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» 2009年10月15日 00時00分 公開

IT業界 転職市場最前線(6):SI/NIに復調の兆し? 転職市場は底を脱したか

平成の大不況の下、IT業界の転職市場は冷え込んでいる。だが、すべての企業が採用をやめたわけではなく、いつまでも採用が止まり続けるわけでもない。転職市場の動向を追い、来るべきときに備えよう。

[ワークポート]

 前回、「IT業界の転職市場は確実に回復に向かっている」とお伝えしたが、9月に入ってもその傾向は変わらず、求人ニーズは緩やかに上昇している。回復が遅れていたSIer(システムインテグレータ)やNIer(ネットワークインテグレータ)の求人や、事務系職種の求人が増えはじめ、人材紹介・求人媒体ともに底を脱した感がある。

 しかし、各社とも採用に掛ける予算は依然として低い。コストを抑えた採用を実現したい企業側の努力がうかがえる一方で、人材系企業にとっては厳しい状況が続いている。また、現在の状況は自動車販売支援政策や政権交代といった経済刺激要素による一時的な回復だとする意見もあり、年末に向けての予測は依然として不透明だ。

【転職市場】慎重姿勢は続くものの、各分野で求人ニーズが回復

 急速な市場の好転は見られないものの、人材系各社が実感を得られる程度には、着実に求人ニーズが上向いている。

 好調なのは引き続き「Web/モバイル(自社サービス)業界」「ゲーム業界」。そのほか、外資系企業でもニーズの高まりが見られた。回復の遅れが懸念される「SI/NI業界」では、積極的な募集ではないものの、少しずつ採用を再開する動きがある。金融系システム開発分野では一定の求人数があり、採用意欲もあるが、実際に採用に至っているケースは少ないようだ。8月から引き続き「20代後半から30代前半」の中堅層を求める企業が多く、人事や経理などの事務専門職でも新たな求人が発生した。

 注目業界の動向について、もう少し詳しく見ていこう。

Web/モバイル業界

 自社サービスを事業軸とするWeb/モバイル系企業の採用ニーズは、依然として高い水準を保っている。中でも情報系/EC系サイトの運営企業では、年末商戦に向けたリニューアルや新サービスの開発のために人員を求めており、新規の急募求人が目立った。

 職種別に見ると、Webディレクターとプロデューサー職の求人数が多く、「手を動かせるディレクター(プロデューサー)」を求める傾向が強い。管理・折衝経験だけでなく、デザインやコーディングの実務経験を経てディレクターやプロデューサーへとキャリアアップしてきた人材が選考を通過しやすいようだ。

 クリエイター職種ほどではないが、Web系エンジニアも他業種と比較すると採用ニーズが高い。LAMP環境での開発経験者を中心に、書類選考通過率が上昇した。

ゲーム業界

 9月末、「GAMEは、元気です」をテーマに『東京ゲームショウ2009』が開催された。クリスマス商戦に向けて息を巻くゲーム業界の採用意欲は高い。ゲームの中でもモバイル・オンライン・カジュアルゲームなどのネットワーク系ゲームが好調であり、スキルではFlashが一番人気となっている。コンシューマ機向けのパッケージゲームでは、次世代機(Xbox360、PS3など)に採用ニーズが集中している一方、次世代機向けゲームの開発経験者は市場全体で不足感がある。そのため、少しでも経験のあるエンジニアやクリエイターの評価が高い。

医療/製薬業界

 医療/製薬業界からの求人ニーズが加速している。医療系のデータベースエンジニアは、他業種・他分野ではニーズの少ないWindows系スキルが優遇されることもあり、求職者からの人気が高い。ただし、医療/製薬業界での経験や知識を求められるケースがほとんど。同じエンジニアでも異業種からの転職は難しいようだ。

SI/NI業界

 自社サービスや自社プロダクトを抱える企業からの採用ニーズが高まっている一方で、SI/NIの動向は鈍い。しかし、9月下旬ごろからSI/NI業界にも復調の兆しが見え始めた。

 大手を中心に採用を再開する企業が現れている。とはいえ、昨年までと比較すると圧倒的に求人数が少なく、低迷が続いていることに変わりはない。求人は再開したものの採用決定には慎重になっており、面接回数の増加や、決裁までに時間を要するケースが目立つ。

