税務署に疑われない「必要経費」の区分フリーエンジニアの「知れば得する」確定申告講座(1)(2/2 ページ)

» 2009年02月04日 00時00分 公開
[森嶋卓也@IT]
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税務署を甘く見るな。申告漏れはいつかはばれる

 確定申告で最も気を付けなければならないのは「申告漏れ」だ。所得には不動産所得や配当所得など10種類ほどがあるが、フリーエンジニアの場合、大半が事業所得だろう。

 故意に納税額を減らしたい(還付金を増やしたい)と思った場合、事業所得では「収入の一部を申告しない」「事業と関係ない支出を必要経費に含める」という2つの方法が考えられる。

 最近はいろいろな局面で、税務署が発行する所得証明や納税証明が、個人の資力と信用度を測る大きな要素となりつつある。納税額を減らすことは、正当な手段によるものであっても、自分の信用度を減らす可能性があるのだ。

 フリーエンジニアになったばかりの人などは、確定申告期の税務署の混雑ぶりを見て、収入の一部を申告しなくても分からないと思うかもしれない。しかし「国家権力を甘く見てはいけない」と深作氏は警告する。

 源泉徴収を受ける業務の場合、支払い元の会社は「支払調書」をフリーエンジニアであるあなたあてに作成する。あなたに支払った金額が年間5万円を超える場合、同時に税務署にも提出されている。

 また、取引先の会社に税務調査などが入り、外注費や業務委託費を調べた場合、支出の相手方や支払口座を調べ、その記録とあなたの申告状況を照合する(半面調査)。これで無申告があれば簡単にばれてしまう。税務調査以外でも「資料せん」という形で、「○年○月○日から1年間に支払った外注費の5万円を超える取引先」などについて提供を求めることがある。

 それでなくても、帳簿の記帳が義務付けられる青色申告者になったり、さらには売り上げが大きくなって株式会社化など「法人成り」をしたりすれば、過去に申告していない所得があるとつじつまが合わなくなってしまうものだ。税務署は銀行に照会してあなたの通帳の内容を調査できるのだ。国家権力をあなどってはならない。

 申告漏れは、税務署が調査すればばれてしまうものなのだ。6月に退職して7月からフリーエンジニアとして活動を始めた場合でも、半年分の収入ぐらいは申告しなくてもよいなどと思ってはいけない。翌年の確定申告をしたとき、前年の納税額との格差が大きければ、調査の対象になり得る。年の途中でフリーをやめて就職した場合も同様である。

 本人すら忘れてしまうような申告漏れならまだミスで済むが、金額的に重要性が高い意図的な申告漏れのペナルティは重い。重加算税(本税の35%)の対象になるうえに、「金額が大きかったり、悪質だったりする場合は訴追される可能性もある」(深作氏)。なお、偽りその他不正の行為により所得税を免れ、または還付を受けた者は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科される(所得税法238条1項)。

必要経費の賢い付け方

 一方、必要経費については微妙な部分がある。例えば、フリーエンジニア仲間と情報交換を兼ねて飲み会をしたとき、どこまでが業務上の必要経費で、どこまでがプライベートなのかは区別しがたいからだ。

 個人事業主として確定申告を1回すれば分かるが、サラリーパーソンでは考えられないほど「必要経費」の幅は広い。業務でスーツや靴の購入が必要であればもちろん経費になるし、ガソリン代なども「仕事の移動のため」と必要経費で落とすことができる。

 フリーエンジニアの中には、自分の法人を持ち、法人から役員報酬(給与所得)をもらう形態の人も少なくないだろう。給与所得の場合には、給与収入に対して国が決めた必要経費(給与所得控除額)がすでに考慮されている。仕事用の靴やスーツは給与所得控除額から支出すべきで、別途必要経費とすると税務署とのトラブルとなりやすい。

 何でもかんでも必要経費にしてしまうと、「収入(売り上げ)に対してなぜこんなに必要経費がかさむのか」と、税務署から疑われやすくなる。もっとも、本当に業務上必要な経費がかさんでいるのなら、当然認められる。

 深作氏によれば、ポイントになるのはやはり「税務署から好感を持たれる計上の仕方をすること」である。ガソリン代も全部必要経費にしてしまうと、プライベートなドライブの分も含まれているのではないかと疑惑を持たれてしまう。100%はやっぱりダメなのだ。

「家事関連費」取り扱いのポイント

 ここで、家事関連費、つまりプライベートにも必要経費にもなり得る費用の取り扱いのルールを押さえておきたい。

 ある支出のなかにプライベートの費用(所得税法では「家事上の経費」)と必要経費が含まれている場合、その支出の主たる部分が必要経費として業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができれば、その部分は必要経費として認められる。

 必要経費として明らかに区分できる部分は、業務の内容、経費の内容、家族および使用人の構成、店舗併用の家屋その他の資産の利用状況等を総合勘案して判定する。

 「主たる部分が業務の遂行上必要」であるかどうかは、その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定する。ただし、当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要部分を明らかに区分できる場合には、当該必要な部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えないとされる。ここが、40%だとか50%だとかうわさされる原因だと思われる。

 深作氏が勧めるのは、意外だが「プライベート分の領収書も保存しておくこと」である。確かに確定申告(の裏付け)で必要なのは業務上の必要経費の領収書だけだ。しかし、それ以外のプライベート分の領収書も、例えばスーパーやコンビニの買い物の領収書からドライブで使った高速料金の領収書までみんな保存し、スクラップブックなどにまとめておく。

 そうすれば、税務調査で税務署から説明を求められたとき、きちんと公私の区別をしていることを示すことができる。ガソリン代も、プライベートで使った割合をちゃんと記録しておけば、仕事で使った部分の正確性を説明し得る。最初に挙げた携帯電話料金の例と同様、すべての支出について、公と私を区別していることを示せれば、税務署も納得してくれるだろう。だからこそ、プライベートの領収書も保存しておくことが重要になるのだ。

 土日の飲食代などは、どうしても税務署から「プライベートの支出では?」と疑われやすい。土日の支出でも本当に業務上必要であることを主張できるようにしておく必要がある。このようなトラブルを防ぐため、なるべく平日に飲食を伴う「業務」をしておくというのも選択肢の1つである。

 確定申告での賢い節税は、やはり「税務署とのトラブルを避けること」から始まるのである。

 次回は、青色申告にするか白色申告にするかなど、確定申告の迷いどころについて触れることにしよう。


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