連載
» 2008年10月08日 00時00分 公開

エンジニアも知っておきたいキャリア理論入門(6):デール博士と5つのキャリア志向 (1/2)

本連載は、さまざまなキャリア理論を紹介する。何のため? もちろんあなたのエンジニア人生を豊かにするために。キャリア理論には、現在のところすべての理論を統一するような大統一理論は存在しない。あなたに適した、納得できる理論を適用して、人生を設計してみようではないか。

[松尾順,シャープマインド]

 今回は、「どのようなキャリアを目指すか」を考える際に「羅針盤」(方位磁石)のような役割を果たしてくれる理論を紹介します。この理論を提唱しているのは、C. Brooklyn Derr氏。現在、ブリガムヤング大学ビジネススクールの教授です。教授のお名前を正確にはどのように発音するのか確認できませんでしたので、本稿では、‘Derr’を‘デール’と呼ぶことにします。

 実は、当理論は日本ではあまり知られていません。ですが、キャリアデザインのための支援ツールとして採用している企業がありますし、比較的分かりやすい理論なので、私自身もキャリアデザイン研修に取り入れています。

5つのキャリアにおける成功の方向性

 デール理論では、人がキャリアにおいて目指す方向性を5つのタイプに分類しています。原書では、‘Five Career Success Orientations’(5つのキャリアにおける成功の方向性、以下「キャリアの志向性」と総称)と表現しています。人それぞれが考える「キャリアの成功」は5種類あるということですね。具体的には以下のとおりです。

  1. 前進志向(Getting ahead)
  2. 安定志向(Getting secure)
  3. 自由志向(Getting free)
  4. 挑戦志向(Getting high)
  5. バランス志向(Getting balanced)

 上記のキャリアの方向性は、前回紹介したエドガー・H・シャイン博士の理論、「キャリア・アンカー」とよく似た切り口です。どちらも、人によって異なる「キャリアにおいて求めることや大切にしたいこと」をタイプ分けしているからです(キャリア・アンカーは8種類に分類していましたが、デール理論は5種類のみ)。なお、デール氏も自身の著作で、シャイン博士のキャリア・アンカー理論に影響を受けたことを記しています。

 もちろん、デール理論、シャイン理論のどちらが正しいとか優れているということではありません。プログラム言語でいえば、それほど大きな差異のない‘Perl’ と‘PHP’を比較するようなものです。どちらの理論を利用するにしても、大切なのはうまく使いこなすことです。前回のシャイン理論と今回のデール理論を併せてお読みいただき、キャリアの方向性にさまざまな見方があることを知っていただければ幸いです。

 では、各キャリアの方向性について、それぞれの働き方を具体的な事例として紹介しながら説明しましょう(事例は実際のケースを基にアレンジしたものです。登場人物はすべて仮名です)。

●1.前進志向(Getting ahead) 

 太田浩二さんは、大手弁護士事務所に勤める若手弁護士です(30歳)。学生時代に猛勉強してトップクラスの成績を修め、現在の弁護士事務所に就職しました。事務所では、昼夜、平日休日を問わず、仕事をしています。その甲斐あってか事務所内の評価は同僚と比較して一歩抜きん出ています。明確な目的意識を持っているため、彼は、自分の昇進に役立ちそうもない人との付き合いを、極力避けています。今後のキャリアの道筋についても明確なビジョンを持って仕事に取り組んでいます。

(解説)  太田さんのような「前進志向」の人は、“出世志向の強い人”と呼ばれています。‘Getting ahead’の言葉どおり、彼らはライバルとの競争に打ち勝ち、先んじることがキャリアの成功だと考えています。昇進を望み、権限や責任を喜んで受け入れます。結果を出すことを何より重視します。キャリア・アンカーでいえば、「全般管理」とほぼ同じと考えられますね。

●2.安定志向(Getting secure)

