スタート前に成否が決まる、人事制度導入プロジェクトIT企業のための人事制度導入ノウハウ(2)(2/2 ページ)

» 2008年12月18日 00時00分 公開
[クレイア・コンサルティング]
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人事制度構築にかかる時間は?

 最後に、人事制度構築のスケジュールの考え方について解説します。

  • 人事制度導入のステップ

 まず、人事制度を導入するためのステップを確認してみましょう(表)。人事制度導入のステップは、「現状分析」「概要設計」「詳細設計」「導入準備」の4つに分けて考えられます。

 システム開発の流れに似ていますが、大きく異なるのは、人事制度の「バグ(設計ミス/欠陥)」は運用してみるまで分からないという点です。

 人事制度(特に評価)の運用には多くの人が関与し、いろいろな判断が介入します。ですから、運用開始前にすべてのパターンをテストしてバグをつぶすようなことは不可能なのです。

 その代わりとして、「導入準備」のステップで、人事制度にかかわる人々(=全社員)の理解度を高めることが重要になります。人事制度の設計において「導入準備」を十分に行わないのは、システム開発においてテストを行わずに運用を開始するようなものです。

  • 必要な期間

 これらのステップには、どのくらいの期間がかかるのでしょうか?

 一概には答えにくい問題です。表には、社内のマンパワーのみで人事制度構築を行う場合の「理想的」な期間を示してみました。合わせて最大で9カ月です。これだけの期間をかけられれば、まさに理想的でしょう。

 しかし私たちコンサルタントは、いまの時期(12月ごろ)に、「来年の4月から新人事制度を導入したいが、間に合うか?」という問い合わせをたくさん受けます。「間に合うか?」と聞かれれば、「間に合います」と答えます(プロですから……)。

 人事制度の構築において重要なのは、まず「いつまでに導入したいのか?」を定めることです。人事制度の効果は、導入後すぐに表れるわけではありません。「じわじわ」と表れてきます。一方で、システム開発現場の人事マネジメントの課題は「待ったなし」の状態です。ならば、できるだけ早い導入を目指すべきでしょう。

ステップ 主な内容 理想的な期間
(1)現状分析 ・経営の方向性や戦略を確認する
(経営陣へのインタビューなど)
・現行の人事制度の運用実態を調査する
(社員へのインタビューやアンケートなど)
・経営の方向性と現行の人事制度の実態から、
人事制度の問題点とその原因を特定する
1〜2カ月
(2)概要設計 ・「求める人材像」を設定する
・人事制度の基本方針を設定する
・各制度(等級、評価など)の基本要件を設定する
1〜2カ月
(3)詳細設計 ・各制度のツールを作成する
(等級定義、評価基準、給与テーブルなど)
・各制度の運用ルールを策定する
・社員を新人事制度に当てはめてシミュレーションを行う
(評価の格差、給与や人件費の変動など)
2〜3カ月
(4)導入準備 ・社員への説明資料を作成する
・社員への説明会を行う
・評価者へのトレーニングを行う
1〜2カ月
表 人事制度導入のステップと期間

コラム2 ある人事担当者の嘆き

 先日会った、ある企業の人事担当者の話です。その企業では、数年前に新人事制度を導入しました。しかし社員からも経営陣からも評判が良くないようで、その人事担当者に「見直しを行うように」という指令が出されました。

 人事担当者いわく、「人事制度を構築する前に、経営陣にも社員にもいろいろと意見を聞いたんですよ。できるだけその意見を取り入れた制度にして、導入前は経営陣も『よくできている』といってくれたのに。いまさら見直せなんて……」

 話を聞いていくうちに、なぜこのような事態になってしまったのかが分かってきました。人事制度は論理的に構築されており、一見設計ミスはないように思えます。しかし、社員にとっては複雑すぎたようです。社員への説明も「制度の内容」に焦点を絞ったもので、「目的や思想」は適切に理解されなかったようです。そのため、社員は制度の変更を「面倒になった」「分かりにくくなった」ととらえたようです。

 人事制度の成否は、運用にかかわる「人」に大きく左右されます。いくら論理的ですきのない制度であっても、社員への浸透に失敗したら「良い制度」とはいえないのです。


 今回は、人事制度構築の準備段階で検討すべきことについて解説しました。次回は、人事制度を構築するための「現状分析」を取り上げます。

筆者紹介

クレイア・コンサルティング

クライアントの企業価値向上・経営革新・持続的な成長を支援する組織・人事を専門領域とするコンサルティングファーム。アーサー・アンダーセンからスピンオフした組織・人事チームの主力メンバーにより設立。米国型合理主義を熟知したうえで、「日本企業の固有な体質」に合わせた独自のコンサルティングを推進している。



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