“理想”とは程遠いあなたの会社の人事制度IT企業のための人事制度導入ノウハウ(3)(2/2 ページ)

» 2009年01月19日 00時00分 公開
[クレイア・コンサルティング]
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IT企業における問題の分析――評価制度、報酬制度を分析する

2.評価制度の分析

 評価制度とは、社員1人1人に期待される貢献とその到達度を評価し、その結果を賃金(昇給・賞与)、昇格・昇進および能力開発に結び付ける仕組みのことです。

 以下に、評価制度の基本的な分析のポイントと、IT企業で想定されるギャップの具体的な原因の例を示します。

a.評価項目・評価基準の妥当性の分析

[分析のポイント]

  • 評価項目や評価基準は経営方針に合致し、優秀者と非優秀者を見極めるポイントが不足なく盛り込まれているか
  • 評価基準には個人の貢献度が反映され、適切な格差がつくようになっているか
  • 社員が「どうすれば高い評価を得ることができるか」を理解できるような基準となっているか

[IT企業の6つのギャップにかかわる原因の例]

  • プロジェクトでのチームワーク発揮や組織への貢献、人材育成が評価されず、スキルや個人目標の達成ばかりが評価されるため、誰も裏方の仕事やほかのメンバーのサポートをやりたがらない
  • 年間や半期の目標を立てても、その目標を達成できるようなプロジェクトにアサインされない、個人目標がプロジェクト全体の動向(他領域の遅れやミスなど)に大きく影響を受けてしまうなどで、個人の貢献度を適切に評価できない

b.過去の評価結果の分析

[分析のポイント]

  • 過去1〜2年分の評価結果では、適切な格差がついているか(平均点が高すぎたり、評価結果が中心に偏ったりしていないか)
  • 部署や評価者によるばらつきがない状態か

[IT企業の6つのギャップにかかわる原因の例]

  • 評価者が、部下のモチベーションへの配慮から厳しい評価を行うことを避け、結果として自分の弱みや不足点に関する正しい自己認識を持てない社員が多く発生している
  • プロジェクトによって、評価の平均点に大きな違いが発生している。特に、トラブルを抱えているプロジェクトにアサインされた社員は、個人として何ら落ち度がなくても、低い評価を付けられてしまう

c.評価の運用実態の分析

[分析のポイント]

  • 評価者・被評価者の関係や評価期間の設定は、実態に照らして適切か
  • 評価制度はルールどおりに運用されているか。特に、フィードバックが適切に行われているか

[IT企業の6つのギャップにかかわる原因の例]

  • 仕事の指示や指導はPMが行っているが、人事評価権は所属組織(ライン)の上司にあるため、仕事ぶりが人事評価に適切に反映されない。また育成のためのフィードバックや心身のフォローも行われていない(所属部署の上司もPMも、育成やフォローを自分の役割だと認識していない)
  • プロジェクトのヤマ場や年度末など、現場が忙しい時期に評価を行うことになり、余裕がなくてフィードバックを実施しないなど、ルールどおりの運用が行われていない
  • スキルの高度化や技術の変化のスピードが速いため、上司よりも部下の方が高スキルであり、上司に部下のスキルを適切に評価したりアドバイスしたりする能力がない。あるいは、評価者が被評価者から信頼されていない

3.報酬制度の分析

 報酬制度とは、社員の貢献度を適切に反映し、報酬の支払い方と水準を決める仕組みのことです。

 以下に、報酬制度の基本的な分析のポイントと、IT企業で想定されるギャップの具体的な原因の例を示します。

a.報酬水準の分析(制度上のモデル賃金と実支給ベースの双方で分析)

[分析のポイント]

  • 外部水準と照らして優秀人材を獲得できる水準か
  • 人件費比率は適正か

[IT企業の6つのギャップにかかわる原因の例]

  • 自社の報酬水準が低く、中途で優秀な人材を獲得しにくい。あるいは、優秀な人材が外部に流出しやすい

b.報酬格差の分析(制度上のモデル賃金と実支給ベースの双方で分析)

[分析のポイント]

