連載
» 2009年06月22日 00時00分 公開

特集:ITエンジニアを変えるオフィス(1):オフィスに不満をいうだけの立場から抜け出そう (1/2)

オフィスで働くすべての人にとって、オフィス環境は重要な要素である。オフィスとは企業にとって何なのか、社員にどのような影響を与えているのか、そしてオフィス環境に対して社員はどのようにかかわるべきなのかを考える。

[佐藤浩也,リンクプレイス]

 リンクプレイスはワークプレイスの構築と運営のコンサルティングを主な事業として活動している。その中で、さまざまな企業とそのワークプレイスに触れ、たくさんの経験を積ませてもらっている。今回はその蓄積を基に、筆を進めたい。

オフィスには何が求められているのか?

 ワークプレイスという言葉は定義があいまいなまま乱用されているが、当社においては、

 「<施設装備(オフィス環境)>と<情報通信(ICT環境)>と<運用>からなる仕組み」

と定義している。ワークプレイスを語るには、これらの要素を総合的にとらえて議論する必要がある。ここでは分かりやすい<施設装備(オフィス環境)>に重心を置いて話を進める。

 「オフィスがどんなにすてきでも、システムがどんなに立派でも、それ自体には価値がなく、それらを活用する社員がどのようにとらえ、どのように生かすかのみに価値がある」という考え方から、ワークプレイス関連のプロジェクトにおいては、主たる利用者である社員に対するアンケート調査の実施を強く勧めている。2002年から実施している当社オリジナルのアンケートである「WMS:ワークプレイスモチベーションサーベイ」のデータを基に考察してみたい。

 WMSにおいては、ワークプレイスを、

  • ファシリティ(ハード):スペース、レイアウトなどの目に見える要素
  • ファシリティ(ソフト):リアルコミュニケーション、アイデンティティなどの目に見えない要素
  • テクノロジ:情報通信
  • マネジメント:運用

に要素分解し(全16ファクタ)、それぞれに対する「仕事をするうえでの“重要度”」と「現状に対する“満足度”」を調査する手法を用いている。詳細な説明は省くが、7年弱、述べ381社(8万6606人)の調査データからいえるポイントは以下のとおりである。

  1. 「機能性(仕事がしやすいオフィス環境が提供されている)」のアップには、「レイアウト・家具」「スペース」を筆頭とする<ファシリティ(ハード)>の影響力が大きい
  2. 「好感度(自社のオフィスが好きである)」のアップには、「リアルコミュニケーション」「アイデンティティ(自社らしさ)」など<ファシリティ(ソフト)>が鍵を握っており、総合評価への影響力も大きい
  3. 施策や取り組みの利用者評価に反映されやすいのは、<ファシリティ(ソフト)><ファシリティ(ハード)><マネジメント><テクノロジ>の順である
  4. 「執務環境(安全性/清潔さ、空気環境、音環境、光環境)」「レイアウト・家具」「ペース」など、基本的要素に顕在化した不満があると、その上位にある課題に対する施策はほとんど意味を持たない

 3に関して、<テクノロジ>分野に関する施策は非常に難しい。例えば、PCスペックや回線スピードなどは強い不満が出やすく、改善された直後には満足度が上がるものの、しばらくするとそれが当たり前となり、さらに要望レベルが上がっていくという宿命を持っている。業務上必要なレベルの環境をいかに効率的、効果的に提供するかという課題を追い続ける必要がある。

 4はマズローの欲求段階説(生理→安全→親和→自我→自己実現)を裏付けるような内容である。ワークプレイスの総合評価を左右する“仲間との関係性”(親和→自我……)に取り組むためには、まず、生理→安全を押さえる必要がある。

 オフィスは、まず、そこで時間を過ごす環境として最低限の快適さが確保されていること(≒不快でないこと)、次に、仕事をするために必要な機能を有していることが求められる。そのうえで、企業としてプラスアルファを求めるとなると、そのポイントは“社員同士の相互影響”にほかならない。

 2と3で触れられているように、オフィスにおける社員同士のかかわり、つまり「リアルコミュニケーション」の効果は想像以上に大きい。組織として活動するメリットとして、当然、1+1を2より大きくする仕組みが要求される。その効果を発揮するための組織の素地づくりとして、社員同士が直接、顔と顔を合わせてコミュニケーションを取るという小さな積み重ねが極めて重要な役割を担っている。

 このような背景から、わたしたちはワークプレイス、特にオフィスに強く求められる機能として、「コミュニケーションプレイス」というとらえ方を重視している。これは、組織としての生産性を高めるためにも、構成員の精神面を支えるためにも、極めて重要な機能である。

エンジニアにとってのオフィス

 対象をエンジニア職に絞って、これらの考察を深めてみたい。

 一般にエンジニア職は在オフィス率、在席率が高いという特徴がある。このため、必然的にオフィスに対する要望は高くなる。特に、執務席の仕事のしやすさは個人の生産性に直結する要素が多いため、経営者としてはスペース効率の視点とのバランスの中で十分に検討する必要がある。

 ただし、スペース効率重視のオフィスが総合的にみると生産性を落とす結果に陥っている可能性も否定できない。一方で、社員としては仕事をするうえで十分な環境が提供されていることを「恵まれている」ととらえるスタンスを持ち合わせていることも見逃してはいけない。デスク、チェア、照明、空調、ドリンク、ネットワーク環境、さまざまなトラブル時の対応……。企業によってレベルの差こそあれ、ここまでの環境を個人で獲得することは容易ではない。組織に所属しているメリットの1つとして評価すべきであろう。

 また、エンジニア職にとっては、モードチェンジ(ON/OFFの切り替えなど)をサポートする機能の持つ意味が、ほかの職種以上に大きい。喫煙やドリンクをキッカケにリフレッシュをしたり、仲間と会話したりできる場があることが、トータルでの生産性を高める可能性が高い。

 エンジニアが多い企業のオフィス構築にあたっては、仮眠用スペースやマッサージチェアの導入をリクエストされるケースが少なくない。企業それぞれの考え方の違いが出やすいテーマであるが、ONのためのOFFを真剣に検討し、自社らしいユニークな仕掛けを設けると良い。この点でも、経営者は全体バランスの視点で生産性を検討する必要がある。

 エンジニア職の見逃せない特徴として、顧客先への常駐形態が挙げられる。常駐形態のスタッフが多い企業の方が、さまざまな組織課題を抱えている傾向が強い。前章で取り上げたオフィスにおける「リアルコミュニケーション」の効用を得られない状況に長期間置かれていることが、その背景にあるように思う。

 Web会議など、離れた場所をつなぐコミュニケーションツールの積極的活用や、一定期間ごとに自社オフィスに足を運んで仲間と交流する機会を意図的につくるなどの工夫が必要であろう。さまざまな工夫により、自社の「コミュニケーションプレイス」に身を置き、そのメリットを享受しているという実感を持たせることが重要である。

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