連載
» 2008年12月18日 00時00分 公開

味わい深いシステムを開発するための業界知識(4):化学産業を下支えする3つのIT (1/3)

ITエンジニアの日々の業務は、一見業界によって特異性がないようだ。だが、実際は顧客先の業界のITデマンドや動向などが、システム開発のヒントとなることもある。本連載では、各業界で活躍するITコンサルタントが、毎回リレー形式で「システム開発をするうえで知っておいて損はない業務知識」を解説する。ITエンジニアは、ITをとおして各業界を盛り上げている一員だ。これから新たな顧客先の業界で業務を遂行するITエンジニアの皆さんに、システム開発と業界知識との関連について理解していただきたい。

[山之口裕一,アクセンチュア]

はじめに

 さまざまな業界を担当しているアクセンチュアのITコンサルタントが、ITエンジニアのための業界知識として、リレー連載をお届けしています。第4回のテーマは、「プロセス型製造業」の業界動向とITとのかかわりです。

 ひとえにプロセス型製造業といっても、化学品・薬品・化粧品・食品など、非常に幅広い業界を指します。その中で、昨今、大きな環境変化に直面している化学産業を例に、これから業務を遂行するITエンジニアの皆さんへ、必要となる業界知識をお伝えしたいと思います。

化学産業の位置付け

 連載第3回「組み立て型製造業、今後の要はサービスにあり」でも述べたように、製造業は、素材型、組み立て型、上記2つ以外の食品飲料など生活産業型の3つに大分類できます。このうち、素材型に、化学・石油化学・プラスチック製品・ゴム製品の4つの産業が含まれます。一般的にこれら4つの産業は、「化学産業」と集約されることが多いですが、化学反応という製造プロセスの名称を取って、プロセス型製造業と呼びます。

 日本の化学産業は、従業員数が93.8万人と全製造業の中で第4位、年間出荷額は、56.6兆円で輸送機器製造業(59.8兆円)に次いで第2位、付加価値額は17.5兆円で第1位と、日本にとって非常に重要な産業であるといえます(経済産業省「平成18年工業統計表」)。

 化学産業の顧客は、自動車、電機、建設、医薬など、幅広い業種・業界を対象とし、他産業と比較して、事業内容・製品も多岐にわたっています。分類する場合には、以下の3つの事業・製品タイプに大別されます。

事業タイプ 事業内容 製品
基礎化学 ・単価:100円/kg未満
・技術が成熟化、普遍化
・激しいコスト競争
・エチレン
・プロピレン
・スチレンモノマー
・塩化ビニル
など
機能材料 ・単価:100〜1000円/kg
・技術の優位性・差別化あり
・先進国における需要も伸長
・ABS樹脂
・ポリカーボネート
・ポリアミド
・アクリル樹脂
など
ファイン・スペシャリティケミカル ・単価:1000円/kg以上
・最終製品に近く、製品の「機能」が重要
・研究開発力が鍵
・半導体材料
・液晶パネル材料
・写真感光材料
・医薬品
・農薬
など

 特徴的なのは、事業・製品タイプによって、取るべき事業戦略が大きく異なることです。

 「基礎化学」領域は、「コスト競争力」が非常に重要であり、設備増設や積極的なM&Aによる規模拡大が求められます。

 「機能材料」領域は、顧客企業へ積極的な提案をして、既存材料を代替するなど、新たなソリューションを創造するためのバリューチェーン構築が求められます。

 「ファイン・スペシャリティケミカル」領域では、顧客企業の要求する「機能」を満たすため、研究開発力強化が求められます。そのために、積極的な技術提携や、経営資源の集中的な投入を行う必要があります。

事業構造の変換

 国内の大手総合化学企業の2008年3月期決算を見ると、軒並み増収減益となっています。原油価格の高騰により、国産ナフサ平均価格は、2006年度の5万円に対して6万円と、1万円上昇しました。アジア向けの輸出、国内の自動車・デジタル家電製品向けの生産が順調で、販売数量は増加したものの、価格転嫁がコスト上昇に追いつかなかったことが主な要因です。

 このように、原油高騰に直接的なインパクトを受ける収益構造からの転換が、多くの化学企業の課題といえます。例えば、世界的な化学企業であるダウ・ケミカルは、事業の集中と選択を行い、基礎化学品の事業部門の半分を売却し、機能材料品の合弁会社を設立、また、最近スペシャリティケミカル企業の買収を発表しました。ダウ・ケミカルに限らず、化学企業の多くが積極的な買収・事業撤退によって、これまでの原油依存体質から脱却し、機能材料品やファイン・スペシャリティケミカルにシフトしていくことで、成長可能な事業構造・ポートフォリオへの転換を図っています。

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