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» 2009年07月24日 00時00分 公開

「教えない」というIT人材育成法「人材・組織×IT」戦略カンファレンス レポート

[金武明日香,@IT]

 パソナテックは7月22日、新丸の内コンファレンススクエアで「グローバル時代を生き抜く『人材・組織×IT』戦略カンファレンス」を開催した。

パソナテック 加藤直樹氏

 カンファレンスは、組織戦略へのIT活用、ITエンジニアの人材マネジメントをテーマに、3部構成で展開した。第1部と2部では、マネジメントや情報管理担当者が、ITの活用法、エンジニア労働環境作り、人材のパフォーマンスの最大化などをテーマに講演を行った。第3部はパネルディスカッション。パネリストは、サイボウズ開発本部 開発部長の佐藤学氏、楽天取締役 常務執行役員で開発部の役員を務める杉原章郎氏、アイ・ビー・エム・ビジネスコンサルティングサービスの倉持快夫氏の3名で、パソナテック取締役の加藤直樹氏がモデレータを務めた。パネリストたちは現場、経営、コンサルティングそれぞれの立場から「人材・組織×IT」をテーマに議論を交わした。

仕事を因数分解する

楽天 杉原章郎氏

 ディスカッションは「コスト削減」というキーワードから始まった。杉原氏は「20億円のコスト削減」という目標を達成するために「仕事の因数分解」を行ったという。仕事の因数分解とは、すなわち必要な工数や時間などを最小単位まで細分化するということ。素数のレベルにまで分解した仕事の中から、不要な会議や待機時間を削って、最終的に人数を減らさずにコスト削減を達成したという。倉持氏は「すばらしい。コンサルティングでも同じようにやっている」と、楽天の施策を高く評価した。しかし、この方法は2年連続で同じ効果は出せないと分析。「削った後はスタート地点や前提を変えるしかない。どうやって手を抜くかを真剣に考えないと、いつか駄目になる時がくる」とコメントした。

 「人員削減は行っていないのか」という問いかけに、佐藤氏は「新製品のオーダーがあるので、人を減らす時期ではない」と答えた。人員を削減するのではなく、グローバル拠点を使って24時間仕事ができる状態にして、納期の大幅な圧縮を考えているという。杉原氏も「人員削減より先にやることがある」と、人員削減を行わない姿勢を見せた。

 「プロジェクトマネジメント」について、佐藤氏は「やりたいという主体的な気持ちを大事にする」と述べた。サイボウズではヒエラルキーがなく、3年目の技術者がプロジェクトマネージャになり、ベテランの人間が下について仕事をする場合もあるという。「やりたいという気持ちがあっても、誰もができることではないのでは」という質問に対しては「社員は“一芸に秀でる”べしというのが、経営理念としてある。1本筋がしっかり通っていれば、皆ついていくと思う」と語った。

 杉原氏の施策は「情報共有の徹底化」だ。まず同時並行しているプロジェクトのプロセスやツールを統一し、次にプロジェクトの進捗具合や従業員の仕事内容を日報などで可視化させて、全員が全プロジェクトの情報を閲覧できるようにしているという。

 倉持氏は、プロジェクトマネジメントは小難しいものではなく単なる「ものの進め方」だと説明した。「PMBOKなどのプロジェクトマネジメントスキルは、どの仕事でも使えるのでしっかりと勉強した方がいい」とアドバイスした。「PMBOKは日常生活でも使える。妻との合意形成でもPMBOKは使える」と語り、会場の笑いを誘った。

教えないという人材育成法

サイボウズ 佐藤学氏

 「人材育成」のテーマでは、エンジニアが獲得したい技術と会社が求める技術にミスマッチがあると、IT業界が抱える問題点が指摘された。人材育成の方法は、という質問に、佐藤氏と杉原氏は共に「社員が自分で成長するような場所を整える」ことだと答えた。「社員が成長しないことは、サービスが成長しないこと。つまり会社が成長しないことだという単純な方程式だ。育成方法よりも、能動性を喚起するための環境作りを行っている」と杉原氏。佐藤氏も、人材育成と呼ぶようなことはしていないという。「機材は好きなものを提供し、本も買い放題の環境を整えているが、一切教えることはない。だから技術者たちは皆ずっと勉強している」と語った。

アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス 倉持快夫氏 アイ・ビー・エムビジネスコンサルティングサービス 倉持快夫氏

 エンジニアにスキルを身に付けてほしいなら、マネージャ層は「必要だから勉強しなくては」と彼らに思わせることが大事だと、倉持氏は強調した。技術を身に付けてほしいと思っても、必ずしもエンジニア個人の意にそぐわない場合はどうするのだろうか。「わたしはメンバーをよく騙す」と倉持氏は答えた。例えば、客先に行きたがらない技術者には、客先でのコミュニケーションスキルの獲得は将来役に立つと説き伏せるという。「本人がそれなりに納得して行動することが大事。終わった後に、騙しちゃったと打ち明ける」と、モチベーション・マネジメントの秘訣を語った。

 社員のモチベーションを上げるための工夫はほかにもある。楽天では社員食堂を無料にして、日常的なコミュニケーションの場を作っている。サイボウズでは「部活動」が盛んだ。「沖縄部」という部活動では、沖縄料理屋に行くと半額が会社から出る。そのため、他部署間の交流が促進されているという。倉持氏は「日常的にコミュニケーションする場所、または飲み会のような非定型コミュニケーションの場を作ることはとても大事なこと」と両者の意見を引き受けてまとめた。

経営層と現場のギャップを克服するためには

 「経営層と現場のギャップ」の克服について、佐藤氏は「理想の共有」を挙げた。「社長との雑談時間が設置されていて、雑談時間に登録すると社長にごちそうしてもらえる。雑談をしながら意識のすりあわせを行っている」。杉原氏は、現場の状態をリアルタイムで数値化し、ありのままを見せることで、ギャップを軽減させているという。「経営陣とのコミュニケーションには、京都人の真似をするといい」と倉持氏。京都人は3回かけて少しずつ断るという例を提示し、経営陣とのコミュニケーションでも同じように、少しずつプロジェクトの状況を報告することで、意識のギャップを克服できると解説した。

 「人材の活用」のために、杉原氏は「人材のスキルデータベース作成」を行っているという。「効率化を図るためには、仕事を属人化しないことが大事。この人にしかできないという仕事をなくすことによって、いつでも誰かができる状況にする」と語った。一方で「誰にでもできる仕事にすると、社員のプライドが保てるのかどうか」と懸念も表明した。佐藤氏は「仕事を納得してやってもらうのではない。共感してやってもらう」ことが大事だと述べた。なぜこの製品を作るのかということを何度も説明して「共感」してもらわないと、「納得」だけではうまくいかなくなるという。加藤氏は「仕事は、人がやるものだから、共感やプライドなどへの配慮が大事ということ」とまとめた。

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