「自発的に学ぶ社員」を「公平に評価」する等級制度IT企業のための人事制度導入ノウハウ(5)(2/2 ページ)

» 2009年03月19日 00時00分 公開
[クレイア・コンサルティング]
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等級制度の設計方法

 このような目的を実現できる等級制度を作るため、具体的にどのように作業を進めればよいのでしょうか。

 等級制度設計・構築のステップは、大きく分けると以下の4つです。

  1. 等級体系の要件を決める
  2. 等級定義を作る
  3. 社員の格付けを行う
  4. 昇格・降格ルールを決める

 今回は12について解説を行います。34については、次回解説を行いたいと思います。

1.等級体系の要件を決める

a.等級体系の「ベース」を決める

 等級制度設計の最初のステップは、「何に基づいて等級を決めるか」を決めることです。

 一般的に等級制度には、社員の保有する職務遂行能力に基づき等級を決める「職能資格制度」と、社員の就いている仕事(責任・難易度)に基づき等級を決める「職務等級制度」の2つがあります。

 職能資格制度の場合、能力を向上させた社員を、ポストに空きがなくても昇格させることができるので、社員の成長意欲を引き出しやすいというメリットがあります。ただし、ポストに関係なく昇格させた結果、同じ等級の社員同士で仕事の難易度が異なる状況が生まれやすくなり、評価・処遇面での不公平感が生まれる可能性があります。現在就いている仕事の難易度の違いを処遇に適切に反映したい場合には、職務等級制度を採用した方がよいといえます。現状分析を踏まえ、自社にとってどちらが適切であるかを判断してください。

 「身に付けたい能力」を社員に強く意識づけたい場合は、職能資格制度を採用すべきです。また、「果たすべき責務」を強く意識づけたい場合は、職務等級制度を採用すべきだと考えます。

 以下では、職能資格制度を前提に解説を進めます。

b.等級体系の「柱」を決める

 ベースの次に決めることは、等級体系の「柱」(縦軸)です。能力をベースに等級体系を組み立てるといっても、能力はシステム開発力、クライアントとの交渉力、部下に対する指導力と多岐にわたります。そこで「自社では、どのような能力を柱にして等級体系を組み立てていくのか」を検討し、要件として固めることが必要になります。

 等級体系の柱を決めるうえでのポイントは、自社の目標実現のために社員が備えるべき能力をしっかりと整理することです。

 前回、「あるべき事業の方向性を実現するためには、どのような能力が必要か?」という検討を行い、求める人材像を「知識・スキル」「コンピテンシー」「価値観」の3つの視点で具体化することの必要性を説明しました。これらを整理したものが等級体系の柱となります。自社の等級制度とITSS(ITスキル標準)との整合性を取ることが必要ならば、ITSSの内容を柱にすることも考えられます。

 管理職と一般社員では、求められる能力が異なります。一般社員の中でも、リーダークラスと新人では求められる能力が異なると想定されます。事前に管理職向け、リーダー向けと分けたうえで、それぞれに必要な能力を整理することが必要です。

 さらに、例えば「将来マネジメント業務を担う人材」「最先端のスキルを追い続けるスペシャリスト」のように人材を区分して育成したい場合、等級体系を分けておき、それぞれに最適な柱の要件を固めることも必要です。一般に「コース別人事制度」といわれるものがこれに該当します。

c.等級の「箱の数」を決める

 等級体系のベースと柱が決まったら、「箱の数」を決めます。要するに、一番下の等級から一番上の等級までを何段階に分けるかということです。

 等級の数を多くすると、「社員のステップアップ感を醸成することができる」「能力の違いを細かく管理することで段階的な育成を促すことができる」というメリットが生まれる一方、「細かくしすぎることにより、等級ごとに求められる能力差が不明確になる」「昇格しても基本給の上昇幅が十分に確保できない場合がある」「等級ごとに細かい評価基準を作成する必要が生じるため、運用が複雑になる」といったデメリットが生まれます。

 逆に等級の数を少なくすると、「等級ごとに求められる能力差が明確になる」「中途採用者の格付けが比較的容易である」「比較的制度運用の負担が少ない」というメリットが生まれる一方、「社員の等級変更(昇格)の機会が少なくなる」「明らかに能力差のある社員同士が、同じ等級に格付けられる可能性がある」といったデメリットが生まれることになります。

 それぞれ一長一短がありますので、現状分析の結果と現在の社員間の差を踏まえて箱の数を決めることになります。

2.等級定義を作る

 「等級体系のベース」「等級体系の柱」「等級の箱の数」の3点が決まれば、等級体系の骨格が固まったことになります。あとは等級ごとに具体的にどのような役割・能力が求められるのかを記述すれば、等級定義は完成です。

 具体的には、まず等級別の「求める目安」を記述します。「1等級:上司や先輩の指導を受けながら、担当の仕事を行うことができる」「2等級:独力で、自分の担当の仕事を最後まで行うことができる」といった内容です。

 この「求める目安」を前提に、等級体系の柱(○○力)の内容を具体化・詳細化します。例えば「業務改善力」であれば、「1等級:上司や先輩から指摘された点について、次回の業務に反映させることができる」「2等級:自身の業務内容を振り返り、効率を上げるために必要な点を確認し、次回の業務に反映させることができる」といった内容になります。

 ここでのポイントは2点。1点目は社員にとって理解しやすいものであることです。冒頭で述べたように、等級制度の目的は、社員への期待を明確にすることで評価・処遇の公平さを担保し、成長目標を明確にすることにあります。従って、どれだけ精緻なものを作ったとしても、社員にとって分かりにくければ意味がありません。よって、原案を作った後、複数の社員にヒアリングして表現をブラッシュアップすることを推奨します。

 2点目は、内容を限定しすぎないことです。IT業界の特徴として、求められるスキルが次々と移り変わっていくことがあります。現在使用している開発言語がJava中心であるからといって、等級定義に「Javaの……」と書いてしまうと、数年後に開発言語が変わったときに不都合が生じます。開発手法においても同様のことがいえるでしょう。

 ビジネス環境の変化に合わせて等級定義の内容を更新すること自体は間違っていません。しかしあまりに頻繁に書き換えられるようだと、社員の信頼を得られませんし、成長目標としての機能も果たさないことになってしまいます。IT業界では、求められるスキルが変わり続けることを前提にした記述を心掛ける必要があります。


 等級定義が完成すれば、次は社員の格付けです。次回は等級制度設計・構築のステップのうち、「社員の格付けを行う」「昇格・降格ルールを決める」を中心に解説を行います。

筆者紹介

クレイア・コンサルティング

クライアントの企業価値向上・経営革新・持続的な成長を支援する組織・人事を専門領域とするコンサルティングファーム。アーサー・アンダーセンからスピンオフした組織・人事チームの主力メンバーにより設立。米国型合理主義を熟知したうえで、「日本企業の固有な体質」に合わせた独自のコンサルティングを推進している。



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