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» 2009年05月27日 00時00分 公開

IT業界 転職市場最前線(1):IT業界、いま転職するならゲーム業界かクレジット系

平成の大不況の下、IT業界の転職市場は冷え込んでいる。だが、すべての企業が採用をやめたわけではなく、いつまでも採用が止まり続けるわけでもない。転職市場の動向を追い、来るべきときに備えよう。

[ワークポート]

 2007年のサブプライム・パニックに引き続き、世界中に激震が走った2008年のリーマン・ショック。日本の景気をも大きく後退させ、深刻な雇用問題を引き起こしたことは、あらためて論じるまでもないだろう。

 しかし、そんな市況にあって、採用に積極的な業界・企業が存在することをご存じだろうか。

 派遣切りや大量解雇など、雇用問題が毎日のようにニュースに取り上げられる昨今。この不況を生き抜くための糸口はどこにあるのか。本連載では、転職市場に流入してくる人材や企業の採用状況を中心に、求人広告メディアの動向などを交え、エンジニアを中心とするIT系人材の雇用・採用状況の実態をお伝えしていこうと思う。

 第1回は、2009年4月度の転職市場を軸に、IT業界・IT職種における雇用状況を紹介する。

買い手市場の構図がさらに顕著に

 2009年4月度は、昨年から続く「求人数の減少」「求職者の増加」という傾向がさらに強まった。毎年、期首である4月は求人件数が減る傾向にあるが、2009年は例年以上に求人案件が転職市場から消失することとなった。特に、第二新卒やポテンシャル採用をする企業は激減した。

 しかし、新しい求人案件がまったくなかったわけではない。ゲーム業界や、個人ユーザー向けサービスを展開しているインターネット・モバイル企業では積極採用が多く見られる。また、3月までは採用意欲の低下が著しかったSIer(システムインテグレータ)においても、プロジェクトの目処(めど)が立ったことを理由に、エンジニアを求めて新たな採用を予定する企業が増えつつある。「新規商品の開発・制作よりも、営業に力を入れて既存サービスの拡大を図り、利益を確保したい」という考えから、営業職を求める企業が増したことも特徴的であった。

 ただし、採用を続ける企業の多くで選考水準が厳しくなっている。景気の不透明感から採用に対する慎重姿勢が強まっているだけでなく、応募者数増加によって競争倍率が上がっていることがその要因といえる。また、プログラマやシステムエンジニアよりも、プロジェクトマネージャやプロジェクトリーダーなど「プロジェクトの核」となり得る経験豊富な人材を求める傾向が強く、経験の浅いエンジニアにとっては厳しい状況が続いている。

景気の低迷が続く中、同じ業界内でも明暗が分かれる

 景気の低迷、採用予算の削減などによって、厳しい状況が続いている転職市場。しかし前述のとおり「ゲーム業界」や「個人ユーザー向けサービスを展開するインターネット・モバイル企業」には堅調な採用を行っている企業が目立つ。

 ゲーム業界では円高の影響から外資系企業において日本撤退などのニュースが続いているが、内資系企業では積極的な採用を続けているケースが多い。

 インターネット・モバイル業界では「個人ユーザー向けサービス」が1つのキーワードといえる。特に「GREE(グリー)」「モバゲータウン(ディー・エヌ・エー)」などのユーザー課金型サイトをはじめ、ぐるなびやカカクコムなど、純広告収入のみに依存しないビジネスモデルを確立している企業の採用意欲は衰えていない。

表1 業界・業種によって採用意欲に明暗 表1 業界・業種によって採用意欲に明暗

 これまで比較的好調と思われていたネットワーク業界でも求人案件の減少が見られた。だが、独自の機器やツールなどの自社プロダクトをセールスポイントに持つ企業は、現在も業績を落とさずに恒常的な人材採用を続けており、特に営業職のニーズが高い。とはいえ、受注案件の減少によって技術者を社内で抱えてしまっている企業も増加しているのが実情であり、二極化が進んでいるといえる。

