ITエンジニアの76%は運動不足に悩んでいる特集:運動で変わるシゴトとカラダ(1)

本特集は、日ごろ運動不足のITエンジニアが体を鍛えることの重要性について考える。本日5月25日から5日間毎日更新で、運動をテーマに記事をお届けする。

» 2009年05月25日 00時00分 公開
[荒井亜子@IT自分戦略研究所]

 現代に生きるビジネスパーソンに必要な三種の神器を、「IT」「語学」「財務」と定義したのは大前研一氏だった。最近は、これらに加えて「運動」といわれたりする。運動は趣味や気晴らしになるだけでなく、体を健やかにし、エネルギッシュでメリハリのある日常を送るために有効な手段だ。脳科学的には創造力やうつ病にも効果があるといわれている。だがITエンジニアには一般に、運動しない不健康なイメージがつきまとう。実際、読者アンケートでも運動していないことが分かった。特集第1回では、ITエンジニアと世間一般の運動状況を比較する。

運動に目覚める日本のビジネスパーソンたち

 ランナーとしても有名な作家 村上春樹は、フルマラソンを走り続けて16回目をすぎたところで「肉体が変われば、文体も変わる」(『BRUTUS』、1999年6月1日発売、433号)という名言を残している。走ることには、執筆で高ぶった神経をクールダウンする効果があるのだという。(当時で)15年以上走り続けているという村上春樹にとって、走ることは人生の一部なのだろう。

 このインタビュー記事を抄訳したWebサイトに、村上春樹の運動に対する考えが記されていた。「フィクション作家にとって最も大事な資質は想像力、知性、フォーカスだろう。しかし、これを一定の高水準に維持したいと思うなら体力の維持をないがしろにはできない。体力が磐石でないと複雑で骨の折れることは成し遂げられない、そう思う。走っていなかったら文体も今のそれとは大分違ったものになっていただろう。」

 10年前の主張だが、いま読んでも新しい気がする。現在がランニングブームだからだろうか。

 村上春樹が走り出したのは1982年。まだランニングがはやっていなかったころだ。エイ出版社のWebサイトによると、当時マラソン雑誌といえば1983年創刊の『シティーランナー』(1999年廃刊)と、1975年創刊の月刊誌『ランナーズ』しかない状態だったという。現在はといえば、『Trail Running Magazine』『ランナーズ』『ランニングマガジン・クリール』『Running Style』『Enjoy Running』『ランニングの世界』と挙げればたくさんある。専門誌以外でも、『Tarzan』2008年10月22日発売号/2009年2月25日発売号、『CREA』2007年12月号、『Hanako』2007年6月14日号、『FRaU』2007年11月号などファッション(*1)とランニングを絡めた女性誌を中心にランニングを特集した雑誌は多い。

(*1)ランニングにファッション性が芽生えたのはいつか。『ランナーズ』2005年8月号120ページの「走る仲間の広場」という読者投稿欄に、「なんかランニングってダサい」と会社の後輩に指摘されてしまった28歳の読者から「おしゃれで楽しいスポーツだと若い人にアピールしてほしい」という投稿が掲載されている。ここから、ランニングにファッション性が付与されたのは、2005年以後だと考えられる。


 マラソン大会で見ると、2009年の東京マラソンには15万6012人もの応募があった。前年の68%増である。また、ここ数年、フルマラソンの大会は新設ラッシュだ(表1)。

第1回開催日 大会名 開催地 参加者概数
2008年4月27日 とくしまマラソン 徳島県 4000人
2008年11月16日 下関海響マラソン 山口県 4200人
2009年2月22日 海部川風流マラソン 徳島県 1300人
2009年3月8日 能登和倉万葉の里マラソン 石川県 1800人
2009年3月22日 宿毛(すくも)花へんろマラソン 高知県 750人
表1 2008年以降に新設された主なフルマラソン大会(出典:opinion

運動別に見る人口の推移

 当然、ランニング人口は飛躍的に伸びている。2008年に週1回以上走った人は推定で352万人。2006年から55万人増加している(表2)。最も多いのは、ランニングをしてみたいと考えながら、実際には走っていない「ランニング希望者」だ。日本には、潜在的運動人口が多い。

