システム受注にも使われるリース取引の会計処理お茶でも飲みながら会計入門(16)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど。すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2009年06月11日 00時00分 公開
[吉田延史日本公認会計士協会準会員]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:リースの仕組みと会計処理

 カーリースは、月々一定の支払でクルマをお使い頂けるシステムです。 クルマを資産として所有しないことで、一時払いの負担や、税金計上の必要もなく、車両を継続的に保有する場合に必要な税金や、代替などで発生する経費を予定する必要はありません。(トヨタレンタリース リース料金とシステム

 リースという言葉は、日常生活やビジネスにおいてよく聞かれます。システム導入においても、リース契約が行われることがあります。特にシステム開発会社で営業として勤務しておられる方は、商談でリースについての話題が頻繁に出てくると思います。今回はこのリース取引について、上述のカーリースを例に解説します。

【1】リース取引の構造

 リース取引の当事者は、売り手、借り手およびリース会社の3者です。リース会社は物品の貸し手となります。リース契約にはさまざまな形態が存在しますが、最も典型的なリース取引の手順は以下のとおりです。

(1)売り手がリース会社に物品を販売します

(2)リース会社は購入した物品を、契約期間中、借り手に対してのみ提供し、その使用料を定期的に受け取ります。契約期間中、中途解約は通常できず、受け取る使用料の総額は、売り手から購入した代金よりも多く設定します

(3)借り手は物品を自分だけで利用し、利用料を定期的に支払います

 この3者はそれぞれ以下の思惑を持って取引します。

(1)売り手:リース会社に販売することで、資金回収が短期に行える

(2)借り手:高額な支払いを行うには、借入などの資金調達が必要だが、リース会社にリースしてもらい使用料を支払い続けることで、借入を行うことなく物品が使用できる

(3)リース会社:借り手が支払ってくれる限り、使用料をもらい続けることができ、最終的には物品購入代金よりも多い収入を得ることができる

 見方を変えると、リース会社は借り手が即時に用意できない資金を実質的に融通し、それに対する利息をもらうことで、もうけを得ようとするのです。

 仮に、借り手が払えなくなったとしても、リースしていた物品はリース会社の所有物なので、融通した資金のうち一部は物品を売却することで回収することができます。とはいえ、リース会社も貸倒れてしまうと損失が大きいので、通常は与信調査を行います。

【2】カーリースの場合

 カーリースの場合には、上記の、売り手⇒自動車メーカー、借り手⇒消費者、リース会社⇒カーリース会社ということになります。

(1)自動車メーカーにとっては、カーリース会社が車を買い取ってくれるため、短期間で車の販売代金を回収できます

(2)消費者にとっては、何百万円もする車は即金で購入することはできませんが、月々数万円ずつの支払いとすることで、借り入れなく車を使用できるようになります(ただし、中途解約は通常できません)

(3)カーリース会社にとっては、消費者に月々数万円ずつ支払ってもらうことで最終的に自動車メーカーからの買値を上回る収入を得ることができます

【3】リース取引の会計処理

 リース取引の会計処理についても簡単に見ておきましょう。このリース取引に関する会計処理は近年見直しが入りました。リース取引の会計処理は、(1)売買処理(2)賃貸借処理の2つの考え方があり、取引の実態に応じて両者を使い分けなければなりません。そこで、2つの考え方のエッセンスを説明します(システム導入においては、顧客は借り手の立場になりますから、以下は借り手の立場に絞って解説します)。

(1)売買処理

 リース取引において、物品の所有権はリース会社にありますが、実際に物品を利用しているのは当然、借り手です。売買処理では、借り手が物品を独占的に利用している点に着目し、リース会社から借入をして物品を購入したとみなして、会計処理をします。

(2)賃貸借処理

 賃貸借処理では、リース取引を単にリース会社から資産を借りただけであるととらえて賃料をその発生に伴って費用計上します。

 従来ほとんどのリース取引は、(2)賃貸借処理として会計処理されてきました。これが見直され中途解約ができず、かつ、借り手に対してのみの提供となるリース取引は原則(1)売買処理として、購入したものとみなして会計処理しなければならなくなりました。


 システム導入における顧客企業の立場は、カーリースの場合の消費者と同じです。通常、システム導入費用は高額であるため、顧客企業は導入代金をすぐに支払わず、リース取引を用います。システム導入会社にとっては、カーリースの場合の自動車メーカーと同じ立場であり、リース会社に販売したときに全額売り上げを計上できます。リース会社は、システム導入会社の系列リース会社や、それ以外の大手リース会社となることが通常です。それぞれ(3者)の思惑がイメージできると、リース取引の全体像がつかみやすくなりますね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。

イラスト:Ayumi



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