連載
» 2009年11月06日 00時00分 公開

海外から見た! ニッポン人エンジニア(1):IBM中国 役員「良いエンジニアは国境を越えられる」 (2/2)

[小平達也,@IT]
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中国人エンジニアのマネジメントにおけるポイントは「上司力」

小平 GIE、Smarter PlanetというIBMのビジョンに基づき、佐々木さんご自身は中国で日本向けグローバル・デリバリーの責任者を務めていらっしゃいますが、実際にマネジメントという立場で中国人エンジニアとかかわってみての感想はいかがですか。

佐々木 率直なところ、マネージャとして仕事がしやすいですね。中国人のエンジニアは優秀でモチベーションが高く、何といっても自分のやりたいことや不満点をきちんと言葉にしていう、という点で分かりやすいのです。

小平 以前から中国におけるIBMのブランドイメージは高いといわれていますが(参考:「優秀な人材に見向きもされない日本企業」)、理工系人材が多く輩出されるロケーションで拠点展開をするなど、そもそも入口の段階で良い人材が採用できているようですね。入社後の活用では、実力があり、付き合うとメリットある上司であればマネジメントは問題ないでしょうね。逆にいえば、日本では「上司という地位に就いていれば、当然ながら上司という扱いを受ける」というのが一般的であるのに対し、中国では——もっともこれは中国に限らず、アメリカやほかの新興国でもこの傾向はありますが——「上司としての地位に就くだけの実力があることを部下に示し、それが部下によって認められる」ことにより初めて本当の意味での上司・部下という関係が成立し、仕事がスムーズに進むという違いがあります。これは日本国内の職場で外国人社員を受け入れる場合も同じなのですが、「だまって上司の背中を見て覚えろ」というような暗黙の掟は通用しないので、上司には外国人のみならず女性やシニアなど属性や発想の異なるメンバーの方向性をそれぞれ把握し、指示や調整・コーチングを通じ同じ方向に束ねていくことが求められます。上司となる人間は自らが試行錯誤をしながら「多様性の束ね方」を身に付けなければならないというところに大変さがあるわけですが、これができる人間は「上司力がある」と尊敬・信頼を受け、できない人間はプロジェクトマネジメントの前にチームマネジメントの段階から火を吹きはじめるなど、同じ会社内においても「上司力格差」が相当付いています。


佐々木 そうですね。「上司力」については説明能力の高さも求められる能力の1つです。中国人エンジニアと日々接していて特に感じることは「評価への強い欲求」があることです。マネージャはこの要求に対する説明責任が求められます。どうしてこの処遇なのか、IBMにおけるあなたのキャリア機会にはどのようなものがあるか、などについては、きちんと説明していくことが必要になります。

良いエンジニアは国境を越えられる

小平 佐々木さんはIBMというアメリカ発のグローバル企業の日本法人で長年働き、現在は中国でマネジメントをしていますが、今後日本人エンジニアに求められる姿勢、スタンスというのはどのようなものだと思いますか。

佐々木 実は「日本企業」「日本人ITエンジニア」などの発問自体が恐らく世界的に見ると特殊なものではないかと思います。ITはそもそもグローバル展開と親和性の高いものであり、当然のことながらそこで働くITエンジニアはほかの職種と比べ、もともとグローバルな存在なのです。わたしの経験からすると「良いエンジニアは国境を越えられる」ということです。もちろん、日本国内に限定して仕事をしてもいいのですが、ITエンジニアの世界では「素晴らしいものは素晴らしい」「プロはプロらしい」という評価をグローバルに受けやすいです。その意味で「日本人ITエンジニア」という呼び方には少し奇妙な印象を受けます。むしろ国籍など関係なく、究極的に個人の能力とそれに基づくチームワークが求められるのではないでしょうか。そしてビジネスを構成するバリューチェーンの下流工程に甘んじることなく、より付加価値の高い上流工程を目指していくというスタンスが求められると思います。

 いまのITエンジニアは収集できる情報の量・質など非常に恵まれた環境にいますので、まずはそれをうまく使いこなすことです。孫子の兵法にある、「彼を知り己を知れば百戦して危うからず」ではないですが自分と、自分の所属している組織・業界、社会の動向などをきちんと見極めてキャリア形成をしていくことが大切なのではないでしょうか。

●対談後記●

 佐々木さんはIBMというグローバル企業の中国法人で、中国人社員のマネジメントする女性エグゼクティブであり、多様性を体現されているような方でした。

 「日本企業」「日本人ITエンジニア」という言葉が世界的にみると特殊である、というのはまったく同感です。企業にも自動車のような輸出型産業があれば、日用品や食品のような現地生産・現地消費型もあり、そのグローバル展開の形は様々です。一言で「日本企業は……」といい切ってしまうことは、もはや当てはまりません。これは日本人ITエンジニアも同様であり、企業として、ITエンジニアとして「日本企業」「日本人ITエンジニア」というような一般化された名称を超えた、個別の優良な企業X・人材Yという固有名詞で考えなければならない時代に入っていると改めて思いました。本連載のタイトルは「海外から見た! ニッポン人エンジニア」ですが、この点は頭に置きながら今後も進めていきたいと思います。



■次回予告

 次回は、11月25日に開催する「東北大学ASIST 国際フォーラム —IT企業のグローバル化と留学生高度人材—」について取り上げる予定です。クララオンライン社長・CEO 家本賢太郎氏はじめ、日本を含めアジア10カ国の大学からIT関連学科の教員が参加し、アジアでのIT産業活性化を担う人材像の共有と、その育成のための国際的な大学連携のあり方、日本のIT企業のアジア展開における留学生活用方法について議論します。当日は筆者が全体のモデレーターを務めます。

筆者プロフィール

小平達也(こだいらたつや)

ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長

  • 厚生労働省 企業における高度外国人材活用促進事業 調査検討委員会委員
  • 国立大学法人東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター コーディネーター 養成プログラム アドバイザー
  • 早稲田大学商学部学術研究院 日中ビジネス推進フォーラム 特別講師
  • 武蔵野大学大学院ビジネス日本語専攻 非常勤講師
  • 日本貿易振興機構(ジェトロ)BJTビジネス日本語能力テスト外部化検討委員会委(2007年度)

 大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。



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