連載
» 2009年01月22日 00時00分 公開

味わい深いシステムを開発するための業界知識(5):公共サービスにおける「システム導入の勘所」 (3/3)

[村山さうら,アクセンチュア]
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現場の実務を通して

 筆者は、これまで5つの独立行政法人の財務会計システム導入に携わる機会がありました。これら公的組織におけるBPR/システム構築の現場の経験から、官公庁業界ならではの難しさとやりがいについて述べたいと思います。

(1)単年度でのスピード開発

 官公庁は単年度会計であるため、近年、複数年度契約を促す動きが出てきているものの、依然として単年度(1年未満)でシステム基本設計から開発・テスト・導入まですべてを行うシステム構築プロジェクトが多いのが実情です。

 このため、安定したカットオーバーを迎えるためには、リリース時に必要な機能を見極め、妥当な開発規模となるようマネジメントすること、そして、1年という短い期間でシステム構築を行うスピード感/スケジュール感覚を身に付けていることが求められます。

(2)制度/法律の呪縛

 冒頭で、5〜10年スパンのIT政策の目指す方向性を理解しておくことの重要性を述べましたが、個別システムの導入に当たっては、業務の前提となる制度および法律をよく理解することが不可欠です。これを欠くと、クライアントとのコミュニケーションが成り立たないだけでなく、システム要件を大きく見落としてしまう恐れすら出てくるため、プロフェッショナルとしての素養が問われるところになります。

 また、新制度/法律は、国会などで定められた厳然たる期日をもって導入・発効されるため、システムの稼働はその期日から1日たりとも遅れることは許されません。例えば、国の実施部門の一部が独立行政法人化される場合、システムの構築が間に合わないからといってそれを見送ることは許されないのです。こういった待ったなしの緊張感の中、数年先の新制度/法律の動向をいかに先読みして段取りを組み、システム構想/ソリューションを提供していくかが腕の見せどころとなってきます。

(3)IT専門家(キャリアパス)の不在

 官公庁ではIT専門家のキャリアパスが確立されておらず、またローテーション人事で同じ部署に長くとどまることがないため、全体的にITリテラシーが低く、情報システムのプロが育ちにくいのが現状です。府省レベルではCIOやCIO補佐官を置いていますが、上記の事情から、実務レベルでそれを支え、長期的な視点でシステム構想を立案し具現化していく専門チームを内製することが難しいのが実情です。

 しかしここにこそ、ITエンジニアの果たすべき役割が多くあると私は感じています。つまり、クライアントに代わって長期的なシステム構想を描き、そのシナリオに従って個々の情報システムの要件定義を行うことができるような外部ITエンジニアが、いま求められているのです。そのためには業務要件への深い理解が必要ですが、それを行えるだけのスキル・知識を持ったプロフェッショナルが必要とされていることは、現場で実際にクライアントに接する中で強く実感するところです。

制度・法律の理解も求められる

 前述したとおり、政府レベルではCIO補佐官などが配置され、改革の必要性は認められているものの、官公庁のシステム構築の現場においては、クライアント側(発注側)にシステム構築の専任部隊を求めることはなかなか難しいのが現状です。通常業務の傍ら、特命を受けてシステム要件定義に参画してくれているケースがほとんどです。

 われわれITエンジニアが各種指針や制度・法律といった情報を実務レベルまでそしゃくし、理解しながらクリアすべき要件、目指すべき方向性を提案していくことの重要性は、こういったところからもご理解いただけるかと思います。

 また、官公庁の場合、クライアントの向こうには国民がいます。時に、世論の厳しいプレッシャーの下で仕事を行うことにもなりますが、現場でチームを組む方々には、そういったプレッシャーをプラスのパワーにして責務を全うする強い使命感と覚悟が感じられ、そのようなクライアントと良い仕事をしていくことを通じて、国や国民に貢献できるということは、私自身の大きなモチベーションになってきました。

 民間企業のような華やかさには欠けるかもしれませんが、それを十分に凌駕する、一プロフェッショナルとして非常にやりがいのある業界といえるのではないでしょうか。

 次回は「流通」をテーマに説明する予定です。

筆者プロフィール

村山さうら(むらやまさうら)

村山さうら(むらやまさうら)

公共サービス本部 マネジャー。京都大学教育学部を卒業後、アクセンチュアに入社。主に、独立行政法人の経理業務改革、財務会計システム構築に携わり、現在に至る。



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