年末恒例イベント「年末調整」を理解するお茶でも飲みながら会計入門(24)

意外と知られていない会計の知識。元ITエンジニアの吉田延史氏が、会計用語や事象をシンプルに解説します。お仕事の合間や、ティータイムなど、すき間時間を利用して会計を気軽に学んでいただければと思います。

» 2009年11月26日 00時00分 公開
[吉田延史日本公認会計士協会準会員]

本連載の趣旨について、詳しくは「ITエンジニアになぜ会計は必要なのか」をご覧ください。


今回のテーマ:年末調整

 「国民の納税者としての意識を高め、より強固な民主主義を構築していくための第一歩として、確定申告を原則とし、給与所得者については年末調整も選択できるという制度を導入する」(「2008年民主党税制抜本改革アクションプログラム」より抜粋)。

 上記は、民主党の税制についての意見書ですが、年末調整を選択性にするべきとしています。年末調整といえば、企業にお勤めの多くの方は、毎年この時期になると、恒例の申請書が人事部から配布され、それに必要事項を記入し提出されますよね。すると、後日、多少の臨時収入がもらえる(よく「返ってくる」といわれますね)といったイメージを持っておられると思います。では、どういった理由により年末調整を行い、臨時収入が得られるのでしょうか。今回は、年末調整について解説します。

【1】年末調整は所得税と関係している

 年末調整とは所得税の調整を行うものです。まずは所得税について簡単に解説します。

 所得税は、個人の所得に対して国が課税する税金であり、国税の中核をなす重要な税金です。1〜12月までの1年間の所得に対して、5〜40%の税率を掛けて算出した金額を国に納付します。所得が少ないうちは5%の税率ですが、高額所得者になるほど税率が上がって、最高40%まで課税されます。

 国に納付すると書きましたが、実際に税務署に申告し、お金を納付したり、税務署に振り込みを行ったりしたことのある人はごくまれです。企業が個人に代わって所得税を納めてくれているからです。この、代行して納付してくれる制度を源泉徴収制度と呼びます。源泉徴収は、法律によって、企業に実施が義務付けられています。具体的には、毎月の給与の額などを税額表に当てはめて、税額を算出し、給与から控除します(第23回「知っておいて損はない! 給与明細の見方」でも控除項目として登場しましたね)。

【2】年末調整は源泉徴収の精算

 毎月の源泉徴収では、給与の額などから税額表を用いて徴収額を算出しますが、所得税の計算には、より複雑な計算が必要です。例えば、子どもが生まれたら扶養家族が増えますが、所得税には扶養家族の人数に応じ、家計を考慮して税金を少なくしてくれる扶養控除という仕組みがあります。12月に子どもが生まれると、扶養家族が増えて、年間ベースで算出する所得税は減少します。しかし、その年の年初には、家族が増えることは誰にも確証できませんから、1〜11月までの源泉徴収では、年間ベースの所得税額より多く徴収されていたことになります。

 つまり、その年1年間で起こった変化を織り込んで正確に計算した所得税額と、毎月源泉徴収した金額の合計には通常ずれが生じます。そのずれを調整するプロセスが年末調整なのです。

 これは、忘年会において参加者が多い場合に、幹事が会費をあらかじめ徴収するのと似ています。参加者が多いと支払いが高額になり、飲みの席で徴収していては、支払いが大変になってしまうため、あらかじめ徴収することがあります。わたしも幹事を経験したことがあるのでよく分かるのですが、これがなかなか想定どおりの金額になりません。コース料理を取っていても、別のメニューを頼む人がいたり、急遽来なくなる人がいたりするため、精算してみると支払額と最初にもらった金額の合計は、ずれてしまうものです。

 年末調整において、国はさしずめ忘年会の幹事となります。大昔に比べると源泉徴収の精度はかなり上がりましたが、やはり想定どおりの金額にはならず、年末調整でずれを調整します。ただし、実際に年末調整の事務作業を行うのは国ではなく企業の給与計算担当者です。

【キーワード】 源泉徴収

毎月の給与支払額などから、年間に発生する所得税額を想定し、あらかじめ徴収する制度のこと。想定どおりの金額になることはほとんどないため、年末になると、給与計算担当者が、毎月の源泉徴収の合計額と年間の所得税額のずれを精算(年末調整と呼ばれる)する。


 源泉徴収は通常年税額より若干高い金額で行われるため、年末調整では大半の人が払いすぎた所得税の還付を受けます。ただし、精算の結果、納税額に不足が出る場合もあり、年末調整で追加の納付が必要になることもあります。

 年末調整をする際には、所得税で控除を受ける扶養控除、各保険料控除などの年末時点の最新個人データが必要になります。そのため、年末近くになると各種控除項目に関する申請書を各自が記入することになります。給与所得のほかに一定額以上の講演料収入や副業収入のある人は、年末調整の後(翌年2月中旬〜3月中旬ごろ)に、それらを加味した所得により税額計算を自ら実施しなければいけません(確定申告と呼びます)。確定申告を行うと、個人の納税意識が高まることから、民主党は現在の年末調整制度を選択制に変更し、原則すべての人が確定申告を行う制度を取ることを提言しています。

 年末調整は給与計算担当者にとってかなり大変な作業です。たいてい12月の給与や賞与に調整額を加減算しますので、時間との戦いです。また、ほとんどすべての従業員が対象となり、1人ひとり取れる控除などが違ってきますし、年末調整の意義を分かっている従業員ばかりではなく、なかなか協力を得られないこともあるようです。わたしも前職では恒例の申請書の提出が遅い方でした……。忙しい中でも、できるだけ人事部門に協力してあげるのがいいですね。それではまた。

筆者紹介

吉田延史(よしだのぶふみ)

京都生まれ。京都大学理学部卒業後、コンピュータの世界に興味を持ち、オービックにネットワークエンジニアとして入社。その後、公認会計士を志し同社を退社。2007年、会計士試験合格。仰星監査法人に入所し現在に至る。共著に「会社経理実務辞典」(日本実業出版社)がある。

イラスト:Ayumi



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