強い性格なのか、それとも繊細で傷つきやすい性格なのかといった違いによって、変化への対処が変わってきますよね。また、過去に類似の転機の経験がないかを振り返ってみます。過去の類似の経験は、今回の転機を乗り越えるヒントを提供してくれるかもしれません。

 「支援」(Support)とは、家族、友人・知人や専門機関など、転機において自分を支援してくれる外的リソースにはどんなものがあるかを把握することです。転職のようなキャリアの転機においては、家族や友人知人などあまりにも近い関係の人からのアドバイスは、案外役に立たないこともあります。やはり、第三者として客観的な視点と専門知識を持つ専門家のアドバイスが役に立つことの方が多いのです。変化を乗り越えるためには、広く外部リソースに目を向け、自分はどんな外的支援が得られるかを把握し、適宜利用することが有効なのです。

 戦略(Strategies)とは、状況、自分自身、支援を把握したうえで、どう変化に取り組むかの基本方針を立てることを意味します。転機を乗り越えるための戦略の基本的な型にはいくつかあります。1つは、「転機を作り替える戦略」です。例えば、本人としては歓迎できない転勤の辞令に対して、会社側と交渉してその辞令を撤回させたり、納得できる条件を引き出すといったことです。

 もう1つは「転機の意味を変える戦略」です。例えば、離婚という転機は、ほとんどの場合、双方にとってつらい出来事です。しかし、お互いに嫌いになったというわけではなく、やむを得ない事情で別れる場合、自分たちは必要以上に悲しい思いをしたくないし、周囲にも心配させたくないので、結婚式ならぬ、「離婚式」を近しい人たちを呼んで開く人たちがいます。彼らは、離婚式という儀式を行うことによって、結婚に一区切りを付けるだけなく、「再出発」の機会として離婚を意味付けているのです。

 あるいは、やや自虐的な方法ですが、みじめな状況にいる自分自身をあえてユーモアのネタとして笑い飛ばすことによって、精神的なストレスを緩和することができます。さらに、意図的に「何もしない」という戦略もしばしば有効です。もちろん、誰かに迷惑を掛ける問題は早急に対処しなければなりません。しかし、そうでない場合はあえて時の流れに任せることで周囲の状況が変わり、以前よりも楽に乗り切ることが可能になることもあります。

 なお、変化に対処するために適用できるさまざまな戦略のうち、どれか1つだけで万全ということはまずありません。現実には、複数の戦略を組み合わせ、状況に応じて使い分けることになるでしょう。

● 3.受け止める

 「受け止める段階」では、転機を乗り越えるための戦略を選択し、リソースを点検する段階で判明した、リソースとして把握していなかったものを強化し、活用するための具体的な行動計画を策定して、実行に移します。例えば、転職に際して、友人・知人に相談するだけでなく、キャリアカウンセラーを活用する戦略を採用することにしたなら、早速、適切なキャリアカウンセラーを探して連絡を取り、一緒にキャリアプランを考えてもらうとういう手はずを整えるといったことです。

 さて、私たちは人生において、実にさまざまな転機に遭遇しますが、転機に伴う変化を乗り越える経験を通じて、自分の対応力や克服する能力がどの程度なのかをだんだんと自覚していきます。そして、変化をうまく乗り越える、いい換えると「変化を生かす」ことができる人と、できない人に分かれます。その差は、以下の3点にあるとシュロスバーグ氏は指摘しています。

  • 豊かな選択肢 : 転機を乗り越えるためのさまざまな方法を知っている
  • 豊かな知識:自分のことをよく分かっている
  • 主体性:転機を乗り切るための各種リソースを主体的に活用することができる

 「転機」とそれに伴う変化は、しばしば精神的、肉体的に大きなストレスとなります。感情が不安定になり途方に暮れてしまう人もいるでしょう。シュロスバーグ理論はそんな人にとって、ストレスを乗り越えるための役に立つ理論となるでしょう。

参考文献
▼「選職社会」転機を活かせ
ナンシー・K・シュロスバーグ著 武田圭太、立野了嗣監訳(日本マンパワー出版)

筆者紹介

松尾 順(まつお じゅん)

 1964年福岡県生まれ。早稲田大学商学部出身。市場調査会社、IT系シンクタンク、広告会社、ネットサービスベンチャー、ネット関連ソフト開発・販売会社を経て、2001年より有限会社シャープマインド代表。マーケティングリサーチ、広告プロモーション企画&プロデュース、Webサイト開発企画&プロデュースを多数手掛ける一方、キャリア理論や心理カウンセリング、コーチングを学び、主に個人を対象とするキャリアアドバイザーとしての仕事を増やしてきている。顧客心理の理解向上を目指す「マインドリーディング・ブログ」主宰。「シナプスマーケティングカレッジ」講師。



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