第105回 不況のときこそ明日の技術へ投資せよ頭脳放談

半導体業界でも会社更生法の申請が相次いでいる。さらなる業界再編は避けられそうにない。しかしいまこそ新しい技術への投資が必要だ。

» 2009年02月25日 05時00分 公開
「頭脳放談」のインデックス

連載目次

 2009年1月のQimonda(Infineon Technologiesのメモリ部門を分社化して設立されたドイツの半導体メモリ・メーカー)に続いて、2月はSpansion Japan(AMDと富士通が共同で設立したNORフラッシュメモリ・メーカー、Spansionの日本法人)までもが会社更生法を申請する事態になってしまった。

 いまや半導体業界は、どこも業績がぼろぼろで目も当てられない惨状なのだが、中でもまずメモリ系の会社に大波が押し寄せている感じだ。これは、単に「品数の少ない特定の汎用品種」に集中せざるを得ないメモリ・ビジネスの特性から、「メモリが先になっている」だけである。

 同じ半導体業界なので、ロジック・ビジネスもアナログ・ビジネスも例外はないと見た方がよい。ただ多品種で多少「まだら模様な」状況がある分、時定数が多少違う、という程度の差でしかない。いまはメモリに限らず、すべてのデバイスの需要そのものがある意味「雲散霧消」状態で止まってしまっているからだ。半導体業界は、長年にわたって4年周期の好不況を繰り返してきたが、それは端的にいえば「業界内の」在庫調整のサイクルである(「第8回 シリコン・サイクルは神の見えざる手か、都市伝説か」「第55回 シリコン・サイクルに隠れたトレンドの変化を見逃すな!」を参照のこと)。このサイクルでは、値段が落ちても使用数量は伸びてきた。だがほとんど全世界、全業種にわたる今回の不況は、そんな単純サイクルを吹き飛ばしてしまった。

 どちらの会社も、差し押さえなどで、動きが取れなくなるような最悪の事態を防ぐために、ともかく会社更生法の申請をせざるを得なかったという局面だったようだ。当然、QimondaもSpansion Japanも、業務は継続している。しかし、次の手を早く決めないと行き詰ることになる。

 Qimondaの方は、2008年末にドイツのザクセン州の地方政府の融資が受けられるという話が出ていて、「取りあえず助かったのだなぁ」と思っていたら、手続きが遅れてしまい会社更生法を申請せざるを得なくなったという報道もある。そのあたり、断片的な情報しか公表されていないし、融資話は継続中という日本法人発の報道もあり、まだどうなるのか分からない。Spansion Japanの方は、親会社のSpansionでなく、子会社であり主力工場を福島県会津若松市に持つ日本法人のSpansion Japanの方が先に会社更生法を申請する事態となってしまった。当然ながら、子会社を救えなかった親会社も予断を許さない状況であろうことは容易に想像がつく。こちらもまた、まだどうなるか分からない。

 NOR型フラッシュメモリのSpansionは、NAND型フラッシュメモリの価格低下に引きずられてボロボロになったように見える。NAND型フラッシュメモリ大手のSanDiskに大穴が開き、SanDiskがSamsung Electronicsの軍門に下りそうな寸前で東芝が待ったをかけた、というこの間のNANDフラッシュメモリの戦いの余波が、規模の比較的小さなNOR型フラッシュメモリ業界を翻弄した、ともとれる。

 どちらもその地方の主要産業であり、雇用の面からも影響が大きいので、関係者の方々は何とかすべく奔走しているところと想像する(でも、お体にだけは気を付けてください。本当に)。

 同じ業界の者として「何とかなる」ことを切に願っているし、ひとごとでもない。しかし、資本の論理は「弱み」を見せると寄ってたかってたたきにかかるから、よほどしっかりした「救済」の枠組みを示せないと墜落である。「救済」に向かって走っている人の裏で、「退場後の皮算用」をしているやからもまた多いのである。

激動は業界再編を生む

 そんな激動の中で、業界再編、つまりは合併、統合、買収による独占化、寡占化が進んでいる。ある程度の「退場者」が出れば、「残存者」はやっていけるという身もふたもない話である。まあ、確かにそのとおりといえば、そのとおりなのである。ただ「統合」の過程で、「重複」していた部分は切り捨てられ、ついでに「いままでのしがらみ」で残っていたような「部門」も整理といったような「リストラクチャリング」をしないことには、効果は現れない。再編で会社や会社の「名前」は残ったとしても、振り落とされるような事態がまま起こり得る。あまり表に出ない分、会社更生法の申請より悪いかもしれない。

 Qimondaについては、Micron Technologyが2008年、買収に触手を動かしていたという報道があったが、何を察知したのか、いち早く手を引いて模様眺めになっている。自分が手を下さなくても市場が淘汰(とうた)してくれると思ったか。

 ただし、半導体関連の業界は、ある市場分野で独占化、寡占化を果たし「リストラ」もうまくいったとしても、それでのうのうとビジネスできる、というわけでもない。例えばメモリなどは「虎視眈々(こしたんたん)と代替を狙う新世代のメモリ技術」が常に存在しているから、独占にあぐらをかいて価格をつり上げていると、あるとき「ちゃぶ台返し的」技術革新が起こってひっくり返るということになりかねない。

 すでに寡占化が進んでいるNAND型フラッシュメモリなどは、「代替技術」の影におびえないとならないのである。それもあってか、東芝は世界最速と銘打つFeRAMを発表している。「トップを狙う」ためには常に弾を切らしてはいけないということだ。

 そういう点では、あろうことか2月になって70億ドルの投資を発表したIntelなどは、一番強気なのかもしれない。とはいえ、Intelも足元では利益激減で、片手ではリストラをやりながらである。実は「不況のときの逆張り」はIntelの真骨頂かもしれない。Intelが32bitのプロセッサで「世界を征服」できたのも、大昔の半導体不況のさなか、同業他社が開発投資を絞る中で、メモリ部門(まさに!)を畳んで、32bitプロセッサの開発になけなしのお金を投入したからである。そのころのIntelは老舗とはいえ、規模では業界の中堅どころでしかなかった。この結果、不況が明けたときには、同業他社はIntelをキャッチアップできず、プロセッサ業界でのいまに至るIntelのひとり勝ちの構図と、業界トップへの道が開けたのである。

 もう、先のことなど考えられない、ともかく乗り切る、生き延びることが先決だ、とは思うのだけれど、不況のときの布石はその先の命運を左右する。製造業であれば、まずは「賭けるに値する技術」を持っていないといけない。頑張りましょう!

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


「頭脳放談」のインデックス

頭脳放談

Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。