IT企業でうまくいく目標管理制度の運用法IT企業のための人事制度導入ノウハウ(8)(2/2 ページ)

» 2009年06月23日 00時00分 公開
[クレイア・コンサルティング]
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(1)部下との接点が少ない場合に部下の職務状況を把握する工夫

 勤務場所の制約などで部下との接点が少ない、上司自身がプレイングマネージャとして自分の仕事に没頭せざるを得ず、部下との接点を増やすことができないなどということは、多くの職場で起こっていることではないでしょうか。このような状況では、

a.部下が所属する組織やプロジェクトの上位者からの情報

b.本人からの情報

を集めて評価材料にするのが妥当です。

 その際のポイントとしては、他者や本人の評価をうのみにせず、具体的な成果につながる行動事実や最終成果物など、裏付けとなる事実の確認に重きを置くことが重要です。

a.部下が所属する組織やプロジェクトの上位者からの情報

  • プロジェクトごとに実施している品質評価の結果(プロマネが評価した各メンバーの成果物の品質など)があれば積極的に活用する

 ここではプロジェクトの上位者を、プロマネに限定して考えます。システム開発プロジェクトの場合、システムの特性や開発工程によっても異なるでしょうが、生産性、品質、納期遅延など、システム開発においてある程度確立している評価基準を用いて、SEが実施した作業や作成した成果物の評価を行っているでしょう。このようなプロジェクトの評価指標を、プロマネとの共通言語にすることができれば、部下の貢献をかなり具体的に把握することができます。

 また、プロジェクトの中では当たり前に求められている指標であるだけに、人事評価の参考材料として活用することは、本人にとっても納得できるものになるのではないでしょうか。加えて、受注貢献や作業の標準化、チームリーディングなどの定性的な貢献要素も、プロジェクト終了時(プロジェクト期間が長い場合は工程ごと)にプロマネから参考情報としてもらうことが必要です。

b.本人からの情報

 本人の主観が入らないような報告の仕方を徹底させることで、本人からの情報の信頼性を高めることが可能です。

  • 先週の目標に対しての実績が定量的/定性的にどうだったのか
  • その結果になった原因として個人の要因、組織内部の要因、外部の要因それぞれにどのようなものがあるか

といったポイントで毎週の報告を上げさせ、適宜上司が内容の妥当性を確認することで、評価材料としての妥当性を高めつつ、育成指導の材料としても役立てることができるでしょう。

(2)専門性の高い職務に従事している部下の貢献を評価する場合の工夫

 ITの世界では特に、上司と部下で専門性の高さに大きなギャップが生じる場合があります。職種が異なる場合はもちろんですが、職種が同じでも上司の現役時代とは仕様が違う場合も多いでしょう。

 (1)のような工夫で解決できない、つまり言葉の意味は分かるが妥当性の判断が難しい(高い専門性がないとそれがどんな難しさなのか、設定されている期限や目標水準が妥当なのか、目標達成のプロセスが妥当なのかが分からない)分野の評価の際は、その領域の専門性を保有した評価者の力を借りる必要があります。

 高度な専門性を持つ社員を集めて「技術評価委員会」を作り、専門的技術にかかわる評価の部分だけはこの評価委員会の結果を活用することが現実的な解となります。

 最終的に、上司は(1)のa.プロマネ(部下が所属するプロジェクト)からの情報、b.部下自身からの情報を踏まえて評価を実施し、技術的な専門領域については(2)の社内の専門家からの評価結果を活用することによって、多面的な視点で、かつ本人にも納得感のある評価を行うことができます。

III.【人事部門の立場】トップと現場を巻き込んで制度を浸透させる

 人事が、目標管理制度を浸透させて会社の業績向上へとつなげるための工夫です。

(1)トップの力を借りて現場の抵抗を打ち破る

 目標管理制度浸透を阻むさまざまな壁が存在する中でも、最も強い抵抗が現場の「いままでのやり方を変えたくない」というものでしょう。これを打ち破るには、トップの協力を得て、トップが主体的に現場を変えていくように人事部門が仕向けていくことが必要です。制度改革時の説明会や制度導入時の研修への参加など、タイミングを見計らってトップの思いを伝えていくことが重要です。

