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» 2009年02月20日 00時00分 公開

お茶でも飲みながら会計入門(10):税法と企業会計のずれから生まれる繰延税金資産

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

[吉田延史,日本公認会計士協会準会員]

今回のテーマ:繰延税金資産

 貸借対照表には資産・負債・純資産の期末時点の残高が示され、資産項目であれば現金や棚卸資産・建物などというように種類ごとに分けて記載されています。ほとんどの科目は、その内容が容易に想像できるかと思いますが、「繰延税金資産」(くりのべぜいきんしさん)については、金額は多額である場合が多いにもかかわらず、その中身は容易には想像できないかと思います。今回は、この非常に分かりにくいと思われる繰延税金資産の正体について解説します。

【1】税金のポイント還元

 繰延税金資産とは以下のような資産です。

 会計上の利益と税務上の利益のずれに対して、ポイント還元に類似する税法上の制度がある。そのポイントは翌期以降の税金の支払いに充当できるため、それを1つの資産ととらえ、繰延税金資産と呼ぶ

 以下、赤字部分を中心に詳解します。

【2】会計上の利益と税務上の利益のずれ

 まずは、税金計算の仕組みについて説明します。企業はさまざまな税金を納める必要がありますが、ここで登場する税金は、法人税・住民税・事業税(均等割などの部分は除く)です。これらはすべて、利益に対して課税されます。

 利益に対して課税されると書きましたが、会計上の損益計算書の利益がそのまま用いられるわけではありません。例えば、見積もり計算される項目については、会計上は会社の個別事情を反映して計算されますが、税務上は公平性の見地から画一的に計算されることが多くあります。つまり、通常、会計上の利益と税務上の利益は一致しません。両者のずれが繰延税金資産の計算対象となります。

【3】ポイント還元制度

 次に、ポイント還元制度について触れます。例えば大手の家電量販店で20万円のテレビを購入すると、2万円分のポイントが付与され、次回購入時にそのポイントを支払いに充当できますね。

 税法上もこれに類似する制度があり、当期支払った税金の一部にポイントが付与され、翌年以降の税金の支払いに充当できる場合があります。このポイントは購入側から見ると1つの資産と考えることができます。そこで、この税金ポイントを繰延税金資産として認識します。

【4】賞与引当金を例に、繰延税金資産について見てみよう

 賞与引当金を例に、いままでの話をもう一度見ていきましょう。3月決算の会社において、7月に従業員に支払う賞与は、1〜6月の貢献に対するものです。7月の支給時まで金額が確定しない場合、3月の決算において、1〜3月分を見積もり計算し、賞与引当金を計上します。同時に賞与引当金繰入という費用が生じます。その費用が100だけ生じたとしましょう。しかし、税務上は賞与引当金の計上は認められず、費用が生じません。すると会計上の利益と税務上の利益にずれが100生じます。税率が40%だとすると、100×40%=40だけ、会計上の利益から考えると多く税金を支払うこととなります。

 この利益のずれに対して、税法上ポイント還元制度が用意されています。今年度の税金の支払いは多くなるものの、その分だけ(40ポイント)付与され、翌年度の税金の支払いに充当できるのです。

 この税金ポイント40は、企業から見ると1つの資産と考えることができます。それを繰延税金資産と呼ぶのです。繰延税金資産を認識する会計を税効果会計と呼びます。なお、利益のずれのすべてに対して、ポイント還元制度が用意されているわけではありません。例えば、交際費なども賞与引当金と同様に、利益のずれをもたらしますが、これについてはポイント還元制度はありません。

【5】使えないポイントは資産計上できない

 家電量販店のポイントは現金に変えることはできません。そのため、使用しないのであれば、資産価値はありません。税務においても、企業が翌年倒産したら税金ポイントを使用できないままとなってしまいます。そのため、繰延税金資産は、企業の将来性に応じた分しか計上してはならないとされています。

【6】柔軟に対応できるシステム設計が必要

 税効果会計をシステム上導入する際には、上述のポイントが付く利益のずれを管理することが必要となります。どの項目からいくらずれが生じるのか、またそれはいつ使えるのかなどの管理が肝要です。また、税制は毎年改正されますから、場合によっては管理対象が変化してしまいます。柔軟に対応できるような設計が必要でしょう。

 税効果会計はすべての企業が適用しなければなりません。近年、会計上と税務上の利益のずれが著しくなっており、優良企業では億単位の繰延税金資産が計上されていることも少なくありません。しかし優良企業でも、不調になり存続が危ぶまれると、突然その億単位の繰延税金資産を(すべて使えない税金ポイントとして、)費用とすることを強制されることがあります。その点、税効果会計は非常に怖い会計基準といえますね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。

イラスト:Ayumi



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