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» 2009年12月14日 00時00分 公開

IT業界 転職市場最前線(8):業種によって求められる人財像に顕著な違いあり

平成の大不況の下、IT業界の転職市場は冷え込んでいる。だが、すべての企業が採用をやめたわけではなく、いつまでも採用が止まり続けるわけでもない。転職市場の動向を追い、来るべきときに備えよう。

[ワークポート]

 世界的な不況で幕を開けた2009年。14年ぶりとなる円高、デフレ、日本版サブプライム問題など、日本経済への危機感が高まる中、転職を希望する多くの人にとって厳しい1年となった。

 しかし、年末を間近に控え、IT業界の採用ニーズは総じて回復へと向かっている。

 これまで採用活動を停止していた企業の採用再開が相次いでいる。一方で、不況下も堅調な採用活動を続けてきた企業では、選考ハードルの上昇や、採用枠の縮小など、採用活動に落ち着きが見られるようになった。

 11月の転職市場の実情を、IT系の業界別に見ていこう。

インターネット/Web業界:採用意欲に落ち着きが見え始める

 さまざまな業界・業種の企業が採用活動を停止する中、インターネット/Web業界では「自社サービスや自社サイトを運営する企業(BtoC)」が堅調な採用を続けてきた。

 しかし11月以降、その採用意欲に落ち着きが見え始めた。絶好の買い手市場であった夏〜秋ごろに積極的な採用を行ったことにより、当面の採用ニーズは充足に向かっているようだ。採用(募集)停止には至らないまでも、選考ハードルを引き上げる企業が増えている。

 一方で、既存サービスの拡大や欠員補充を目的とした募集だけでなく、新たな収益源としてECサイト、コミュニティサイト事業へ新規参入を始める企業の増加により、新サービス(サイト)立ち上げ要員の募集が多く見られた。制作会社やWebインテグレータでも、採用活動を再開する企業が現れ始めている。

 SE/プログラマ職では、特にLAMP(LAPP)環境による開発経験者を求める企業が多い。また、ソーシャルアプリケーションの開発を主目的とする求人が増加した。

 デザイナー職では、他職種と比較して選考スピードの速さが特徴だ。「○月○日までに入社できる人」という条件が付されるなど、緊急性の高い案件が多く、1回の面接で採用を決定する企業が珍しくない。デザイナー志望の求職者は、新規の求人情報をいち早くキャッチすることが転職成功の鍵といえるだろう。

インターネット/Web業界の特徴

 ○ BtoCサイト運営企業から安定した求人ニーズ
 ○ ソーシャルアプリ分野での新たな採用ニーズに期待
 △ 新事業立ち上げ要員を求める企業が増加するも、選考水準は高い
 △ デザイナー職で「急募」求人が増加
 × 人材の充足により選考ハードルの上昇が見られる

【凡例】
 ○:良い材料
 △:今後に期待/一部の人には好材料
 ×:悪い材料


モバイル業界:モバイルSEOコンサルタントとモバイルデザイナーが不足

 モバイル業界では、モバイル特有の開発・運用ノウハウを身に付けている「業界経験者の中途採用」が活発だ。

 モバゲータウン(DeNA)やGREE(グリー)など、モバイルゲーム事業を展開する企業は引き続き採用意欲が高い。特に「20代の優秀なエンジニア」の採用に積極的だ。インデックス、サイバード、ドワンゴなどのモバイルコンテンツプロバイダからは安定した求人ニーズがあるものの、「複数名採用」の求人は減少し、「1名〜若干名の募集」が増えている。このため、以前と比較すると倍率が高騰している。

 モバイル業界において、企業側のニーズに対して応募者が少ないのは「モバイルSEOコンサルタント」と「モバイルデザイナー」である。モバイルにおけるSEOは新興分野のため、業界全体でも経験者が少なく、企業側が採用に苦戦している。表現方法に限界があるモバイルデザイナーは求職者からの人気が低く、狙い目のポジションといえる。

モバイル業界の特徴

 ○ モバイルゲーム分野で若手エンジニアを求める声が高い
 ○ iPhoneアプリ開発者の新規求人が発生
 ○ モバイルSEOコンサルタント、モバイルデザイナー職が狙い目
 × 若干名採用の企業が多く、倍率の高騰が続いている

システム業界(SIer/NIer):プログラマ、若年層は苦戦続く

 採用ニーズの回復が遅れていたシステム業界だが、1次請けのSIer(システムインテグレータ)ではPL/PM(プロジェクトリーダー/プロジェクトマネージャ)職やマネジメント経験者を中心に新規求人が増えている。2次請け、3次請けのSIerにおいても、徐々にではあるが求人ニーズが高まっているようだ。特に銀行、損保、クレジット関連を中心にオープン系/汎用系エンジニアの募集は回復傾向にある。

 ただし、20代後半から30代半ばのSE/PL/PMクラスに採用ニーズが集中しており、育成の必要な若年層やプログラマの採用には消極的だ。アサインできる案件が確保できるまで内定を見合わせる企業が多く、転職活動の長期化にもつながっている。業務知識が決め手となっているため、これまで経験してきたプロジェクトからどのような業務知識を得たかをしっかりとアピールすることが重要だ。

 NIer(ネットワークインテグレータ)ではサーバエンジニアの需要が伸びてきている一方、ネットワークエンジニアの求人は11月も低調が続いている。また、ネットワーク、サーバの設計や構築だけではなく、マネジメント経験やプログラミングスキルを同時に求める求人が増加している。インフラ業界はマルチな経験や能力を求める傾向にあるといえるだろう。

