連載
» 2008年09月16日 00時00分 公開

実績工数がない進ちょく報告はまず疑えプロジェクトはなぜ失敗するのか(11)

皮肉なことに、プロジェクトと失敗とは相性がよい。納期どおりにできなかった、要求どおりにできないことが多い、機能を削減することが多いなど、もともとの目的、スコープから、後退したプロジェクトの経験を持つITエンジニアは多いに違いない。なぜ目的どおりにいかないのか。どこを改善したらいいかを本連載で明らかにし、処方せんを示していきたい。

[落合和雄,@IT]

正確な進ちょく率を把握できているか

 進ちょく管理で困るのが、定性的な表現に終始して、本当の実態が分からない報告が上がってくることである。このようなケースでは、次のような会話が交わされることになる。

プロジェクトマネージャ: 「進ちょくが少し遅れているようだけど、どんな感じなの?」
グループリーダー: 「若干遅れていますが、大きな遅れではないので、十分リカバリ可能です」
プロジェクトマネージャ: 「ちょっと心配だけど、信頼しているので何とか頑張ってくれ」

 あいまいな実態把握と、楽観的な将来予測でプロジェクトを運営していると、必ず痛い目に遭うことになる。システム開発のプロジェクトはそれほど簡単にリカバリができるような性格の仕事ではない。現段階で進ちょくが遅れているということは、当初の見積もりが間違っていたということである。ということは、この後の作業も見積もりが間違っていると考えるのが自然である。「今後は、当初の計画を上回るパフォーマンスを挙げ、いままでの遅れをリカバリできる」などということは、そう簡単にできることではない。

進ちょく率がつかめていればよいのか

 最近はWBS(Work Breakdown Structure) ごとに進ちょく率をつかんでいる企業が増えているため、上記の会話内容ほどひどい例は減っている。しかし、進ちょく率が正しいかどうかは少し怪しい場合が多い。多くの企業では進ちょく率の判定を担当者に任せている。この進ちょく率は疑ってかかる必要がある。誰しも悪い報告はしたくないものだ。本当は遅れていても、実際より良い進ちょく率で報告をしがちになる。すると、途中までは予定どおりに報告が上がっているが、進ちょく率が90%を超えたあたりから、進ちょく率が上がらなくなる現象が出てくる。この状態になってから遅れに気が付いても、手遅れになっている場合が多い。

プロジェクト全体の進ちょく率はつかめているのか

 ところで、個々のWBSの進ちょく率がつかめていれば問題はないのであろうか。プロジェクトマネージャは、個々のWBSだけでなく全体の進ちょくもつかんでいなければ、大局的なプロジェクト判断ができない。プロジェクト全体の進ちょくがどうなっているか、最終的に納期が守れるのかどうかを予測できなければならない。これは簡単なように思えて実際は難しく、各WBSの進ちょく率を単純に平均しても全体の進ちょく率にはならない。各WBSの重み付けができないと、全体の進ちょく率はつかめないのだ。問題は、各WBSの重み付けをどのように行うかである。一番オーソドックスな方法は、各WBSの工数を人月などで計算しておき、それを重みにして加重平均を計算することである。これを行うためには、各WBSの工数をすべて計算し、精緻な計画を立てておく必要がある。

進ちょく率を正確に把握するためにはどうしたらよいのか

 進ちょく率を正確に把握するための一番良い方法は進ちょく率の計算方法を明確にすることである。例えば、全体の設計ページ数を100ページで見積もっていた場合に、“40ページ完成すれば40%の進ちょく率”と計算する方法がある。だがこの方法は、全体の生産量と途中の生産量を正確に把握できる作業でないと採用できない。

 この方法が採用できないときに使われるのがマイルストーン法である。これは、各WBSでマイルストーンを定義し、そのマイルストーンまで完了すれば、何%完成と見なすかを定義する方法である。例えば、コーディング完了で50%、単体テスト完了で80%、最終レビュー終了で100%完了とする。このほかに、正確性には欠けるが、恣意性を排除した方法として、20/80ルールもある。これはWBSのある作業に着手したら20%とし、全体が完成したら残りの80%を計上する方法である。この方法は、着手時に何%計上するかで、50/50ルールや0/100ルールなどもある。

プロジェクト全体の進ちょく率を正確に把握する方法

 プロジェクト全体の進ちょく率を正確に把握するための一般的な方法は、アーンドバリュー法(EVM:Earned Value Management、参照:「結構ややこしいぞ! アーンド・バリュー計算と分析」)を使用することである。EVMを使えば、プロジェクト全体の出来高(EV)を把握できるので、これと当初に立てたプロジェクト全体の予算を比較すれば、プロジェクト全体の達成率を把握することができる。また、同時にスケジュール差異(SV:Schedule Valiance)を確認できるので、現在の状況が予定よりどのくらい遅れているかについても正確に分かる。

 しかし、EVMを採用するためには、WBSごとの実績工数を入力しなければならないので、実務での利用が難しいと考えている企業が多い。こう考える多くの企業が採用している方法が、WBS別の工数と進ちょく割合を入力して、工数の合計で全体の進ちょく率を把握する方法である。この方法を使えば、スケジュール差異は工数で把握できる。

 ここまで管理ができているのであればあと一歩進めて、実績工数を入力し、工数単価も設定しておこう。これにより、EVMの各種計算を行うことができる。

著者プロフィール

落合和雄

1953年生まれ。1977年東京大学卒業後、新日鉄情報通信システム(現新日鉄ソリューションズ)などを経て、現在経営コンサルタント、システムコンサルタント、税理士として活動中。経営計画立案、企業再建などの経営指導、プロジェクトマネジメント、システム監査などのIT関係を中心に、コンサルティング・講演・執筆など、幅広い活動を展開している。主な著書に、『ITエンジニアのための【法律】がわかる本』(翔泳社)、『実践ナビゲーション経営』(同友館)、『情報処理教科書システム監査技術者』(翔泳社)などがある。そのほか、PMI公式認定のネットラーニングのeラーニング講座「ITプロジェクト・マネジメント」「PMBOK第3版要説」の執筆・監修も手掛けている。



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