 また、リーマン・ブラザーズ破たんの影響が危ぐされる金融系SIerにおいても、クレジット分野では採用ニーズが高まっている。これは2010年6月のクレジットカードに関する法改正施行に当たり、「クレジット関連のシステム開発経験、または業務知識のあるエンジニア」の需要が一気に高まったことが要因だ。なお、クレジット分野以外では、生保、銀行、損保の順に需要が高い。

 インターネット業界においては、プログラマやネットワークエンジニアなどの技術職、ディレクター、プロデューサーなどの管理層と比較すると、Webデザイナー職や営業職での転職は難航するケースが多かった。

表2 転職しやすい職種、厳しい職種(ワークポートでの転職成功実績より) 表2 転職しやすい職種、厳しい職種(ワークポートでの転職成功実績より)

求職者はさらに増加。転職活動期間が長期化するケースも

 求人案件が減少する一方で、求職者は増加を続けている。離職中の求職者も増しており、転職活動期間が半年を超える人も多くなってきた。

 また、これまではキャリアアップなどを理由とした自主的な転職活動が大部分を占めていたが、「受託開発を中心に開発を行ってきたエンジニア」を中心に、企業の業績悪化を理由とする転職が目立ったことも4月度の特徴である。こうした転職には、企業の業績悪化に伴って転職を余儀なくされた場合と、自社の先行きに不安を感じて転職活動を開始した場合の2通りがあり、それぞれ同程度の割合であった。

 これまでは比較的好調だと思われていたネットワーク業界でも、多くのエンジニアが転職活動を開始している。特に、単価の高い短期間契約のプロジェクトに積極的に参加して高収入を得ていたネットワークエンジニアが、「次のプロジェクトが見つからない」「いつプロジェクトが打ち切りになるか不安」などの理由から、長期的に安定した収入を得られる正社員としての就労を求めるケースが増加した。

 ワークポートの人材紹介サービス利用者に調査を行ったところ、これまでは人材会社を2社または3社併用する人が主流であったが、調査開始以来、初めて「他社利用なし(ワークポートのみ利用)」という利用者が最も多くなった。

 また、「ぜひその企業を紹介してほしい」と特定企業への入社を希望する意見が減少した。一方、キャリアプランの相談や、転職に関する統括的なアドバイスを期待する声が増加した。急速な景気の悪化によって予期せぬ転職を迫られた「転職未経験」の求職者が市場に多く流出したことや、求職者にとっては厳しい市況から個人での活動に限界を感じて人材紹介会社の門をたたく人が増えたことが要因と思われる。また、昨年度までと比較し、福利厚生や会社規模を重視する人も増加傾向にある。昨今の景況を反映した結果といえるだろう。

人材紹介・求人媒体には新たなる付加価値が求められる

 4月に入り、企業が採用にかける予算の低下が以前にも増して顕著に表れるようになった。コストのかかる人材紹介から求人広告へのシフトや、広告枠の縮小でコスト圧縮を図る企業が少なくない。

 初期費用をかけたくない(予算が取れない)という企業が多く、こうしたニーズに応えるため、求人媒体各社の価格競争は激しさを増している。昨年まではまれであった応募保証や面接保証などの保証サービスが多くの媒体で採用され、単純な価格競争ではなく、「採用企業に対してどのようなサービスを提供するか」「その媒体を使うことによるベネフィットの違いは何か」といった、広告の本質を問われる時代になったといえる。

 人材紹介会社各社では、求人企業を確保するために紹介手数料を大きく引き下げる動きが見え始めている。また、求人企業側から人材紹介会社に対して値下げの交渉を行うケースが増えてきた。書類選考の通過率を競わせ、人材紹介会社をふるいにかける求人企業も出始めた。マッチング精度のさらなる向上のみならず、新たな付加価値によって他社との差別化を図るなど、これまでの枠にとらわれない人材紹介サービスのスタイルが求められている。


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