 山本敏孝さんは、25年前に設立された会計事務所の設立メンバーです。数々のプロジェクトをこなしながら、中堅クラスの管理職として活躍しています。業務にかかわるペーパーワークを喜んでやりますし、これまで自分がこの会社で果たしてきた仕事に満足しています。若い社員たちに、会社の創業時の思いや伝統を語ることほど好きなことはありません。逆に、こうした会社の伝統を大切にしない社員は裏切り者であり、こんな素晴らしい会社にいる資格はないと考えるほどです。

(解説)  山本さんは、会計事務所の創業メンバーです。現在の地位に満足し、現状を守ることが重要だと考えています。安定志向の人は、「会社のため」という発想が強く、成果を独り占めするよりは仲間と分かち合うことを好みます。また、雇用の維持を重視します。キャリア・アンカーの「保障・安定」とほぼ同じです。

●3.自由志向(Getting free)

 藤田一郎さんは、医療機器メーカーの営業マン。この職種に就いて5年目です。過去4年間は、トップセールスマンとして会社に多くの利益をもたらしました。彼の元気いっぱいのキャラクターは、同僚はもちろんクライアントからも愛され、また尊敬の的にもなっています。藤田さんは高級車に乗り、会社の経費で購入したPCなど最新機器を使いこなしています。ただし、時々上司ともめることがあります。それは、彼が部門ミーティングを無断欠席したり、何日も会社に顔を見せなかったりすることがあるからです。そして、突然電話をしてきては、あれこれと事務担当者に業務を命じます。彼は、会社が自分に対して決められたとおりの働き方を強制するなら、自分のやり方を通せる別の会社にいつでも移るつもりでいます。

(解説)  藤田さんのような「自由志向」の人は、自分らしさを大切にし、自分の裁量で仕事ができることを最も重視します。規律を好まず、自由のために社内で孤立することを恐れません。会社という組織の中では浮いた存在になりがちですが、藤田さんのように抜群の能力を発揮する人もいますね。キャリア・アンカーでは「自律・自由」に対応しています。

●4.挑戦志向(Getting high)

 篠田ゆかりさんは、小さい子どもを2人も抱えながら働いています。彼女は働くことが好きですし、きちんと成果も出しています。産休中は、パートタイムで在宅勤務をしていました。その際、同僚たちとのかかわりをあまり必要としなかったことから、業務に集中できる在宅勤務の形態が自分に向いていることに気付いたそうです。彼女は、仕事に強い意志を持って臨むことを常に心掛けてきましたが、「昇進」には興味がありません。これまでも2度ほど、会社側が示した魅力的な昇進を断っています。彼女のような挑戦志向の人は、自分がやりたいこと、興味のあることを優先します。

(解説)  篠田さんは、“職人”的に仕事に打ち込んでおり、子育てをしながらも自分の好きな仕事を続けることに喜びを感じています。‘Getting High’は直訳では‘高みを目指す’です。言葉どおり自分の能力を伸ばすことが重要で、そのためにはあえて難しいことに挑戦します。一方で、社内の昇進にはまるで興味がありません。キャリア・アンカーでは、「専門・職能別」や「純粋な挑戦」に該当すると思われます。

●5.バランス志向(Getting balanced)

 西村洋介さんと啓子さん夫婦は、部門は違いますが同じ会社に勤めています。2人とも、入社してから数年間は必死で働き、結果として、いまは理想的な生活が送れるだけの待遇とポジションを手に入れました。現時点では、子どもを作ることは考えていません(作らないと決めたわけではないのですが)。2人ともたくさんの趣味があります。なお、洋介さんには年老いた両親がおり、しばしば身の回りの世話をする必要に迫られています。やりがいのある仕事を辞める気はないけれど、ほかのことを犠牲にしてまで仕事を優先するつもりもありません。

(解説) 西村夫婦のような人たちは、仕事をきちんとやりつつ、それ以外のことにも目配りを忘れないバランス志向を持っています。「プライベート優先」ではなく、バランスを取りたいと考えているのであって、仕事を疎かにはしません。キャリア・アンカーでは、「生活様式」とほぼ同じです。

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