表1 業種/業態別にみる採用傾向 表1 業種/業態別にみる採用傾向

【求職者】受託案件の復活で転職活動を中止する人も

 今年3〜4月と比べると落ち着きを見せているものの、依然として会社都合/希望退職制度などで転職を余儀なくされている求職者が多い。しかし、一方では「転職活動を中止」するケースも見られるようになった。つまり、新しいプロジェクトの決定や、終了予定であった業務の継続が決まったことによって、現職に留まる人が増えているのだ。こうした傾向は、景気の好転を見据えた新しいIT投資を予感させる。

 また、積極的な転職活動を行う求職者からは、自社製品や自社サービスを持つ事業会社の人気が高い。昨今の景況感から、景気に左右されやすい「受託」という事業形態を不安視する人が多いのだろう。

【求人媒体】採用企業は独自の戦略で採用手法の確立をねらう

 企業の求人広告掲載にかける費用は下落している。特に8月と9月は大きく下落し、7月に比べて約30%減となった。人材へのニーズはあるものの、「欠員補充」が大半を占め、必要最低限の人員確保に留まる企業が多い。求める人材のピンポイント化が進む中、採用したいターゲット層によって求人広告の掲載プランを使い分ける企業が増えている。

 高いスキルを持った経験豊富な人材を求める企業では、少ないターゲット層を逃がさないため、求人広告の露出を増やす手法を採用している。検索結果ページでの上位表示や、求人媒体トップページへの露出がその筆頭である。

 一方、安価だが露出の少ない下位プランでは、応募条件を絞るのではなく、間口を広げることで閲覧者を確実に応募につなげている。また、安価・短期の掲載プランを繰り返し利用することによって「新着求人情報」ページへの掲載回数を増やし、安定した応募数の確保に成功するケースも見受けられる。

 また、応募者の確保よりも、スカウトメールによる直接的な呼び込みを有効と考える企業が増えている。「職務経歴書を読み、本当にマッチする人材にのみスカウトメールを送る。それ以外の応募者からは、なかなか求める人材に巡り合えない」という人事担当者の意見が多い。

【人材紹介】中規模人材紹介会社は生き残り策を模索

 転職市場における求人ニーズは回復傾向にあるものの、決定料率(成果報酬)の下落や、採用企業との契約打ち切りなどによって、多くの人材紹介会社が打撃を受けている。

 凍結していた採用活動を再開する企業は増加しているが、人材紹介会社を厳選し、利用を縮小するケースが目立つ。その結果、「取り扱い求人数の更なる減少」に追い込まれている人材紹介会社が多い。

 リーマン・ショックによる市場の急速な落ち込みから1年が経ち、ついに体力の限界をむかえる企業が少なくないようだ。中規模の人材紹介会社においてはその傾向がより顕著に現れている。従業員数5人程度の小規模な人材会社では、企業や業界を限定することでリスクを軽減し、一定の成果をあげているようである。

 生き残りの道を模索する人材紹介会社は「企業のニーズにマッチした人材の獲得」に力を入れるだけでなく、採用ニーズの高い業界に目を向け、新たな市場の開拓も視野に入れるべき時期に差し掛かっている。

【新卒採用】出足は鈍いが、2011年度新卒採用ニーズは回復傾向

 2011年度新卒向け大手求人媒体の「グランドオープン」にあわせ、一時的に活性化の様相を見せた新卒市場。しかし、10月のグランドオープンに掲載を見送った企業からは、大きな動きが見られなかった。

 新卒採用の実施は決定しているものの、採用人数や予算が決定していないなど、積極的な採用活動に結びついている企業は少ない。「(買い手市場といわれる)今年の新卒市場を見極めてから判断したい」とする意見は根強い。学生の確保に向けて早期に募集を掛けたい人事担当者の意図とは反して、経営層が慎重な姿勢を崩さず、稟議に時間が掛かるケースも増えている。

 一方で、2010年度新卒採用が終了していないために、2011年度新卒採用に着手できていない企業がある。来年3月に卒業を迎える学生の多くが就職活動を続ける中、少ない秋採用枠に応募が集中している状態であるにもかかわらず、思うような人材の獲得には苦戦を強いられている。

 例年と比較して、2011年度入社の新卒採用人数は明らかに減少している。しかし、9月以降、2011年度入社の新卒採用実施を決定する企業が増えている。こうした企業の本格的な採用活動の開始は、早くても年末、または年明け以降になる見込みだ。


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