  • 管理職やPMは、非管理職と比較して十分な水準の報酬を得ているか
  • 評価によって、貢献度に応じた適切な報酬格差がついているか

[IT企業の6つのギャップにかかわる原因の例]

  • PMは残業手当の支給対象外であり、PMとメンバーの報酬格差が不十分なため、実支給ベースの報酬が逆転している(PMになると手取りが減ってしまう)
  • 低評価で非効率的に仕事をしているスタッフが高額な残業手当を得ており、高評価で効率的に仕事をしているスタッフと比較して、実支給ベースでの適切な報酬格差がついていない

c.報酬の支給ルールの分析

[分析のポイント]

  • 諸手当の支給基準は妥当か
  • 報酬テーブルやルールの対象外となっている社員がいないか

[IT企業の6つのギャップにかかわる原因の例]

  • 資格取得一時金や外部研修費用の支援を手厚く行った結果、一生懸命仕事をするのではなく、一生懸命資格勉強をする社員が増えてしまった

d.報酬のフレキシビリティの分析

[分析のポイント]

  • 一度昇給させたら下げられないという下方硬直性はないか
  • 固定給と変動給のバランスや賞与の変動幅が適切であり、会社業績に連動した人件費コントロールが行えるようになっているか

[IT企業の6つのギャップにかかわる原因の例]

  • 年齢給や基本給など、下方硬直性の高い給与の固定給の割合が高く、変動部分は賞与に限られている。業績が悪化すると賞与原資が少なくなるため、貢献度の高い人材に十分な金額を支給できず(貢献度の低い人材との格差を十分につけることができず)、モチベーションダウンや退職を引き起こしてしまう
  • 技術力や貢献度が落ちてきても、給与を下げることができない仕組みとなっており、危機感を与えることができない(活躍の場がなくても、会社にぶら下がったまま居ついてしまう社員がいる)

コラム2 評価者が基準どおりに評価を行わない理由≫

 ある企業の人事制度の現状分析の話です。

 この会社では、人事評価の平均点が80点を超えていました。標準評価が50点ですから、かなり高い平均点であり、「みんな、かなり優秀」という評価です。いったいどのような手順で評価を行っているのか、正直にお話しいただいたところ、ヒアリングを行った評価者のほとんどが、次のように考えていました。

  • 自分の評価がほかの評価者のものよりも厳しかったら、部下がかわいそう。今年の評価の平均点を予測し、それを標準として、多少の差をつけるようにしている
  • ほかの評価者も厳しい評価を行わないことは分かっている。80点くらいを目安にするのがちょうどよい
  • 評価の根拠はフィードバックしにくい。高い点数を付けておけば部下は細かく追及してこないので、フィードバックしなくて済む

 評価者としてはまったく不適切です。このような評価を行っている限り、部下は「自分はよくできている」という認識しか持てません。その結果、自分の不得意領域や弱みに気付かないまま昇格・昇進し、PMになってから苦労することになります。

 しかし、日々部下のモチベーションに気を配らなければならない上司の心情も理解できます。特に、人員不足など厳しい状況にある職場では、部下に無理を強いている手前、厳しい評価を行いにくいという心理が強く働きます。

 このような心理を想定し、甘い評価を行わないように評価者を指導していくことも、人事部の重要な役割です。


 今回は、人事制度のコアとなる等級制度・評価制度・報酬制度について、基本的な分析のポイント、IT企業の特徴を踏まえたギャップの原因例を提示しました。

 次回は、人事制度の「基本方針」や自社の「求める人材像」の策定方法を解説します。今回の「現状分析」と次回の「基本方針」「求める人材像」を踏まえ、等級制度・評価制度・報酬制度の具体的な設計を行います。

筆者紹介

クレイア・コンサルティング

クライアントの企業価値向上・経営革新・持続的な成長を支援する組織・人事を専門領域とするコンサルティングファーム。アーサー・アンダーセンからスピンオフした組織・人事チームの主力メンバーにより設立。米国型合理主義を熟知したうえで、「日本企業の固有な体質」に合わせた独自のコンサルティングを推進している。



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