頻度 2008年 2006年
年1回以上 755万人 605万人
週1回以上 352万人 297万人
週2回以上 248万人 215万人
希望 858万人 749万人
表2 2006年と2008年の日本のランニング人口の比較。20歳以上の2000人に調査し、全体を推定。2009年に発表(出典:SSF笹川スポーツ財団

 ランニングに限らず、ウォーキングやヨガの人口も増えている。2008年にウォーキングを週1回以上した人は1685万人(SSF笹川スポーツ財団が20歳以上の約2000人に調査し全体を推定。2009年に発表)。2006年の1457万人と比べて228万人増えた。

 ヨガ人口に関しては、日本に約30万人いるという報告がある。BRICs経済研究所が2006年6月に行った調査で32.8万人、2005年12月が30.4万人とあるので、半年間で7.8%増加したことが分かる。

 運動全体で見ても、人口増加の傾向が見られる。内閣府大臣官房政府広報室が発表している「世論調査報告書」によると、2004年から2006年にかけて運動人口は6.3%増えている(表3)。

  運動した 運動しなかった
2004年 68.2% 31.4%
2006年 74.5% 25.5%
表3 その年に運動した人の割合。全国20歳以上の3000人に調査。2006年調査2004年調査

 世の中のビジネスパーソンの多くは、運動に対し何かの重要性を認識している。そして、その人数は少しずつ増えている。

ITエンジニアはというと……脂の乗った30代

 実は、運動するビジネスパーソンが増加傾向にある中、ITエンジニアはその逆を行っている。@IT自分戦略研究所が行ったITエンジニアの健康に関する調査(*2)では、ITエンジニアの76%が運動していない図2)。この数字は、先ほどの世論調査報告書で挙げた「運動した」人の割合と近しい。

図1 健康で気になっていること 図1 健康で気になっていること
図2 健康で気になっていることの原因 図2 健康で気になっていることの原因

 アンケートに答えてくれたITエンジニアが健康で気にしている症状としては、「目の疲れ」「体重」「肩こり」「体脂肪/コレステロール」が多く挙げられた(図1)。この結果を踏まえ、ソフトバンクグループで産業医をしている、アットワーク 医学博士の宮崎寛氏に、IT業界で働くビジネスパーソンの健康状態について聞いた。

 宮崎氏は「体重」「体脂肪/コレステロール」の問題について、「ITエンジニアに限ったことではないが、長時間労働で夜遅くまで勤務している人は、食習慣が乱れメタボリックシンドロームなどの生活習慣病にかかりやすい」と述べる。

 脂肪を燃焼するには、「食事制限はもちろんだが、それだけでなく、運動を習慣化する必要がある」(宮崎氏)。運動時間は1回に5分程度ではあまり意味がなく、「最低10分、やはり20〜30分、息が上がる運動をする必要がある」のだという。運動時間5分では糖分は消費できても脂肪の燃焼には至らないのだそうだ。

(*2)@IT自分戦略研究所 読者413人が回答


厚生労働省も運動を推進

 メタボリックという言葉が出たが、厚生労働省もメタボリックへの施策として運動を推奨している。厚生労働省は2006年に「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」のスローガンを掲げ、「健康づくりのための運動基準2006」「エクササイズガイド2006」を策定している。運動の単位を「エクササイズ」とし、生活習慣病予防のために1週間に最低23エクササイズを推奨している。


 ここまで、世の中の運動意欲の高まり、ITエンジニアの運動不足と健康状態について述べてきた。

 ところで村上春樹が走り始めたのは、作家になり、『羊をめぐる冒険』を書き上げた後だ。村上春樹によると、作家という仕事は何時間もいすに座りっ放しで体も鈍るしすぐ太るのだという。どこかITエンジニアの仕事にも通じる話だ。極端なことをいうと、作家とITエンジニアの仕事は共通点が多い。書くということ、国語力を要するということ、長時間いすに座るということ、創造力を要するということ、アイデアに煮詰まることがあるということ。

 村上春樹が走り始めたのは33歳。@IT自分戦略研究所の読者の平均年齢は35歳(ボリュームゾーンは20代後半〜30代前半)。読者の皆さんが運動に目覚めるには遅くはない。

今日から5日間、毎日更新

 特集:「運動で変わるシゴトとカラダ」は、5月25〜29日まで、5日間毎日更新でお届け。ラインアップは次のとおり。


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