SIerの特徴

 ○ 金融/医療系SEは採用意欲が衰えず
 △ 10月以降、1次請けSIerで採用ニーズが回復傾向
 △ 特定の業界知識が豊富なPL/PMに需要が集中
 × プログラマ、若年層は苦戦が続く
 × 2次請け、3次請けSIerは回復の遅れが懸念される
 × アサインできる案件の有無が、採用・不採用の決め手

NIerの特徴

 △ サーバエンジニアは徐々に新規求人が発生
 △ 「仮想化」「クラウド」が新たなキーワードに
 × 採用ニーズは下げ止まるも、回復には至らず
 × プログラミングスキルなど、マルチな技術が求められる

ゲーム業界:ソーシャルアプリやiPhoneアプリに注目

 2009年のゲーム業界は、順調に業績を伸ばす企業がある一方で、事業の縮小・撤退を決める企業が相次ぐなど、大きく明暗を分ける結果となった。しかし、ゲーム業界全体としては安定した採用ニーズを維持しており、11月以降も求人数の増加が見られた。

 パブリッシャー企業よりもデベロッパー企業からの新規求人が目立つ。次世代機向けゲーム開発経験者の獲得には苦戦している企業が多く、採用ニーズが高まっている。

 11月以降、特にニーズが高まっているのがゲームプログラマであり、他職種と比較しても新規求人数が多かった。WiiやPS3、XBOX360などのゲーム開発経験者、ツール開発経験者の積極的な募集が続いている。

 また、大手ゲームメーカーからの人材流出によって、選考ハードルが上昇していることは前回もお伝えしたとおりだが、そうした「大手メーカー出身者」が転職活動で苦戦している。その大きな原因となっているのが「給与」である。大手ゲームメーカーとデベロッパー企業とでは給与に大きな格差があり、年収にして100万円近く差が出ることがある。このため、デベロッパー企業は大手メーカー出身者の受け入れに慎重になり、求職者側は妥協を強いられる格好になっている。発注側(パブリッシャー)と受注側(デベロッパー)という立場の違いから、求められるスキルが異なる場合も多く、「大手メーカー出身」であることが必ずしもプラス要因になるとは限らないようだ。

 新たなサービスとして注目されるのがソーシャルアプリとiPhoneアプリだ。「mixiアプリ」の登録ユーザーは述べ5362万人(2009年11月)に達し、「セカイカメラ」など日本発のiPhoneアプリが世界中でヒットを飛ばしている。こうした新たな流れを受け、これまでPC/モバイル向けの受託開発を行ってきた企業を中心に、新たな参入を決める企業が増えている。求人数としては微増程度だが、今後注目の分野といえる。

ゲーム業界の特徴

 ○ 堅調な採用ニーズを維持
 ○ 次世代機向けゲーム開発経験者を積極採用
 ○ カジュアルゲーム、オンラインゲームが好調
 ○ Flashクリエイターの需要が拡大
 △ mixiアプリ/iPhoneアプリなど新たなジャンルが登場
 × 大手パブリッシャーからの人員の流出で選考ハードルが上昇

営業/バックオフィス系職種:経理の採用ニーズが目立つ

 不況のあおりを受けて各社が営業力強化を図る中、営業職や営業力のあるエンジニアは高い需要を維持してきたが、11月からは新たに携帯電話販売ショップを中心とした店長・店長候補の求人が増加した。携帯電話の普及が飽和していることに加え、機種本体の割賦支払方式導入によって新規販売台数が減少し、ここ数年で店舗減少、業界淘汰(とうた)が進んでいる。その結果、一部の成長企業は他社閉鎖店舗エリアへの出店、店舗拡大を進めるため、異業界(アパレル業界など)出身でも営業成績をあげられる販売力やマネジメント力のある人材が求められている。

 バックオフィス系職種の中では、圧倒的に経理/財務職の採用ニーズが高い。「上場企業での実務経験」「IPO準備経験」「開示報告書の作成経験」などの条件が目立つ。リーマンショック以降、株式の上場を見合わせてきた企業が、上場に向けて準備を再開している傾向がうかがえる。ジュニア層(20歳代)の求人が最も多く、次にシニア層(マネジメント層)が求められている。ミドル層(30歳代前半)は苦しい状況が続く。また、シニア層(マネジメント層)ではマネジメント経験、内部統制、税務会計、原価計算業務などを十分に経験している必要がある。

求人媒体:出稿件数は増加、単価は下落傾向

 求人媒体への広告出稿状況を見ると、回復傾向にあった10月と比較して、広告出稿(受注)件数は増加したものの、単価は下落に転じた。採用活動を再開する企業が確実に増えている一方で、「まずは手ごろな企画」で様子を見ようとする傾向が強い。

 また、すでに求人広告を出稿している企業によるオプションの利用が目立った。特に、DMオプションは一定の効果が期待できるとして人気が高い。しかし、新たなオプション購入には消極的であり、購入済みのオプションを使用するケースが多かった。

 官公庁やクレジット系の案件を保持している一部のITアウトソーサーでは比較的堅調に採用活動を行っているが、こうした企業は全体の2割程度。年末で終了するプロジェクトから戻ってくるエンジニアの多さに頭を抱える企業が多く、求人ニーズの本格的な回復にはまだ時間がかかりそうだ。


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