(2)マネジメントツールとしての効用を現場に納得させる

 トップからの働き掛けと同じくらい重要なのが、現場の巻き込みです。

 知らない間に自分の働き方や処遇の在り方を勝手に決められて、不満に思わない人はいないでしょう。目標管理の本来の考え方である「本人の自主性を引き出し、組織の革新を推進する」機能を重視するなら、評価や処遇に目を向けさせるのではなく、「この制度によってもっと自分の仕事がやりやすくなる」「もっとやりがいのある仕事ができる」と思ってもらう働き掛けができるかどうかが非常に重要です。社員を巻き込む具体的な手段としては、以下のような活用を行います。

  • 制度設計の段階から現場の社員にかかわってもらう
  • 社員を集めて制度に対する期待や懸念などを共有してもらい、意識を共有しつつ望ましい方向へ向ける場(「オフサイトミーティング」という)を設ける

 ただしこの場合、話し合いの方向が批判的な方へ流れていかないよう、うまくファシリテートすることが必要です。

(3)評価の側面からマネジメントスキルの向上を図る

 マネジメントツールとしての効用を訴えることと並行して、現場上司の目標管理制度運用に必要なスキルを高めるという視点も必要です。

 部下との接点の少なさ、専門性のギャップによって上司による評価が難しいというIT企業固有の課題を解決するために、企業の中で目標管理や評価における社内の統一的な制度運用ルールを正しく認識・理解してもらい、評価の前提となる価値判断基準をそろえる努力が必要となります。

 具体的には管理職を対象とした評価者研修を定期的に開催し、実際の部下の情報を研修の中で活用しながら、具体的な評価の視点(どのような行動が望ましいか、それらの行動をどの項目で評価するか、最終的に関心が少ない評価をどうやって決めるか)を身に付けることになります。

 これらの施策を推進し、トップ、現場、関係部門を巻き込みながら制度を浸透させ、組織変革を主導していくことこそ、人事部門に最も求められていることではないでしょうか。

コラム チーム評価は個人に不公平?

 ある企業では、年に1回、会社業績への多大な貢献や革新的技術の商用展開の実現などの優秀プロジェクトに対して表彰を行う制度を実施しています。

 多くのトラブルに見舞われつつも数千万円の利益を稼ぎ出して表彰を受けた、ある官公庁系のプロジェクトがありました。実質的には困難な顧客調整を推進したプロマネのA氏と、顧客からの高い信頼性要求に応えるシステム全体のデザインを行ったB氏の貢献によって、プロジェクトを成功裏に終えられたのは誰の目にも明らかでした。

 それでもその2人が脚光を浴びることはなく、表彰はあくまでプロジェクトチーム全体に与えられました。ほとんどプロジェクトに関与していないようなメンバーも含めてチーム全体を表彰することは、果たして公平な評価といえるでしょうか?

 システム開発におけるプロジェクトでは、メンバーがスタンドプレーに走らずそれぞれ自分の役割を果たし、時に絶妙な連携を行うことでさまざまなリスクを回避し、問題を解決していくことが最も重要です。 チーム評価だけを取ってみれば公平とはいえないでしょうが、もし毎期の目標管理制度の中で、それぞれの役割に基づいて個人の成果が適切に評価されているうえで実施するのであれば、チーム評価は目標管理制度における結果主義的な色合いが強くなりすぎることを抑制しつつ、個々のメンバーのチームへの貢献を促すための有効な手段となるのではないでしょうか。



 評価制度2回目として、IT企業で目標管理制度を活用するためのポイントについて解説しました。

 次回は報酬制度の設計・構築の1回目です。評価制度と同様に、前半と後半に分けて解説を行います。

筆者紹介

クレイア・コンサルティング

クライアントの企業価値向上・経営革新・持続的な成長を支援する組織・人事を専門領域とするコンサルティングファーム。アーサー・アンダーセンからスピンオフした組織・人事チームの主力メンバーにより設立。米国型合理主義を熟知したうえで、「日本企業の固有な体質」に合わせた独自のコンサルティングを推進している。



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